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フロンの冒険・その二

自分がもし異世界に行くなら欲しいチートなんかを考えると地持ち悪い顔が鏡に映ってることがある。しょうが無いね。


読んでいただいた皆さんに感謝を!


「おはよう」


「「おはようフロン」」


次の日、フロンは革の服を着て小さなナイフを腰につけた恰好でやってきた。まだ装備に着られている感じだけど、装備品自体の質は悪くない。それにあの腰のナイフ…。


「そのナイフはこの街で買ったのか?」


「いや、このナイフは僕の家から持ってきた。上着とかの防具はレグルス…前のパーティーの人たちが買ってくれたの」


…何だか本当に前のパーティーメンバーは良いやつらだったんだな。普通ここまでしっかりとした装備まで買ってあげてるとは。


「ナイフがどうかしたの?」


「いや、大事にしろよ。ナイフもだけどその上着、軽いけど堅い。いいもんだよ」


「………そっか」


自分の着ている上着を少し引っ張るフロン。装備以外の準備はあんまり出来ていないが……そこを自覚するのもフロン自身の問題か。


「よし、装備は問題ないな。混む前に行こうか」


「うん、どこに連れて行ってくれるの?」


「いろいろ考えたけどフェルムルの森へ行ってみようか」


「フェルムルの森?」


不思議そうな顔をするフロン。まだこの街に来てそこまで日が経っていないんだろう。


「あれ、行ったことないのか?」


「う、うん。前のパーティーはカリサレ野しか行ったことがないから」


カリサレ野は危険な生き物が少なく、街からも近いし毒草の類いも生えていない。子供なんかもお小遣い稼ぎに野草を取りに来る初心者にはピッタリの場所だ。

どうやら俺の思う以上に前のパーティーはフロンのことを考えてくれていたらしい。


「フェルムルの森はカリサレ野と違って危険な生き物、植物が多い。とにかく俺のそばから離れないように」


「う、うん、わかった」


「大丈夫か兄ちゃん?まだフロンには早いんじゃないか?」


「俺が手伝うところは手伝おう。まずはフロンに出来ることを見つけたい」


「僕に、出来ること?」


「尻込みするならやめとくか?」


「え?」


不安そうに俺を見つめるフロンと心配そうな顔をするアルト。俺だけなら危険は無いけど初心者と一緒は初めてだし心配するのは分かる。


「無理に冒険に出る必要は無い。まだ子供なんだから…怖いんだろ?」


「別に怖くない!」


むんっと気合いを入れるようなポーズを取るフロン。怖いことを認めることも大切なんだが、緊張しすぎるのもダメだけど嘗めてかかるのもよくないな。


「なるようになるか」


「え?」


「何でも無い。早く出ようか」


「うん!」


荷物を背負い直してフェルムルの森に向かう。その後ろからフロンがついてくる。

……久しぶりだな、この感じも。


フェルムルの森へ向かうにはカレサレ野を抜けなければならない。カレサレ野では新人やら、子供たちやらで賑わっている。


「あれ、ギルのおっさんと…レグルス?珍しいな」


カレサレ野の外れにギルのパーティーとレグルスのパーティーが並んでいるのが見える。どちらのパーティーもカレサレ野のレベルでは無いし、稼ぎ的にもここはあんまりおいしい場所ではないはずなんだが。


「!……ん?」


此方の視線とたまたまこっちを向いたレグルスの視線が合う。レグルスは一瞬驚いた顔をした後どこか不機嫌そうな顔つきなった。


「レグルスさん、兄ちゃんのこと完全に怒ってるよあれ」


「いや、別にあいつにそんな怒られるようなことした覚えは無いんだけどな……」


「いや、昨日あれだけ集っておいて!?」


「どうかしたのリト?」


「いや、何でもない。さっさとここを抜けるぞついてこい」


「うん!」


俺とフロンはフェルムルの森の方向へ抜ける。その間も見てはいないが視線がずっと背中に刺さっていた。




「うにゃあぁあ!」

「よく叫ぶなぁ」


「うわぁあぁあ!」

「スパインだな。糸を出して獲物を捕らえる。害は無い。糸は貴重な素材になる」


「にゅわぁああ!」

「バードムだな。木に穴を開けて巣を作る。卵がうまいんだよ」


「ぴゃぁあああ!」

「おお珍しい。アプールだよ。噛み付いてくるから注意が必要だけど皮をむくと甘いんだよ」


フェルムルの森についたフロンは初めて見る生き物に翻弄される。あまり叫んで欲しくはないんだけど。


「兄ちゃんなんか最初の頃おしっこ漏らしてたよね」


「思い出させないでくれ!アルトだって泣き叫んでただろ?」


「あ、あれは……ちがうよぉ……」


隣でつぶやいたアルトの頭を叩く。俺もアルトも初めての冒険は散々だった。思えばあのときから俺達の冒険のスタンスは決まったんだよな。


「ここが、フェルムルの森……!」


「その第一層だな。基本的にフェルムルの森は全部で三層ある。第一層の森の周り、第二層の中枢、そして第三層の地下だ」


バードムにつつかれて逃げ帰ってきたフロンに説明する。知識は力、覚えておいて損なものは何一つ無い。


「地下?森なのに地下なの?」


「それは知る機会があれば教えるよ。基本的には第一層が俺達の活動する場所だ」


フロンはナイフを片手に持ち、さっきまでアプールに噛み付かれていた肩を撫でる。革のおかけで皮膚までは噛み付かれてないいないな。


「よし、それじゃあフロン、お前に依頼しよう」


「い、依頼?」


あの後もしばらく森を歩きながら森の生き物や植物の説明をフロンに行う。森を歩きなれていないせいかフロンの少し息も上がっている。


「このフロンの森にはいろんな所にヨモジの葉っぱって言う野草が群生してる。その葉っぱをフロンには見つけて貰おう」


「いいけどでも、僕ヨモジの葉なんて知らないよ?」


「へ?怪我したりとか傷が出来たとき前のパーティーでは使わなかったのか?」


「うん、基本的には薬を使ってたから」


……前のパーティーは本当の本当にフロンの事を大切に扱ってたんだな。怖いくらいに。普通入ってきたばかりの子供に値段も高いも薬は使わないだろう。


「あー…ちょっと待てよ、確かこの辺に」


背負ったバッグの中身を漁る。ヨモジの葉は湿らせると簡単な傷を塞ぐのにちょうどいいくらいの粘膜を出す。擦り傷や切り傷が出来たときには誰もが使うから基本的には常備してたはず。


「あった。ほい、これだな」


バックから取り出したヨモジの葉を渡す。フロンはそれを手に取りながら匂いを嗅いだりする。


「これがヨモジの葉?葉っぱの形が変だね…匂いも独特だし」


「そうだ。ヨモジの葉は星形をしてるから他の葉よりも見分けやすい。それに匂いも出ているからそれを目安に探してもいい。これを探してくれ」


「分かった、すぐ見つけるから!」


気合い入ってるなぁ。さっきまで叫んでたとは思えないけどテンションだけど、テンションで疲れを誤魔化せるのもどこまでだろうな。


「そうだ、後探してる途中は俺は手伝わないから」


「そ、それくらい分かってるよ」


「だからさっきみたいに噛み付かれたときも手は出さない。一人でなんとかしてみろ」


「え」


ついさっきの糸に絡まり、つつかれ噛み付かれたことを思い出したのか少し顔が青くなる。


「とりあえずこの森の一層のめぼしい生き物は見せたからそれを踏まえて頑張ってくれ」


「えぇ…」




「あーもう!じゃっま!」「ひぃっ!糸!?」「またこいつ!か、み、つ、くなぁ!」「痛い痛い!リトぉ!」「ふぇっ?何か踏ん……ぇええ」「リ、リト!なんか飛んでる!こんなの見たことないよ!」

「離してぇ!なんか暖かい!生暖かいよ!?」



日がすっかり空の天辺を廻る頃には森の外でうずくまるフロンとそれを眺める俺達という構図が出来上がっていた。


「見事な冒険だったな」


「…………」


「まさかワームンまで出てくるとはな。あれは焼いて食べたらうまいんだよ」


大きさが三メートルくらい有る芋虫だ。生き物の汗や老廃物をなめ取る不思議な生き物でフロンも頭以外を丸々飲まれていた。


「…………」


「そ、それにワームンに飲み込まれると幸運が舞い込むなんて言い伝えも有るんだぞ?」


「………ぐすっ」


泣いてる!?


「……はぁ兄ちゃん、フロンの立場で考えろよ?全く知らない気持ち悪いいもいもした奴に腰まで飲まれてベチョベチョ。なんとか出来そうな人はそれを見てるだけ、トラウマもんだぞ」


「正直ワームンが出てくることは想定外だった。すまないと思ってる」


「……ひっぐ、ふぐ、えぐ……リト」


「はい」


「こっち来て」


「いや、ベチョベチョしたくないし」


「ひっぐぅうぅ!」


「うわぉこの状況でよく言えましたね兄ちゃん。僕もびっくりだよ」


呆れた顔のアルト。いや、でも俺もあんまり汚れたくないし…。


「お前も」


「げ、元気だせよワームンに飲まれるってほんとに珍しいんだぞ?な?」


「お前もベチョベチョにしてやるぅぅうう!」


「「うわぁあああ!」」






同日、日もすっかり落ちた頃フロンとともに街に帰ってきた。森で取ってきた野草や果実、お金に換えられるものを換金しに換金場に向かう。


「ほら、元気出せよフロン。誰だって最初はあんなものだって」


「……うん」


換金を終えて酒場に向かう。フロンの元気は無い。あの後も噛まれつつかれ飲み込まれ、結局ヨモジの葉を見つけるのに一日かかった。


「……ヨモジの葉っぱて安いんだね」


「あー、まぁな。何だったらカレサレ野にも生えてるしそんな金にはならないな」


「僕はそれを見つけることも出来なかった」


「慣れだよ、俺だって最初は見つけられなかった」


「飲み物やご飯の準備も忘れていた」


「けどもう忘れないだろう?またあれ食べたいのか?」


ぶんぶんぶんぶん!


凄い勢いで首を振る。ご飯の準備を忘れた結果現地調達になったフロンはご飯の大事さを忘れることはないだろう。


「あの時のフロンの顔やばかったな。兄ちゃんを凄い顔で睨んでたし」


「うーん、そんなにまずくないはずなんだけどな……」


「味云々よりあんな見た目の生き物食べたくはないよぅ。リトはゲテモノ好きだからわかんないだろうけど!」


涙目で叫ぶフロン。そんなに嫌だったのか、スパイン。八本有る足はカリカリしてるし体は外側カリカリ中身とろっとしてるのに。


「……結局、リトの足引っ張ってばっかりだったし」


「いや、むしろフロンのお陰で珍しい奴もたくさん仕留められたんだし、お前の才能かもな!」


「才能?僕の?」


「そう、囮の採用」


がぶっ!


「いたぁっ!腕に噛み付くな!」


「僕はお前がワームンに飲まれたときの笑い顔を忘れない!」


「離せ!やめろよ!」


がぶがぶがぶがぶ!


道の真ん中で俺の腕に噛み付くフロンの姿は非常に目立っていた。


「リト、道の真ん中でいったい何をしているんだ?」


「あ、ギルのおっさん」


しょうが無いのでフロンを噛み付かせたまま酒場に向かって歩いていると正面からギルのおっさんが歩いてきた。後ろにはおっさんのパーティーメンバーのギオンとラリアがついてきてる。ギオンは筋肉ゴリゴリのつるつる頭。無口だけどのりは非常に良いせいで冗談か真面目かの判別が難しい。ラリアはギルのおっさんのパーティーの紅一点、艶やかな赤い髪が綺麗だ。ぺったんこだけど


「おいおい、どんな状況だ。何で腕に女の子噛み付かせて歩いてんだお前」


「…え?女の子?誰が?フロン?」


「僕だよ!」


噛み付いていたフロンが離れる。その顔は信じられないものを見たような顔をしてる。


「嘘でしょ?嘘だよね、まさか一日一緒に動いて男だと思われてたの僕!?」


「…………」


「兄ちゃん、あんまりそういうことに興味ないからなぁ……知ーらない」


「おいリト、あんまりこういうこと言いたくないがそういう事をするにしてもその子供は小さすぎるんじゃないか?」


「違う!僕はリトに冒険を教わっただけで……」


「『ピエロ』に冒険を……少女、悪いことは言わないが師事する相手を間違ってるじゃないか?」


「ギオン、失礼でしょ?いくらリトとは言え、『ピエロ』とは言えこんな小さな女の子相手にひどいことはしないわよ……多分」


「いや、むしろ嬉々として変なことしそうだぞ?昨日も酒場でレグルスから集っていたらしい」


「あぁ?ギオン何言ってるだ。俺は集ってねぇよ。相手の方からお詫びだって差し出されたもの貰ってるだけだ」


「……相変わらずだよねぇ、ほんと」


「あー、とりあえずいつもの酒場に行くか。リトも一緒にどうだ?」


どんどん場の収集が収拾がつかなくなってきたためギルのおっさんが仕切る。と言うかギオンとラリアはその発言覚えたからな。


「そうだなおっさん。あー、すまないんだけどフロンも一緒に連れて行ってもらっていいか?後から俺は合流するよ」


「え、リト来ないの?」


不安そうな顔をするフロン。一日の冒険で随分と懐かれたものだ。


「少し買い物をするだけだ。後からすぐ会うさ。ラリア、頼める?」


「はいはい……ほら、こっちおいで。私はラリア。あなたの名前は?」


「……フロン」


「フロンちゃんね。……リトに変なことされなかった?」


おいこらそこ。


「べちょべちょにされて放っておかれた」


「「「えぇ……」」」


フロンの言葉に三人とも俺を冷たい目で見つめる。

いやいやいやいや、伝え方に悪意がありすぎる!


「さっさと行ってこいよおっさん!後から行くから!フロン、迷惑はかけるんじゃあないぞ!」


四人はわいわいと話しながらいつもの酒場に向かっていった。

四人の姿が見えなくな俺も準備を整える。


「さて」


「気を遣わせたかな?」


「別にそういう訳じゃない。気にするな」


「ありがとう」


「それで?何のようだ。レグルス」


俺の後ろから話しかけてきたのは昨日酒場でフロンをパーティーメンバーから外したレグルスだった。


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