感情の影 2
まぁ身を任せたのが間違いだったのか、ほむらの行動は更にエスカレートしていき、最近では一緒に寝ようとまで言い始める始末だ。
俺も思春期男子なので変に意識してしまうせいか、断ってはいるものの自分の理性がいつ消えてしまうのかが分からない。
いくらほむらが良いと言ってもそれに乗る訳にはいけない、彼女が盲目であることをいい事に俺は手を出すことは絶対にしたくないのだ。
そんな事を考えていたらそれを察したのか、ほむらは優しく俺の体を優しく抱いてくれた。
「どうしたの?今日辛いことでもあった?」
先程とは違い、耳元で優しく囁いてくれる。体の温かみとその優しい声は少し憂鬱な気分を無くしてくれた。
「いや、そういう訳じゃないんだ。ありがとうほむら」
「うん。いいよ、こっちこそ毎日ありがとうね。それはいいとして」
「ん?」
「ねぇ、このままキスしてもいい??いいよね?お礼でしてもいいよね?ね?」
「空気ぶち壊すの得意だなお前はぁ!!」
神崎家から帰宅するといつものほむらの絡みで少し疲れが溜まってしまっていた。自室にすぐに戻り服を投げ捨てる。
そのままの勢いでベッドに横たわり明日から学校というのを思い出してしまう。
放課後からでしかほむらに会えないというのは少し寂しい感じもするがそれはもう俺もほむらも慣れているだろう。
明日からほむらの両親も仕事が忙しいと言っていたし俺が体を拭くのとご飯を食べさせなくてはいけない。
俺の両親はほむらにそこまでする必要はないと口酸っぱく言っていて俺の学校の成績などを気にしているのだった。
なにが気に食わないかわからないが間違っているのではないかと思う。
俺のことを心配してくれているのだろうが俺は自分よりほむらの方が心配なのだ。
そんなことを思いながら少しづつ瞼を閉じていくのであった……
杖を小刻みに地面に突きながらゆっくりと前に進む小柄で短髪の女の子が道路を歩いている。
右手で器用に杖を突きながら左手は塀を辿りながら少しづつだが進んでいる。
そんな彼女の後から猛スピードで走ってくる大型トラックがその女の子にそのまま追突する。急ブレーキをかけたせいかタイヤが擦れてゴムが焼けた匂いと女の子から出る血の匂いが事故現場から漂ってくる。
女の子は体を震わせながら声にならない声で誰かの名前を呼ぶがその名前が誰なのか知ることは出来なかった。
妙にリアルな感覚。まるでそこに居るかのように現場の熱や空気感が伝わってくるのが分かる。
体が動かないのは夢だからか?それとも体が強ばって動けないのかは定かではないが、夢であるのは何故か分かっていた。
夢が夢であると分かることはたまにあるがこんなに感覚があるのは初めての体験だった。
(ここは何処だ?廃ビルのとこの交差点か…?)
そこでゆっくりと目の前が暗くなっていき、徐々に目覚めの時が近づいていく…
「うぁあ!……はぁ、はぁ、ぁ、夢……?」
チュンチュンと小鳥が鳴いている爽やかな早朝。アラームが鳴る5分前に息を荒々しくしながら起きてしまう。
生々しい夢を見た気がする。あまり覚えては居ないが夢に出てきた女の子は間違いなく毎日会っている女の子にそっくりだった。
夢で嗅いだあの血生臭いが今でも臭うかのように鼻を刺激してくる。
「ぅう、気持ち悪い……妙にリアリティのある夢っていうか胸騒ぎがするって言うか……」
とてつもない嗚咽が襲ってきて嫌な予感がする。そう思う他なかったのだ。
だが、たかが夢でそこまで気を背負うことがあるのだろうか?今までも気持ち悪い夢なら何回も見た気がするし、気にする事はないのかもしれない。
そう思いつつも俺は早めに支度を済ませ、夢に出てきた女の子の家に向かうのであった。
「私が交通事故?ないない!外に出ないのにどうやって大型トラックに引かれるのよ。」
馬鹿にされてる気分だ。けたけた笑いながら言うことか?
「お前な…人が親切に気をつけろって言っただけなのにそんな煽るように返すか普通!?」
目元がピクピクしながら夢に出てきた張本人、ほむらに対して少し怒り気味に怒鳴ってしまうがほむらは謝るつもりはないらしい。
冷静に考えれば夢で見たから気をつけろ。なんて気が触れているに等しいのかもしれないと今更ながら気がついてしまう。
それほど私のことが心配なんだと言わんばかりに、ニヤニヤしているほむらを後目に俺はカバンを持って部屋から立ち去ろうとする。
ドアの前で立ち止まって息を少し整えてから気持ちを落ち着かせ彼女にはもう一回だけ注意することにした。
「外に出る時は…なんだ、気をつけてくれよ?俺に電話掛けれたらかけてくれな?」
「分かってるわよ。心配かけさせてごめんなさいね?蓮キュン?」
ほむらに聞こえるように1つため息をついて俺は部屋から出ることにした。