第二話
「すべての子供たちが安全で、未来に希望を持てるような学校を作ってください。これが私の最後の願い、そして遺言です」
かすれて、消えるような声だった…。
~2100年4月8日 15:00 US1噴水公園~
冷や汗と驚きの連続だった入学式も無事?終わり、噴水公園に来ていた。優芽とのバイキングに行くためだ。待ち合わせは15:00だが俺は10分前からスタンバイしている。なぜかというと俺はレディーを待たせることなどしない紳士だからだ。
えっ?嘘つけこの野郎、本当の事を吐けだって?はぁっ…ばれてましたか…はい、実は先ほど優芽お嬢様を怒らしてしまったためにご機嫌を取ろうとここにスタンバイしているわけであります…。頼む、機嫌を直してくれ、優芽…
まぁただ待ってるのも暇だからこの噴水公園について軽く調べるとするか…。
【噴水公園―NPOC US1(Under the Sea 1層)】
NPIOC US1に広大な敷地を有する公園。周りは学生寮が囲み、学生寮の各個室からは美しい緑が楽しめるとあって学生からも好評の公園である。
この公園のシンボルは名前の通り大きな噴水であり開校当初からこの学園の行く末を見守ってきている。噴水は毎時30分に吹き上がり夜になるとライトアップもされ、学生たちから人気のデートスポットの一つである。
噴水は毎時30分に吹き上がるのか…だったら15時になったばかりの今は吹き上がらないだろう…吹き上がれば優芽が
「うわぁー!貴君見てみて!噴水が上がってるよー!すごいねー!」
と馬鹿みたいに喜んで怒りを忘れてくれるかもしれなかったのに…残念。
そんな淡い希望を抱いていると学生寮の方から人影がこっちに向かってきているのが見えた。こっちに向かって大きく手を振っているようだ、まぁ…あの方しかいないよな…。
「おーい、貴くーん。お待たせ!待った?」
あれ…機嫌が直ってる?な…なにがあったんだ…今世紀最大のミステリーだな…まぁ下手なことをしなければまた逆鱗に触れることもないだろう。
「そうだなー…10分くらい待った」
「もぉー、そこは『いや、俺も今来たところ』ってイケボでいうところでしょ!」
「なるほど。優芽は俺にそんなことしてほしいのか。ふむふむなるほどなー」
「何勝手に納得してるの!」
「ほんと優芽はからかいがいがあるよな。」
いや優芽の反応面白すぎでしょ…俺はついついおなかを抱えて笑いこけてしまった。
「もう貴文さんなんて知らない」
あっ…やってしまった、というより調子に乗りすぎた…。
優芽はいつも俺の事を「貴君」と呼ぶ。でも優芽がガチギレモードになると呼び方が「貴文さん」に変わってしまうのだ…。このモードになった優芽の機嫌を戻すには最短でも一週間はかかる…。とほほ…また面倒くさいことになってしまったよー。
いや待てよ…確かこのモードの優芽の機嫌を取る方法が一つだけあったような、なかったような…
「おーい貴文さん。私怒ってるんですけど」
まずいな…優芽の露骨な「私怒ってますよ」アピールが始まってしまった。えぇーと…なんだっけ優芽の機嫌を取る方法は…えぇーと、あぁーと…
「優芽、お前あれだな、なんていうか、あれだよあれ」
目の前に迫る鬼(の形相の優芽)、フル回転させすぎた頭のオーバーヒート、貴文の頭は度重なる外部からの負荷に耐え切れずカオス=混沌とした世界に陥っていた。
その結果口からは理性の検閲を受けず次から次へと貴文が思ったことが漏れ出し始めたのだった…
「あれだよ、水玉のワンピースが優芽のシュッとしたラインを強調してて御淑やかに見えるし被ってる麦わら帽子がまだ春なのに夏を楽しみにし過ぎてる優芽の気持ちを表現してるようでなんかおもしろいし、その靴だっていつも履かないような厚底のブーツだから、一生懸命おしゃれしようとしてるんだなって思わせてくれてか…」
がしかしここで霧が一気に晴れ貴文の冷静さが=理性が復活を果たす。復活を果たした理性は自分がこの先言おうとしている言葉のあまりの恥ずかしさにエマージェンシーを発動!思わず口を押えてしまう
「ねぇ最後なんて言ったの?『か』しか聞こえなかったんだけど」
くそぉー聞こえてたか…もしも聞こえてなかったらこのまま何とかしてごまかそうと思ったんだけどな…
「ねぇねぇなんて言ったの?まさか…また私に聞かれて困るようなことを言ったんじゃないでしょうね…」
「い…いやぁーそんなことはないですよ…」
「だったらさっきなんて言ったか洗いざらい隠すことなく言えるわよね?まぁあ途中までは…褒めてくれてうれしかったけど…最後変なこと言ってたら…どうなるか分かってるんでしょうね」
「さ…さぁーどうなるのかなぁー」
貴文の頭は再びパンク寸前。しかし理性が必死に冷静になろうと冷却を開始、がしかし時すでに遅し…頭は再びカオス=混沌とした世界に陥ってしまった。
「か…可愛いって言おうとしたんだよ…ってうっ…」
吹き上がった噴水の音にかき消されそうなくらい小さな声で恥ずかしいワードをつぶやいてしまったが、すぐに理性が復活…ぎりぎり、いやアウトか…まぁ傷が深くならないくらいのラインで正気に戻った貴文は自分の言ってしまった言葉のあまりの恥ずかしさに穴があったら入りたい気持ちになっていた。
「へぇっ?貴君今何って言った?」
「あぁー!もう何でもない。ほら行くぞ」
貴文は恥ずかしさからこの場を一刻も早く立ち去りたく足早に駅へと向かうため歩を進めた。がしかし散々貴文に遊ばれた優芽がこんな望んでもないチャンスをおちおち逃すはずがなかった。
「ねぇーもう一回言ってよ。噴水の音でよく聞こえなかったからさ、ねぇ?もう…じゃあ仕方ないね、貴君が言わないなら優芽が言うよ『優芽、かわ…』」
「あぁぁぁぁぁー!聞こえませんね。何言ってるんですか」
「もう貴君。昔から照れ隠しが下手だよね」
「べ、別に照れ隠しじゃないし」
あー超絶恥ずかしい。なんであんなこと言ったんだろう。黒歴史がまた増えた…。
「ほら、貴君ぼーっとしてたら置いていくぞ?」
「はいはい、待ってくれー」