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ある婚約者たちのお話まとめ

ある伯爵令嬢の独白は。

作者: 梅奈こじろ

今年最後です。

ある侯爵令息の呟きは。の裏話みたいな感じです。

何て言ったって可愛いのだ。





今だってそう、遠くからこちらを軽く睨むその甘い顔が。何も本気で憎んでいるような鋭さは皆無である。むすっと拗ねている幼い子のような、そんな愛おしい表情の婚約者に思わず笑みが溢れる。近くにいた幼馴染みたちに気持ち悪いものを見たような目をされたが気にしない。優先すべきは、あの可愛らしい婚約者を愛でることなのだから。






小さいときから彼は天使であった。今よりも明るいブロンドの癖毛を肩まで伸ばし、はにかみながら笑う彼は冗談抜きで天使だった。いや今でも天使に変わらない。婚約の申し出はあちらからだが断る理由なんてなかった。王家になんか嫁ぎたくなかったし。大人はその気だったようだが道具になどなるものかと時間を稼いでいたところに丁度きた申し出。乗らない手などなかった。よかったのだ、あのうるさい幼馴染みたちを押しつけられるよりは遥かに。



***



綺羅びやかな夜会が苦手な幼馴染みのためにいつもの場所へ移動する。そいつがあの可愛らしい婚約者を挑発するように腰に手を回してきたが拒否をしない。むしろありがとうだ、あんな拗ねた顔を久しぶりに拝めた。美少年万歳、生まれてきてくれてありがとう。



夜会も佳境を迎えているであろう時間、ある幼馴染みが語りだす。

が、こちら的にはうわの空であることを見逃していただきたい。可愛らしい婚約者のさきほどの表情を思い出すので大忙しなのだ。


そこへ王家代表として出席されていた第二王子殿下がお忍びでやって来た。王家の代表として特例の出席だが後ろでそろそろ婚約者を定めろ、という圧があるのだろう。それには若干の同情は生まれたが正直どうでもいい。

キラキラと輝かんばかりに笑顔を携えながら近づいてくる殿下には失礼ながら何のトキメキも感じられない。すると殿下はにやりと口角を緩ませる。


「なんか柱の後ろでごそごそやってたけど?」


主語など必要ない。興味があるのは婚約者だけだ、と知っている相手との会話が如何に楽なことか。


「あら可愛い」


無遠慮に微笑むと回りがざっと一歩引いた気配が。


「お前それしか言えねえのかよ」


「可哀想、こんな変態女に気に入られてしまって」


「黙ってくださる?」


ちょっと行ってくるわ、と声を掛けその場を後にした。






やはりここだと思った。足が自然に動くのは長年の勘だろうか。

茂みの中に佇む天使。ダークブロンドの髪の毛を後ろにひと纏めにしたその姿は大人と子供の不安定な境目を漂っているようで目が離せない。


背後から抱き締めてやり、せがまれるまま膝枕をしてやると大きな瞳を色っぽく細めた。鼻血が出てしまいそうなほど可愛い。ああ可愛い。





「ねえ、私の一番はあなたしかいないのよ」


囁いてやると満足げにしていた表情はどこかへ。不機嫌に眉を顰め頬を桃色に染めた。


「もっと、、、言わなきゃ嫌い」


あざといっ!が、これでいい!これが許される外見なのだ。これがもし腹黒第二王子などであれば躊躇なく踏みつける。想像しただけで背すじがぞくりとした。


「あなたの婚約者でいられて幸せよ」


艶やかな髪の毛にそっと指を滑らせるとしばらくそのままされるがままの婚約者。しばらくすると徐に身体を起こし、尊いご尊顔をこちらに向けて瞳を潤ます。何だ何だ、今夜は出血大サービスデイなのか。


「、、、好きは?」


初めて会ったときは年下の天使だと思った。愛らしい、柔やわとした弱く穢れのない存在。自らが道具にならないための打開策、都合のよい存在。


「好きよ、大好き」


幼い頃、よく後をついてきて年上に馬鹿にされ、悔し涙を溢していた弟のようだった婚約者。守ってやらねば、ただそれだけであった。


「それだけ?」


それだけ?いいや、言い足りない。低かった背丈はぐんぐん伸び、いつの間にか追い越されていた。明るいブロンドの癖毛は相変わらず、甘い顔立ちもそのままであるが雰囲気は変わった。気品があり、秀才。剣の腕も幼馴染みらと競えるほどだと聞く。少し素直でなく計算高い面もあるが、二人きりになると不意に出される色気に何度惑わされたことか。

この、大切にしたいと強く思う感情。これに名前をつけるのならばきっと。


「愛しているわ、ずっとね」



「、、、ほんと?」


ぱちりと瞬く彼に、ゆっくり頷いてやる。柄にもなく頬が熱い。


「僕だけ愛してくれる?」


「他に誰を、こんなに愛しく思わなくちゃいけないの」


「、、、、、僕も愛してる」




きゅん。赤らめた上目遣いに胸が弾んだ。






何て言ったって可愛いのだ。年下の婚約者が毎日毎日愛しくてたまらない。彼は直接言わないが年上に張り合うため一生懸命努力している。冷たい言葉を言いつつ本心は別である。可愛い女の子を侍らせていても、実は扱いが分からずむしろ苦手である。甘い顔立ちがコンプレックスであり、他にも猫が苦手。刺激の強い食べ物も苦手。ダンスを誘うのも上手でない。けばけばしい宝石やドレスのデザインも嫌い。だから、好みに合うようにドレスを作らせているのを知られるわけにはいかない。彼にとって常に余裕ある年上でなければいけないのだから。








婚約者に見られないようほくそ笑む。純粋無垢な可愛い可愛い彼のことなら何でも、すべて、知っている。





この子はいつも神秘的と言われる微笑みを浮かべているのですが、十割婚約者のことを考えていたり、いなかったり、、、。

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