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鳥居をくぐったら、森の主になりました  作者: 千羽鶴
第六章 桜国編
99/114

99 想い


お稲荷さんの香りが漂う縁側と


「「あったか、うまぁ」」


桜茶でホッとひと息つく五十鈴どユグドラシル


「何から話しましょうか、ユグドラシルさん。私的には仮面と魔神についてしか聞くことがないんですけど」


「そうだろうね…。

仮面がユグドラシルの木で出来てるのは話したよね」


「はい」


「ちゃんとドライアドが渡してるんだよ、あの仮面は」


「けれど、ドライアドさんも過去のドライアドさん達も渡した事実がないと聞きました。

縁の糸を紡いだドライアドもいない、心をゆるした人がいないということ」


「それでも、ユグドラシルの仮面はドライアドが渡したものだよ。

渡したのは魔神にではないけれど」


「じゃあ、誰に…?」


五十鈴の言葉に返ってきたのは、にっこり笑顔だけ。これ以上は話せないということだろう


「話せないなら聞きませんけど、もうひとつ聞きたいことがあります」


「なんだい?」


五十鈴の脳裏に浮かぶのは笑みを浮かべ消えていった魔神達の姿


「魔神の見たい“願い”って、なんですか?」


その質問に、すっと視線を移し湯呑みの中の桜を見つめるユグドラシル

美しく湯のなかで揺れる桜


「実現できなかったもの。

あの時“こう”だったら、あの時“そう”あれれば。後悔に近いものかもしれない」


「“大切なものをなくしても生きる強さ”


青目の魔神はロロとスノウ、お姉さんの死を乗り越える強さを見て消滅

そして」


「「“家族から刃を向けられても家族だと受け入れる心”」」


五十鈴の言葉は、ユグドラシルとまったく同じ音を奏でた


「金の君に聞きたかったんだ」


穏やかな声でユグドラシルは五十鈴に問いかける


「なんで、烏天狗一族をゆるせたんだい?

彼らは様々な人を殺し、君の友人達であるエルフ達を苦しめていた。

それに、君は烏天狗一族とは関わりがなかったのに。なぜ?」


ユグドラシルの問いに答えたのは五十鈴ではなく、呆れた顔をしたコンだった


「関係あらへんよ。桜国の民を桜国主の五十鈴はんが助けて守ってやらへんで誰が助けるんや

五十鈴はんは、家族の罪を一緒に背負ってくれるお人で一緒に歩いてくれる人やで

自国の民やない、わいの事を助けた五十鈴はんを舐めないでほしいわぁ」


コンの言葉に五十鈴は顔が綻んだ


「確かに人をあやめたのに何もないだなんて、殺された人やその家族には恨まれるでしょう

それでも、殺したから殺した人も殺すなんて馬鹿なことですよ」


「馬鹿?」


ユグドラシルの指がピクリと動き、湯呑みが揺れた


「命の償いは命で、そう言うなら奪った以上に命を守り助けて生きていってほしいと私は思う

一生人のために生命のために誰かのために生きる

最後に誰か一人でも感謝してもらえたのなら、ちゃんと“生きて”いたのだと認められるのだから。

青天達は私と、私達と最後まで“生きて”いく。罪は一緒に生きていくなかで持って歩けばいい


それに、家族をゆるしたのは私達じゃなくてドライアドさん達ですし。

質問する相手は私じゃないですよ」


ね、ドライアドさんっと襖の方に顔を向けると、襖の前で会話を聞いていたドライアドが姿を表した


「ふふ、ばれてましたか」


「襖に影がありましたよ、バレバレです。」


ドライアドさんの後ろで人が投げ飛ばされてる影も見えて、部屋で何が起きてるのか気になるけれど


ドライアドはユグドラシルの横に座り、ユグドラシルをじっと見つめた


「私はエルフ達、五十鈴様、桜国の方々、皆様が大好きです。

桜国の民が私の民をエルフを襲った事実は消えません。

そして、五十鈴様達と過ごした時間も消えないんです」


「ドライアドちゃん、それだけでゆるせたの? だって身内を殺されてるんだよ?」


頼りない顔がドライアドを見る、その表情にドライアドは笑ってしまった


「ふふ

フィアやリーリエの他のエルフ達は黒翼の者を恨んでいました。

でも、五十鈴様がエルフ達に、私に烏天狗は私の家族だ罪は一緒に背負う

それでも恨みがはらせないなら腕だろうと足だろうと持っていってもかまわない。


でも、命だけは差し出せない。

この命は家族達にあげたからと言ったときに思ったんです。


命には想いというものもあると」


さわさわと風が桜の花びらを運んでくる。

五十鈴は会話を聞きながら、落ちてくる花びらを手を広げて受け止める


「エルフ達の恨みは何も生み出さない、エルフ達もそれに気づいたんです。

青天様達の命には五十鈴様や桜国の方の想いが宿っている。

そして、私達の命にも同じように五十鈴様達は想いを宿してくれている。

同じ想いを宿した同士、一緒に生きていく事が正解だと思っただけですよ」


これで答えになりましたかと言おうとしたドライアドの言葉は、キラキラと光る雫に飲み込まれた


「ゆ、ユグドラシルさん。泣いて、いや笑ってる?」


ポロポロとユグドラシル瞳からこぼれる涙が桜茶に落ちていく。

泣いているのに口元に笑みを浮かべ、目元がくしゃりと歪む


「そっか、“(いのち)い”か」


目元をハンカチで拭っても、次から次に溢れてくる。そうやって拭いていると、その手を握られた


「金の…いや、五十鈴ちゃん。僕の事はトネって呼んで」


「トネ?」


「かつての友が僕につけてくれた名前、五十鈴ちゃん達に呼んでもらいたいんだ」


シアン色の瞳が涙に濡れたからか、キラキラと瞳が輝いている。早く呼んでと問いかけるように


「えっと…これからよろしくお願いします、トネ」


「僕の方こそよろしくね」


きゅっと握手すると、スパーンっと襖が開く。

目の前にはフィアとリーリエ、部屋のなかを見るとお皿は綺麗に片付けられていた


「「お風呂行きましょう!」」


ドライアドとの温泉が楽しみなのだろう。

桶に手拭いにアヒル、ではなくソラのビニール人形を抱えている

その後ろの部屋では、火花と雪音、梅と椿の四人が五十鈴の背中を流すのは自分だと、にこにこ笑顔で会話中だ。

先程の影が飛んでた真相が判明した

五十鈴も温泉に入るために立ち上がる


「五十鈴ちゃん、全ては“真ん中”だよ。これしか言えないけど覚えておいて。

それと、ドライアドとドライアド“ちゃん”は違うから名前をつけてあげてほしいな」


それは、どういう意味だと聞く前に五十鈴は皆に拐われるようにして温泉に連れていかれた



「僕は、かつての友達ではなく今の友を大事にするよ。彼女は君と同じようにはならない。


悲劇は終わりだ」




************




「これが温泉!」


「どうですか?」


「素敵です、暖かいです」


嬉しそうに笑いながら温泉に浸かるドライアド、その姿を見ると桜国に来れてよかったと思う


「ドライアドさんが喜んでくれたならよかったです」


そう言うと嬉しそうに笑っていたドライアドの顔が不満げな表情になる


「五十鈴様、私も名前呼びをしてもらいたいのですが」


「?」


「ドライアドは、私一人だけですけど。これまでの、これからのドライアドは全てドライアドです。

私は五十鈴様と縁の糸を紡いだドライアド、ユグドラシル様のように私が私だとわかる名前がほしいんです。

ユグドラシル様も友に名前をつけてもらったと言っていましたし」


ダメでしょうかと聞くドライアドに思わず吹いてしまう


「し、真剣な話ですよ!笑うなんて」


「いえ、可愛らしいなと思っただけですよ」


ドライアドに可愛いいと言っただけで、周りの女子軍の私は?私は?って感じの視線が凄いので可愛い可愛いと言っておく


「ドライアドさんにぴったりの名前、思い付きました」


「ほんとですか!」


「はい “リース”なんてどうですか?」


「リース、ですか?」


「はい、リースとは、花や葉っぱなどで作られる輪っかのことです。

リースには終わりの無い丸い形からエンドレス「永遠」という意味があり、幸福がいつまでも続くようにという願いが込められているんですよ」


「リース…とても気に入りました。ありがとうございます五十鈴様。

さんはつけないでリースと呼んでくださいね」


気に入ってくれたようだ。


それにしても

ドライアドに名前をつけてと言っていたけれど、どうしてでしょうか…

ドライアドにドライアドちゃん…そういえばトネは会話の中でリースの事をドライアドと呼び捨てにはしてなかったけど、トネの知ってるドライアドは呼び捨てでした…


「鈴ちゃん鈴ちゃん」


「なんですかマルラ?」


うーんっと、どんなに考えても答えがでないことで頭のなかをフル回転させているとマルラが五十鈴の肩をちょいちょいっと叩いた


「七日後は“星降る日”だけど、桜国は何するの?」


「星降る日?」


聞いたことない記念日に首をかしげる


「星降る日って言うのはね、一年で一番星がよく見える日の事

空から星の光を吸収した空気中の薄い魔力がキラキラ小さく光って降り注ぐ日だよ。

降り注ぐ光のなかで願い事をすると叶うって言われてる。おとぎ話だけどね

でも、すっごく綺麗なんだ」


七夕に似てる


「星降る日って、なにかしないといけないんですか?」


「何かしなきゃいけないわけじゃないけど、一年に一度だから。

国によって何かしてるかもね。実際、魔国ではなにもしてないよ、星を見ながら食事するぐらいかなぁ」


桜国ではっと聞こうと思いましたけど、結界で閉じ込められてたから無理か


「よし、桜国では七夕やりましょう」



********




布団の横、寝る前にセーラー服を持ち上げる


「もう卒業したのにね」


そう言いながらスカートを畳もうとすると、コロリと畳みに転がりそうになった物をソラが受け止める


「ありがとう、ソラ」


「◎」


ポケットから落ちたのは小さい折り畳み式の丸い鏡、上下に鏡がついてるコンパクトミラーだ

初めてのこの世界に来たときに目の色を確認したとき以来使っていない


「おばあちゃん…」


この鏡は祖母からもらったものだ。

祖母の名前はかぐや、名前の通り若い頃はかぐや姫のような女性だった。

写真でしか見たことないけれど、年を取っても綺麗だったからほんとに綺麗なんだと思う。

お祖父ちゃんはどうやってお祖母ちゃんをものにしたのか気になるところではある


「たしか、ここのでっぱりを押すと」


鏡の縁にある小さいでっぱりを押すと、上の鏡がパコリと外れる


「?」


「押し花だよ」


不思議そうなソラに説明する

外れた鏡の後ろにあるのはラミネートされた押し花。

大中小の花が並んでいる


「おばあちゃんが大切にしてた押し花と鏡。亡くなる前に、役目は終わったからって鏡と押し花は私に渡してきたんですよね」


役目ってなんなんでしょうかね

そう考えながら押し花を戻して鏡をはめる。

パチリと鏡を畳んで枕元に置いた。部屋を照らす光を消してから布団にはいる


「ソラ、お休み」


五十鈴とソラが布団に入り眠ったあと、ナビの文字が宙に浮かぶ


≪懐かしい鏡ですね…≫


≪おやすみなさい、五十鈴様。よい夢を≫






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