第2話
屋敷に着いてすぐ私は兄、エリシエラが居るであろう書斎へ足を向けた。すれ違う使用人たちは私に気づくと驚きつつも挨拶をしていく。
少し慌ただしい気がするが普段通りなのを見て緊急事態ではないと分かり安心した。書斎の扉を叩けば中からどうぞと声が聞こえてから扉を開けると珍しく険しい表情をしたエルが居た。
「エル、何があったの?」
「お茶を用意したから届くから飲みながら話そう。」
その言葉に頷いて部屋にある応接セットのソファに座るとエルは私の向かい側に腰を下ろし用意されていた紅茶をカップに注いでいく。
手渡された紅茶を一口飲んでから改めてエルを見た。
優雅に紅茶を嗜むのはエリシエラ・アリア・ヴァレンタ。今世の双子の兄。少し癖のついた艶やかな黒髪にワインレッドの瞳を縁取るまつ毛は世の中の女の子が羨むほど長く頬に影を落としている。中性的で浮世離れした顔にそこはかとなく漂う色香。エルの無気力な態度はそれを更に助長していた。
同じ黒髪と赤い目を持っていても私には色気というものがない。転生してそこそこ整った顔に生まれたとは思うが別次元の美人顔の兄と並ぶと平凡。私自身、動くのに邪魔だからと膨らんできた胸にサラシを巻いて髪も低く纏めるだけの男装姿で武器片手に暴れ回る始末。これで色香がつくとは思ってもいないしつける気もないので問題は無い。
…私の話は置いておいて。
エルは依然として険しい表情のまま。常に感情を表に出さない彼にしては珍しいことだと感じる。なかなか内容を切り出さないのことからも私には聞かせたくないのだと安易に想像がつく。
エルの気持ちを汲みたいのは山々だが報告を待っているであろうマック達の為にも無駄な時間を過ごす気は無かった。
「エル」
「・・・・・・リエスに王宮から召喚状が届いた。
『 “黒狼” レオリクエス・アリア・ヴァレンタ
リートラフ王国王ライゼクス・レリック・リートラフの名のもとに王宮へ来ることを命じる』
だって」
渋々といった感じで紙を読み上げたエルの言葉に息を呑む。まだデビュタントもしていない者が王宮に呼ばれることなど滅多にない。しかもなぜ呼ばれたのか理由が書かれていない。エルも私と同じことを思ったのだろう面倒だなとため息をついていた。