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貼る・張る・春……。
下らないけれど…今の私の現状がいっぱい詰まった「はる」のオンパレードだ。
「ねえ…もう少しそっち引っ張って、ピンとさせないと。あっ!そこの少年!お姉さんにそこにある画びょうを取ってくれないかい?」
なんの因果か…会社を辞めてアパートでぼーっとしていた私は、実家の姉に引き摺られて市の中心部にある街中広場の催事スペースに来ている。
ちなみに…今日はフリーマーケットだそうで、出店するらしい姉に無理やり連れてこられた。
「なんで私が……お姉ちゃん、このポスター斜めになっているよ?」
自らの作品を出展物にする姉は、ここ…日本ではなく海外で有名になった画家だ。
一応、日本でもその道に詳しい人(一部マニア)にも知られてはいるらしいけれど……。
古着やアンティークの物を売りつつ、自分の作品も是非…という商魂たくましい姉は、このフリーマーケットで、自宅に収集した物を全て売り払い、それを資金の一部に充て渡欧するらしい。
まぁ…ぶっちゃけた話…活動拠点を婚約者のいる海外に移す為の、処分市のような物だ。
割り当てられたスペースに物を並べつつ文句を言うと、ため息を一つつきお小言を一つ。
「リサイクルショップとかで売ればよかったのに……」
「あんたにもバイト代として出すんだから、ちゃんと働いてよね。それに、人をみて失礼な査定をする人がいたりするから嫌なの!」
過去にも引越しの為に、いらない物・興味のなくなった物を処分しようとしたらしい姉は、その時に遭遇した『失礼なリサイクルショップの店員』を語りだす。
古物商とリサイクルショップを経営している所だったので、査定等を安心して任せたはずだったのに、査定に来たのは、どう見てもアルバイトのお兄ちゃん。
おまけに、査定も碌にせず部屋の中をざっと見ただけで言ったらしい。
「三万円です。そこから運搬費・出張費を頂きますので、差し引き二万五千円になります」
海外の友人からも『引越し資金位にはなると思うよ』と言われていたアンティークのコーヒーカップやランプをサラッと……ホントにサラッと流されそうになったらしい。
金額だけ言い放ち、いそいそと荷造りを始める業者にストップをかけ、腑に落ちなかったけれど出張費を払って帰ってもらったらしい。
それ以来、その辺にポンポンと湧くリサイクルショップは信用できなくなり……こうして、自らの手で売る事を決めたらしい。
ちなみに…一応、古物商取引の免許も持っている。……私が。
世の中何がどうなって、自分が犯罪者扱いされるか分からない。
毎年の事ながら、そこそこの売り上げが上がる姉のフリーマーケット。
一応、一定以上の売り上げは申告しなければいけない決まりがあるので、今年もいつものように駆り出された。
そして、こんな仕分けも私の仕事。
姉の出品物の中の一つを手に取り、『売らない物入れ』に仕分ける。
そう……売ってはいけない物の選別だ。
「あっ……お姉ちゃん…。この箱は売らない方がいいかも」
「中に指輪が入っていると思うんだけど、それは?」
「それは大丈夫。その指輪はその箱の物じゃないみたいよ?」
頭に直接聞こえる言葉を姉に伝える。
この私の不審さ満点の行動を、なんの疑問もなく受け入れる姉は凄いと思う…。
「了解。あとで理由判ったら教えてね」
そう言って、いそいそと来店したお客さんに愛想を振りまき始めた。
●○●○
桜の花びらが散る中、着々と売れていく物をみつつ、少し早い休憩に入る。
「お姉ちゃん、勇樹が来たからちょっと交代するね」
私と同じ理由(…といっても、弟は売り子専門だけど)で駆り出された弟が来たので交代する。
少し遅いお昼と…少しその辺をぷらぷらしてこようか…そう思って準備していると、勇樹がフリマ情報を教えてくれた。
ここに来る前に軽く他の出店も覗いてきたらしい。
「美里姉ちゃん、入り口入って右奥辺りに古書の店が出てたぞ。それと、広場に入る手前に出見世出てたから、お土産よろしく♪」
ちゃっかりした弟の情報をありがたく貰い、出入り口に向かいつつあちこちのお店を覗く。
今年は例年にない『フリマ日和』なせいか、みんなそれなりに勢いがある。
「去年は確かすっごい暑かったんだよね。その前は始めは良かったのに、今ぐらいからお天気が崩れて雨だったんだよね…」
独り言を呟いていても、この人出の中では掻き消されてしまうせいか、誰も振り向かない。
美里的には独り言ではないのだけれど…この状況ではどう見ても独り言になってしまうのはしょうがない。
だって、この肩に乗るこの子は私以外には見えないから。
姉や勇樹にも見えないこの子は、どういう存在なのか未だによく分かっていない。
三年前……会社から帰ってきたらいつの間にか居た。
ただそれだけ。お祓いとかした方が良いのかと思い、神社や教会に行ってみたけれど、払ってもらえるような存在ではなかったらしい。
色々と悩んで、怪しさ満点の霊媒師なる人の所にも行ってみたけれど、状況が変わる事はなく……。
どうこうするのを諦めて今に至る。
「別に害があるわけでもないしね。気が向けば色々教えてくれるから良いんだけどね」
ほぼ溜息と言って良い独り言を言いながら、目的の古書を扱うお店に到着。
街中にある古本屋とは違う雰囲気にちょっとドキドキする。
直射日光をさけ、虫干ししているかのように並べられている本はどれも古い洋書…。
それもだいぶ古そうな物ばかりで、こんな所に出店する意味が分からないラインナップだった。
「おや?……珍しいお客様だ」
そう呟き私の肩辺りを見るのは、ここの店主であろう『おじさま』と呼んでも差し支えのない雰囲気を持った品の良い初老の男性だった。
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