第七話
【連合国と革命国】
2100年現在、世界は連合国と革命国の対立が続いている。巷では、いつ第三次世界大戦が勃発してもおかしくないと囁かれている。これからも分かるように世界情勢は非常に緊迫している。
・歴史
今から50年前の2050年、米国は宇宙開発を重点政策とし研究開発を加速した。当時の取り決めでは宇宙はどの国にも属さず人類の発展のために万国が平等に扱うものとされていた。米国も研究開発開始当初はこの取り決めを遵守し、様々なデータを収集、各国に開示していた。
時は流れ2057年、この年米国は急遽宇宙研究に関わるデータ開示を中止とした。これに各国は猛反発、米国に対する経済制裁などを加速させ、世界経済が停滞する事態までに陥った。これから2060年までの世界的不景気は後にダークスペース(黒い宇宙)と呼ばれている。
2060年、ほとんどの国が米国への経済制裁を解除し、世界経済は3年前の水準まで回復してきていた。こうして世界は平穏な日々を取り戻したかのように思われたが、しかし後に60年文章と呼ばれる告発文章が公開されたことでこれが一変することになった。
告発文には米国が58年以降今日まで各国に宇宙開発のデータを開示する見返りとして経済制裁を解除するように取引を行った証拠がはっきりと記されていた。
この文章が発覚し激怒したのは言わずと知れた革命国であった。革命国は米国に経済制裁をかけずあくまで対等な関係として宇宙開発のデータを開示するように幾度となく交渉をしてきたが断られてきており、この各国の裏切りに激怒した形であった。
2063年、革命国は宇宙の所有権を主張。これに各国が反発することとなった。しかし革命国はこれを無視しこの年の暮れ、本格的に宇宙開発を加速させた。
以後37年間米国含む連合国と革命国の冷戦状態が続いている。
・連合国
アメリカと60年文章で明らかになった取引相手の国々の総称。
(加盟国)アメリカ・日本・EU諸国・カナダ・ロシアなど
・革命国
世界第一位の人口を持つ国である。同時に豊富な資源から経済大国であり、たった1国であるが連合国に立ち向かえるほどの軍事力を有している。
~2100年4月9日 6:45 首相官邸~
「西郷君、君さっき2つ可能性があるといったな。もう一つは何だね」
「もう一つは、『NPOC内部からの攻撃の可能性』です」
「お…おい!西郷君、君何を言ってるのか分かっていのか…」
「落ち着いてください総理、あくまで可能性の話ですから。『押して駄目なら引け』という言葉があるように『外からが駄目なら中から』と考えたまでです。こういってる自分も本当のところは分かりませんがね。ただNPOCになんらかの危機が近づいているのは分かります」
「『押して駄目なら引け』か…確かに様々な可能性を模索することは大切かもしれんな」
こうは言ったものの何が正解で何が間違えなのかは分からない。本当に革命国からの攻撃なのかどうかも怪しいところだ。
「西郷統括学園長、よろしいでしょうか」
「ん?あぁ…近藤が会議中に私を呼ぶとは珍しいな」
「申し訳ございません。事が事、あと今の会議内容に少なからず関係していますので一刻も早く報告をと」
「そうか、何があった」
「はい、先ほどシステム管理課東部長から報告がありまして、6:35頃NPOCサーバーがダウンしたとのことです。原因については現在調査中ですが…」
「サーバー攻撃か」
「はい、サーバー攻撃の可能性が高いとのことでした。現在鉄道自動運転システム、学園内通貨システムを含む全ての生活インフラ、防衛システムについてはセキュリティーシステムα、βともにダウンしたため復旧が困難とのことです。ただしUG3については別サーバーかつセキュリティーシステムも予備が稼働しているとのことで心配はいらないそうです。また、この状態で予備システムを稼働させるのはリスクが高いため統括学園長の指示を待つとのことでした」
「そうか…予備システムについてはひとまず保留としてくれ、報告ありがとう、下がっていいぞ」
「畏まりました」
「どうしたんだね西郷君」
総理が心配そうな顔をして聞いてきた。私は総理に近藤からの報告をそのまま報告した。
「なんだと…だがUG3が安全だというのならひとまずは安心か…西郷君これからどうするんだね」
総理の心配も無論理解できる。NPOCは今完全に無防備、太平洋のど真ん中に浮かぶ国家機密と化している。こんなの狙ってくださいと言っているようなものだ。
「今回の攻撃で一つはっきりしたことはやはり革命国からの攻撃である可能性が高い事ではないでしょうか…」
「確かに君の言う通りだな。これだけ大規模にNPOCサーバーを攻撃するのは革命国しかおるまい」
「はい、こう大規模にサーバー攻撃を起こせるのも、する目的を有しているのも革命国だけでしょうから」
「する目的というと?」
「先ほどご説明した通り現在NPOCは物理的防衛システムが稼働していません。これは先ほどのサーバー攻撃の影響です。サーバー攻撃を仕掛けNPOCを無防備な状態にする、これが何を意味すると思いますか総理」
「物理的防衛システムというと接近する敵機を撃墜する目的の自動連撃銃などのことだろう。これが作動していないという事は…敵機がNPOCの近くまで近づけるという事か?」
「ご名答です。総理がおっしゃる通り、敵機がNPOCに近づくのはもちろんですが、上空旋回や着陸も容易でしょう。こうなれば革命国軍がNPOCに進行してくる可能性も否めません」
そうだ…自動防衛システムがなければ敵機は好きにNPOCへの攻撃や着陸ができる。NPOCは格好の標的という事だ。
もし…もし革命国軍がNPOCに進行してくれば、NPOCに住む120万人の命が危険にさらされる。太平洋のど真ん中に彼らの逃げ場などないのだから…。私はNPOCが血の海になる所など見たくない…。
「近藤…」
「はい、どうされましたか統括学園長」
「すまないが今すぐ東に、システム管理課部長の東につないでくれ」
「か…畏まりました」
「西郷君、急にどうしたんだね。顔色もよくないようだが」
「申し訳ございません総理。NPOC司令部の方へ一本電話をかけさせていただきたいのですが」
「あぁ…もちろん構わんが」
「ありがとうございます」
「統括学園長、お電話つながりました…ど、どうされましたか手が震えてらっしゃいますが!」
「問題ない…」
私は小刻みに震える手を必死にかばいながら近藤から電話を受け取った。
「もしもし東か。私だ」
「お疲れ様です統括学園長。先ほどは急なご連絡失礼しました。何か御用でしょうか?」
「あぁ…NPOCサーバーの復旧のめどは立ちそうか?」
「それなんですが…復旧のめどは立たない、というのが今お応えできることです。理由としましてはやはりセキュリティーシステムがα、βともにダウンしてしまっているのが大きいかと」
「そうか…予備サーバーの方はどうなっている」
「予備サーバーはいつでも稼働できるように準備は完了しています。ただこれもセキュリティーシステムが稼働しない限り起動させるのは危険かと…予備サーバーがダウンすることはNPOCの終わりを意味しますから。統括学園長もよくご存じだと思います」
メインサーバーがダウンしている今、もし予備サーバーまでもがダウンしてしまえばもう代わりはない。そうなってしまえば東の言う通りNPOCは終わりだ…。
「予備サーバーについてはセキュリティーシステムが復旧し次第稼働する」
「了解しました。そのように準備を進めておきます」
「あと東…」
「はい、どうされましたか」
「今NPOCは過去に類をみない規模で危機に直面している」
「確かにその通りです。この後何が起こるか分からない、対策しようにも後がない。最悪の状況です」
「非常事態宣言だ」
「えっ…?」
「私は今ここにNPOC統括学園長として非常事態を宣言する」