第3話 昔の話
前世の私は女流剣士だった。名前は思い出せないけれど25歳の時、車が目の前に迫ってきてるところで記憶が無くなっているからこの時亡くなったのだろう。
転生したと気づいたのは5歳になって本格的に剣術を学ぼうと祖父に連れられて訓練場に行った時だった。そこで訓練を眺めていた私は祖父に「なぜ刀がないの」と聞いた瞬間、様々な情報が頭に流れ込んできた。
こことは全く違う景色に文化。ずしりとした重みに独特の緊張感。幼い頃から練習してきた型の数々。薄れゆく意識の中で私は転生というものをしたのだと理解した――
次に目を覚ました時に見たのは泣き腫らした顔のエルと心配そうな表情の祖父だった。私が起きたと気づいたエルに抱きつかれながら一週間も高熱で魘されていたと聞いた。服が肌に張り付いて気持ち悪かったのは覚えている。お風呂に入ってさっぱりした後、エルを宥めていると祖父から刀とは何かと聞かれ私は前世について話した。
特に刀の構造や何からできているのかを聞かれた。武器マニアの祖父のことだ。この世界にない武器に興味があったのだろう。
『レオリクエス!!! お前の言っていたカタナが出来たぞ!!!』
まさか私兵団が懇意にしている鍛治職人に頼んで再現するとは思ってなかった。驚いて固まっている私にワクワクした様子で鞘を渡してきた。戸惑い気味に鞘から刀を引き抜いた私は息を呑んだ。ずしりと重みのあるそれは正しく刀ではあったが見たことの無い金属出てきているのか黒く、芸術作品と言っても過言ではないほど美しいものだった。
『すごい…きれい』
うっとりと眺めながら呟くと祖父は嬉しそうに笑った。
それから刀に使われていた金属は非常に貴重なもので下手したら島一つを買える価値があると分かったり、切れ味が良すぎて使い方を誤った部下が流血事件を起こしたりと色々なことがあった。
そんなことを体験しながら前世の記憶を活かして着実に実績を残していった私にはあるふたつ名がついた
髪や服、武器に至るまで全身を黒で包み、特殊な動きと武器で圧倒的な強さと獰猛さを誇り、大陸最強と謳われるヴァレンタ私兵団にもかなう者がいない獣……“黒狼”
誰が初めに言い出したのか分からないけれど今世でも騎士としてそこそこの有名人になった。