第八話
~2100年4月9日 7:00 首相官邸~
「私は今ここにNPOC統括学園長として非常事態を宣言する」
【NPOC非常事態宣言】
NPOCは太平洋上にある孤島である。よって全ての生活インフラや防衛システムをNPOC内で補う必要がある。(詳しくは第4話内「NPOCサーバーセキュリティーシステム」を参照)それ故にサイバー攻撃などでシステムがダウンしてしまえばNPOCは自身を守るすべを失ってしまうのである。これは敵国などがNPOCに進行、占領等の危険性を伴うものであるため、NPOCには非常事態宣言というものが存在しているのである。
・非常事態宣言の特徴
NPOC非常事態宣言(以下宣言)は日本本島や連合国各国にNPOCが非常事態に陥てることを知らせるものである。
宣言が発せられれば直ちに日本本島の各自衛隊基地や米軍基地から応援が駆け付けNPOCの防衛に当たる。
また宣言が発せられると同時にNPOC司令部内では「非常事態対策本部」が発足する。(これについては以後詳細に説明する)。
このように宣言が発せられるということは非常に重い意味を持つため、宣言をする権利はNPOCでただ一人、統括学園長のみに与えられている。
「統括学園長…本気で非常事態を宣言されるおつもりですか?まだ時期尚早かとも思いますが」
「東君!君もさっき言っていたが、メインサーバーとセキュリティーシステムがダウンしていて、かつ予備サーバーも起動できない。今NPOCはすべての機能を失っているのだよ?これは壁や屋根がない家に住んでいるのと同じことだ、意味が分かるかね」
「壁や屋根がない家ですか…壁や屋根がなければ遮るものがないですから雨風を防ぐことができない…」
「そうだ。今NPOCまさに雨風、つまり敵からの攻撃を受けたとしても防ぐ手立てがない。120万人の命を雨風にさらしているのだよ。こんな状況を統括学園長の私は見過ごすことができない。目を背けては駄目なんだ」
「統括学園長…申し訳ありません。非常事態の宣言承知しました。ただちに非常事態対策本部を発足させ関係各所と連携を図ります。でなんですが、統括学園長が今NPOCにいらっしゃいませんので非常事態対策本部を指揮する者がおりません。いかがいたしましょうか」
「そうだな…今回のサイバー攻撃や一連のシステムトラブルはすべてNPOCサーバー関連の非常事態だ。となればNPOCサーバーを常日頃から管理しているシステム管理課の人間がやるのが妥当ではないだろうか…。東君、君に非常事態対策本部を任せたいと思う。お願いできるかね」
「わ…私ですか…?」
【非常事態対策本部】
統括学園長の非常事態宣言を受けNPOC司令部内に発足する臨時の部署である。通常各部署から1~2名が派遣され情報収集や住民の安全確保等を行う。
・非常事態対策本部長
非常事態対策本部を運営する長である。通常、統括学園長がこの任に就くが特例として次の二点の場合は別の者が務めることもできる。
①統括学園長がNPOCに不在の時
統括学園長が本島への報告や国際会議に出席している際に非常事態宣言が宣言されると、一刻を争う対応に遅れが出る可能性がある。これに考慮しNPOC司令部の中から1名に統括学園長が非常事態対策本部長を委嘱することができる。
②統括学園長よりも適任である者がいる場合
事件というのは人の負の感情から起きることが多い。人の感情は主観的要因と環境的要因が組み合わさり決定される。この環境的要因には自分とは違う人間=他人も含まれている。NPOCは学園、つまり教育現場であるがゆえに集団生活を余儀なくされる。この時生徒同士や生徒と教師など裏方で働く司令部の人間にはどうしても踏み込むことのできない人間関係、信頼、絆が存在してしまう。
非常事態の根源がNPOCに在学する生徒である場合のみこの「適任である者」が非常事態対策本部長になる事ができるとされている。
非常事態対策本部長はその責任の重さから統括学園長と同等の権限、つまり教育、政治、軍事においての絶対的力を与えられる。
なお過去30年間非常事態宣言が宣言されたことがなかったため非常事態対策本部が発足したこともない。つまり今回の発足が初であり、非常事態対策本部や非常事態対策本部長のシステムに欠陥があることも否めない。
「頼む東君、君にしか頼めない事なんだ」
「そ…そうですか…分かりました。謹んでお受けします」
「そうか!やってくれるか。それでは東非常事態対策本部長、よろしく頼む」
「お任せください」
「東君」
「はい?なんでしょうか統括学園長」
「あともう一つだけ頼みたいことがあるのだが」
「分かりました。何なりとお申し付けください」
「実は、非常事態対策本部のメンバーとして迎えてもらいたい生徒が二名ほどいる」
「生徒ですか?」
「あぁ、彼らは優秀な生徒だ。きっと力になるだろう、私はまだそちらに戻れそうにない。彼らに会って交渉してくれないか」
「分かりました。それでその生徒たちの名前は?」
「~~~と~~~だ」
「わ…分かりました。それでは失礼します」
「よろしく頼んだぞ、東」
「はい、お任せください」
急な思い付きで彼らを非常事態対策本部に推薦したが大丈夫であっただろうか。いや…きっと彼らなら大丈夫だろう。この事件を解決に導いてくれる、そうに違いない。
「西郷君、ちょっといいかね」
「はっ、はい…申し訳ありません総理。長電話失礼しました」
「いや、それについて構わないが…非常事態宣言を宣言するとの事だったが…」
「そうでした…」
非常事態宣言は私が総理に宣言した時点で効力を発する。まだ東に指示を出しただけなので今は厳密に言うとまだ非常事態宣言は効力を発していない状態だ。
「児玉総理、現時刻、7:07に私国立太平洋学園統括学園長、西郷俊は非常事態を宣言いたします」
「そうか…分かった。非常事態宣言を受諾する。日本国政府は直ちにNPOCの防衛に全力を挙げることをここに約束しよう」
「ありがとうございます」
「さぁ、これから忙しくなる、アメリカ大統領にもこれを報告しないと。おい、誰か。今すぐクリントン大統領と電話会談がしたい。準備を」
「畏まりました」
NPOCから非常事態が宣言された場合、日本国自衛隊と米国空軍の援護がただちに開始される。これには総理から米大統領にNPOCが非常事態を宣言したことが伝えられる必要があるため、総理はただちに米国大統領に電話会談を申し込んだのだ。
「総理、クリントン大統領とお電話がつながっています」
「あぁ、ありがとう」
そういうと総理は私や政府関係者などここにいる者全員に大統領との会談が聞けるように受話器をスピーカーにした。
「クリントン大統領、急な会談の依頼申し訳ありません」
「お久しぶりですね児玉総理。緊急のお願いがあると聞いていますが何があったのですか」
「実は先ほど日本時間7:07に国立太平洋学園から非常事態宣言が宣言されました」
「なんと…非常事態の内容はなんですか」
「NPOCメインサーバーへのサイバー攻撃によるシステムダウン、またそれに伴う革命国からの進行を懸念した非常事態宣言となっています」
「革命国が…とうとう奴らが動き始めましたか…被害の状況は」
「現在NPOCメインサーバーがダウンしているため鉄道自動運転システム、学園内通貨システムを含む生活インフラや防衛システムが全て機能していません。またセキュリティーシステムもバージョンα、βともにダウンしているため機能しておりません。これにより予備サーバーを起動すると再びサイバー攻撃を仕掛けられる可能性もあるため予備サーバーの起動も困難な状況となっています。幸いなことに人的被害の報告は受けていません」
「かなりひどい状況ですね…分かりました、米国もNPOCの非常事態宣言を受諾しただちに空軍を派遣します。あとサイバー攻撃と言いましたね」
「はい、NPOCのサーバーは米国防省の検閲システムを経由しています。通常であれば外部からのサイバー攻撃など不可能だと思われるのですが…」
「そうですね…念のため国防総省にも検閲サーバーのチェックを命じておきましょう」
「ご協力感謝します」