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絶海学園(改稿版)  作者: 浜 タカシ
3/14

第三話

~2100年4月8日 16:00 US1 各層環状線US1駅~

「貴君、おなかすいてきた?」

「まぁ、こんなだけ歩けばな。優芽お前は?」

「優芽はペコペコすぎて倒れそう」


噴水公園から駅までは思いのほか距離がある。距離にして1kmほどだろうか?でもたったこれだけ歩いただけで倒れそうになる優芽の体には若干の恐怖を感じる…。


「2番線に到着の電車は各層環状線下りUS3駅行きです。危ないですから黄色い線の内側にてお持ちください」電車の到着を知らせるアナウンスが鳴っている。


優芽とはよくご飯に行くが最近は中等部の卒業試験や春休みなどなかなか多忙な日々を過ごしてきたので優芽とご飯に行くのも久しぶりになる。


「貴君早く乗るよ!早くしないとみんな食べられちゃうよ…」

「心配しなくても大丈夫だよ。バイキングなんだからたくさん作ってあるだろうし、優芽みたいにいっぱい食べる人もそうそういないだろうし」

「うっ…で、でも食べ物の恨みは怖いでしょ?もしもお店について私が食べたい料理が全部なくなってたら、貴君恨むからね」

「なんで俺が恨まれなくちゃいけないんだよ…。まぁ食べ物の恨みが怖いっていうのは優芽で痛いほど痛感してるからよくわかるけどさ」

「もぉー!貴君のバカ」


俺は優芽にポカポカと殴られながら電車に乗り込んだ。食べ物が絡むと優芽は暴れ馬になる…た…頼む、料理よ残っててくれー!


~17:00 US2 バイキングレストラン「トーマト」~

US2は商業エリアである。スーパーや書店などの様々な店やレストランがこの層には所狭しと立ち並んでいる。


【NPOCの構造】

NPOCは7層構造である。

・SS層(Sea Surface)

 NPOC最上層であり幼等部~大学院までの全教育課程のキャンパスがある層である。

 また国立太平洋学園国際空港、通称NPOCIA(National Pacific Ocean Campus International Airport)があるのもこの層である。


・US各層(Under the Sea)

上からUS1~3層と呼ばれ、海中にある層である。

(US1)

 学生寮や教職員寮が立ち並ぶ層である。学生寮からは広大な噴水公園を見渡すことができる。

(US2)

 別名商業層と呼ばれスーパーや書店などの店やレストランなどが所狭しと立ち並ぶ層である。

(US3)

 別名娯楽層と呼ばれショッピングモールや遊園地、プールなどありとあらゆる娯楽が集約された層である。


・UG各層(Under Ground)

上からUG1~3層と呼ばれ、地中にある層である。

(UG1,2)

 大学及び大学院の研究施設がある層である。

(UG3)

 多くの者がこの層に何があり何が行われているか知らない。それ故この層への立ち入りが許可されているのはNPOCの中でもごくわずかな人間のみである。



俺と優芽は小等部からの馴染みの店であるバイキングレストラン「トーマト」へと足を運んでいた。


「いらっしゃいませ。あっ、貴文くんに優芽ちゃん久しぶりね」


気品で小柄なこの女性は井上さくらさん。この「トーマト」の店主だ。優芽とご飯に行くときは決まってここの店に来る。(おなか一杯食べれるし…どうせ俺が二人分お金払わないといけないから…俺のお財布にも優しい)


「こんばんは!さくらさん」

「うふふ、まぁ座って座って。今日は優芽ちゃんの好きなパスタをいっぱい作っておいたわよ」

「ホントですか?もう我慢できない!貴君、優芽料理とってくる」


優芽はどんな食べ物でも美味しそうに食べるが特にパスタに目がない。パスタと聞いた瞬間目の色を変え、ドタドタと走りながら料理を取りに行ってしまった。


「相変わらず元気ね優芽ちゃん。貴文君も元気にやってる?」

「はい。でもまぁ僕の場合は優芽に振り回されているだけですけどね。今日も優芽を怒らしちゃって…大変でした」

「あらまぁ、また怒らしちゃったの…確かに大分疲れてるみたいね。…今回も大変だった?」

「いつもよりは幾分やりやすかったですけど…今回は精神的にやられました…」


そう言っている最中俺はさっきのあの黒歴史を思い出してしまった。うぅーっ…やっぱり穴があったら入りたい…


「うふふ、でも今回も仲直りできたみたいだし、二人は本当に仲良しね」

「そんなことないですよ」

「そうかしら?喧嘩するほど仲がいいって言葉があるでしょ?喧嘩してる最中は二人ともぎくしゃくしちゃって気まずいけどね、いざ仲直りしてみると笑い話にして二人で分かち合える、そしてより一層二人の仲が強くなる、喧嘩って相手の事を大切に思ってるからこそするものよ。だってそうでしょ?どうでもいい人の事を気に掛ける人なんていないもの。だから喧嘩できるっていい事だと思うけどな」

「そ…そうですか?」

「あらごめんなさいね、説教じみたことを…年かしらね」


あはは…とまぁさくらさんの人生講座を聞いていると優芽が両手いっぱい皿いっぱいに料理をもって席に戻ってきた。


「みてみて貴君!ミートパスタにたらこパスタ、カルボナーラもあったの!うわぁー幸せだよ私…さくらさん今日は春のパスタ祭りですね!」

「うふふ、今日入学式や始業式の日でしょ?だから優芽ちゃん達が来るかなぁーと思って作っておいたのよ。喜んでもらえて嬉しいわ」


確かに俺と優芽は毎年始業式の日に絶対来ている…流石さくらさん侮れない…。でもパスタの種類多すぎだろ…


「もう貴君、なにぼぉーっとしてるの!早くとってくる。じゃないと私先に食べちゃうよ」

「分かった分かった、取りに行ってくるから待っててくれよ?」

「もう!私を何だと思ってるの?今まで貴君の事待たずに食べ始めたことありますか?」


あ…あるから言ってるんだよ、この食いしん坊め!ホント失礼しちゃうぜ。


「そうだぁー貴文くん、今日煮物もたくさん作っておいたから遠慮なく食べてね」

「ほ…本当ですか?ありがとう、さくらさん!」

「うふふ、どういたしまして」


さ…流石さくらさんだ。俺はトーマトに来ると必ず煮物を食べる。さくらさんの作る煮物は絶品だ。なんて言うんだろう…おふくろの味?まぁ表現しようがないか…さぁさぁ煮物を取りましょうか…


「もぉー貴君おっそい!いただきます」

「おぉーい!さっき待ってくっていったばっかりだろこの食いしん坊!」

「だ…誰が食いしん坊よ!私がこんなに、こぉーんなにまってあげたのに食いしん坊ですって?もう知らない!さくらさんいただきます」

「えっ…あっ、はいどうぞ召し上がれ」


く…くそぉーこの食いしん坊には困ったもんだ…。ちょっとイライラしつつ、悲しみに暮れつつ食べたいものを一通り取り俺は席へと戻った。


「貴くん貴くん。このパスタすっごくおいしいよ」

「そうなのか?確かに美味しそうだな」


さっきのこと完全に忘れて幸せそうにパスタほおばってやがるこの野郎…


「貴君もちょっと食べてみなよ、ほらはい、あーん」


こいつ、天然なのか?さらっと恥ずかしいことをしてくる。こんなことで俺の怒りが静まると思うなよ…


「う…うまい!」

「でしょでしょ!」


くっ…案外俺って単純なのかもしれないな。悔しいが美味かった…(優芽のあーん…嬉しかったな…)


「あらあら、まぁまぁ」



「「ごちそうさまでした」」

「お粗末様でした。今日も美味しそうにいっぱい食べてくれてありがとうね」

「今日もおいしかったです!さくらさんの料理なら毎日食べても飽きないかも」

「うれしいこと言ってくれるじゃないの。またいつでもいらっしゃい」


「はぁー今日もおなか一杯になっちゃたよ」

「いや、お前は食いすぎだろ。太るぞ」

「あぁー女の子に絶対言っちゃいけないセリフ言ったでしょ。大丈夫私は太りませんから」

「そういうやつに限って半年後とかにすごいことになってるよな、だいたい」

「こ…この野郎!」

「うっ…うわぁー、や…やめろって優芽」

「待ちなさいこの女の敵野郎!」


くっ…なんで追い掛け回されなくちゃいけないんだよぉー!


~19:30 US2 各界環状線車内~

「はぁはぁはぁ…もう貴君のせいで危うく電車乗り逃がすとこだったよ…」

「俺のせいか…?」


トーマトから駅までひたすら追いかけ続けられ、危うく電車に乗り遅れそうになった、というのは本当の事だが…俺が悪いのか?


「まぁ…もうこれに懲りて私にちょっかい出さない事だよ?私の身も心もズタボロだよー」

「いやそれは優芽が」

「何か文句でも?」

「い…いえ、文句なんて滅相もございません」

「よろしい」


あぁー…こいつ将来鬼嫁確定演出だわ…可哀そうになこいつの旦那になる人…きっと尻に敷かれまくって死ぬまで肩身が狭い思いして…可哀そうに…


「ねぇ貴君?今ものすっごーく失礼なこと考えてない?」

「ひっ…いや…そんなことありませんよ優芽さん?」

「怪しいな…特に最初の『ひっ…』の辺りとか、さぁ私に隠し事しても無駄よ、洗いざらい話しなさい。その方がまだ罪が軽いわよ」


対に優芽が仁王立ちで俺の前に立ち上がった。周りの客もあまりの殺気に後ずさりしている。こ…殺される…


「キィッッッッーーーーーー」その時、大きな金属音を轟かせながら電車が急ブレーキをかけた止まった。


「きゃっ」

「あっぶない!」


仁王立ちで(鬼の形相をしていた)優芽は急ブレーキでバランスを崩し倒れそうになった。が間一髪のところでどうにかキャッチすることができた…のはいいが…なんだこの「ロミオとジュリエット」みたいな体制は…ま、また殺される…俺は体に力を込めた。


「た…貴君…あ、ありがとう…」


へっ?想像していた罵声でなく半べそ声が聞こえ俺はつい拍子抜けしてしまった。こいつ泣いてるのか?


「おっ…おいなんで優芽泣いてるんだよ」

「だ…だって…急ブレーキで吹き飛ばされそうになって、あやばいかもって思って、でもそしたら貴君が助けてくれて…最初は怖かったんだけど貴君が私を助けてくれて、なんだか安心しちゃって…何なんだろうね、えへ…自分でもわからないや…」

「優芽、だからいつも言っているだろう?電車内は危ないから立つなって」

「でも、貴君があんなこと言うから」

「乗車中のお客様に中央コントロールセンターからお知らせします。ただいま全環状線車両の自動運転安全装置が作動いたしました。つきましては自動走行が不可能ですので、遠隔操作で終点まで皆様をお送りいたします」車内アナウンスが入った。どうやら事故とかではなさそうで一安心だ。

NPOC内の電車はすべて自動運転である。でも今まで自動運転安全装置が作動したこと何て聞いたことはない。


「あのぉー貴君?そろそろ放してもらえるかな」


優芽に言われふと手元に目をやると、顔を真っ赤にし、体をもじもじさせている優芽の姿がそこにあった。


「あっ…ご、ごめん」

「い…いや別にいいんだけど…」


き…気まずい…こう言うときってどういう話すればいいんですかね。教えて誰かぁー!


「貴君、また助けてくれたね…ありがとう」

「えっ…お…おう、次からは気を付けろよ」

「うん!」


やっぱ駄目だな。こいつにはドキドキさせられっぱなしだ。


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