96 移ろい
ゲホゴホと噎せるユグドラシルの背中をゆっくりとさする。
白目を剥き始めたユグドラシルに気付いた五十鈴が急いで助けにはいったおかげでなんとかなった…
「私ったら嬉しくて、申し訳ありません」
恥ずかしげに顔を両手で覆うドライアド。
華奢で恥じらいのある乙女に見えるが、乙女の皮を被ったゴリラである
「あ、うん。大丈夫だよ、うん」
混乱してるユグドラシルの両肩に手を乗せて、悟った微笑みを浮かべる五十鈴
「ユグドラシルさん、現実を見てください。ゴリラはどこにでもいるんです。
むしろ、私の国はゴリラの生息地です」
「考えたら敗けだと世界が言ってる気がするよ…。
とりあえず、話しの続きをしよう
縁の糸は無事にドライアドちゃんに紡がれたから、転送魔法が展開できるはずだよ。
二人の思い入れのある場所にあると思うんだけど、思い当たる場所はあるかい?」
「思い入れのある場所ですか…」
「五十鈴様と私の…」
エルフ国の主殿じゃないとすると、やっぱりあそこか
「ふふっ、五十鈴様も同じところを思い浮かべました?」
「大変でしたからね。あの場所で家族が増えましたし」
「私の家族を助けてくれた場所でもありますから、思い入れがある場所はあそこですね」
「「元封印場所」」
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「ずいぶん綺麗になりましたね」
壊れた柱は元通り
中心は円形に石畳があり、その回りに色とりどりの花が咲き誇っている。
ちょうどエルフ達が花の手入れをしていたが、此方に気付くと笑顔で会釈をして離れていった
「あのままでは危ないので片付けました。綺麗でしょう?」
「言ってくれれば手伝いましたよ。大変じゃなかったですか?柱とか粉々でしたし」
その言葉にふるふると左右に首をふるドライアド
「この場所は私達が片付けたかったのです。
ここはエルフが憎しみにとらわれた場所。
人がエルフに手をさしのべた場所。
そして、エルフと人が本当の意味で手をとった場所。
このエルフ国で、とても尊い場所。
私も、エルフ達もそう思ったから私達の手で直したかったのです。
ここに咲いてる花達は、私とエルフ達が一人一人植えた花なんですよ」
色とりどりの花が風に揺れて踊る、まるで植えた人達の心を表すように
「ドライアドちゃん、桜国に行きたいって心から願ってごらん。
転送魔法が展開されるだろうから」
「はい」
ドライアドの手の甲が光り出し、桜国とエルフ国の印象が浮かび上がる。
エルフ国の印象は始めてみたが、ユグドラシルが描かれてるようだ。
そのまま二つの印象は石畳の中心に吸い込まれると、エルフ国の印象は消えたが桜国の印象は中心に描かれ、その場に残った
「無事に桜国と繋がったよ、これでドライアドちゃんは桜国に行ける。
あの印象の上に立って桜国を思い浮かべれば行けるんだけど、もうひとつしないといけなくて…最初にドライアドちゃんを金の君が引っ張ってあげないと、手しか桜国にいけないんだよ」
「「…手だけ?」」
転送魔法のある地面から生えてる手…どんなホラー?アダムスさん家じゃん
「うん、手だけ。一度引っ張りいれれば次からは大丈夫だよ
最初に縁の糸が繋がるのは手なんだ。だから手だけ通るし、その手を繋いで引っ張りいれれば繋がるんだよ。
桜国にもエルフ国の印象が浮かび上がってるはずだから、金の君はその印象から飛び出てるドライアドちゃんの手を引っ張ればいいだけ」
「一度確認してから行った方がいいですね、突然桜国に手を生やされても困りますし…。
準備ができたら狐面から連絡するので、そしたらにょきっと手を出していただければ」
「では、私はここで待っていますね。」
わくわくと背後に文字を背負いながら、手に桜国産の柚子の香りハンドクリームをぬりぬりしている
出しすぎたのか私の手と自分の手を合わせてぬってき…多っ、手と手を合わせたらべちょりって感触が…
私はユリに分けましょう。
私の手からユリに、ユリからソラにまでいきわたって柚子の香りが充満してる。
四人揃ってハンドクリームを伸ばす光景がシュールなのか、ユグドラシルが笑い出したので、ユグドラシルの手に四人でハンドクリームを塗りたくる。
「ちょうど今日の夜、青天達に何があったのか聞こうと思ってたので、ドライアドさんはそのまま夕飯も食べてってください。
ユグドラシルさんは…」
あれ、そういえば
ドライアドさんは来れるけれど、ユグドラシルさんは来れるのだろうか?
「行けるよ。
まぁ、世界樹の側にいなきゃ行けないから分身みたいなものだけどね。
それと、そろそろ手がふやけそうなんだけれど」
「答えられなくてもコレとかについて知りたかったんですが、ドライアドさんが楽しそうなので後で聞きますね。
ハンドクリームでふやけてるのではなく、ソラがユグドラシルさんの手をふやかしてるんです。お茶目でしょ?」
ハンドクリームを練り込んでた手を離して魔神の仮面を取り出す。
コレについては後々質問するとしよう。答えられることだけでも答えてくれれば問題なし
手に持つ仮面を見たユグドラシルは、ニコリと笑みを浮かべた
「それについては少しぐらいなら話せるかな。あと、お茶目にしては僕の手がべしょべしょなんだけど」
「楽しみにしてます。ユリ、ソラ、帰りますよ。
ソラはそろそろ離してあげてください、ふやふやになってますから
ドライアドさん、桜国までお願いします。」
いまだにエルフかドライアドさんがいないと国に帰れない。少し不便だけど慣れると気にならない
そう思いドライアドに声をかけると、何かを思い出したのかドライアドさんが詰め寄ってきた
「忘れていました!」
「なにがですか?」
「つい最近、ガッツ様に手伝っていただいて作ったんです!特定の人だけをエルフ国に行ける扉を」
「ああ、チモ草の旨さを知った伝説の日ですね」
作ってほしいものがあるって、ガッツがフィアに連れて行かれた日
その時に手をつかんでガッツを連れていくフィアを見てアイリーンが号泣。
泣きわめくでもなく、なにかを言うわけでもなく。
ポロポロと涙を流すから、女の涙は武器って間違ってないなって思ったんですよね
まぁ、すぐにフィアの手から素早く自身の手を抜いてアイリーンに駆け寄ったガッツはイケメンだったよ…。
しかも、指で優しく涙をぬぐったり抱き寄せたり。
会話とかさ、もうね…
何で付き合ってないんだろうって皆が思いましたからね。
最終的にアイリーンと手を繋いでエルフ国に行きましたし
無意識に皆してチモ草をかじってましたよ、あの時だけはチモ草が美味しく感じる麻痺がおきましたからね…
「ガッツ様とアイリーン様が形を作ってくださったので、後は設置する場所に私が転送すれば完成します。
好きな場所に設置できるので、五十鈴に決めていただこうとおもって」
「じゃあ、転送魔法の近くにでも設置しましょう。どんな形なのか楽しみです」
五十鈴の返事と共に、ドライアドが掌を前に出す。
「おいで」
その一言で表れる高さ300cmぐらいの茶色い鳥居、蔦が巻き付いてて、エルフ国仕様だ。
鳥居の前には木彫りの狐が二体置いてある、しかも
「スナさんの顔…」
とても可愛い…。ガッツさんにお礼のお菓子をまた作らないと
「この鳥居はユグドラシルの木で出来ているので、私が認めた人であれば通れます。
悪意あるものは弾かれますから安全ですよ。
通ると桜国の入り口から出ますから、通ってすぐに国の中です」
「向こうからここに来る時はどうすれば?」
「通るときに思い浮かべれば来れらようにしてあります」
「魔法国と同じですね」
桜国の入り口ネットワークすごいな…魔法国とエルフ国って…
種族的なもののおかげでワープシステムが付けられてるんですよね…
******
「準備ができたら連絡します」
「マスターもソラも俺も、あんたが来るの楽しみにしてるからな」
「☆」
そういって五十鈴達は鳥居をくぐった。
ドライアドはそれを見送ったあと、ユグドラシルに目を向ける
「五十鈴様に誰かを重ねて見ているのですね。そして、ほんの少し警戒している」
ユグドラシルは見つめてくるドライアドの瞳から目をそらす
「そう、だね…彼女は似てるから」
「似ている?」
「僕の大切な友達に…」
何処か遠くを見るように空を見上げるユグドラシル
「似てるから怖くなった。また、悲劇が起こりそうで…」
「…ユグドラシル様は過去に囚われているのですね」
「囚われる?」
「過去の悲劇に囚われているのでしょう?」
ユグドラシルとドライアドの間に風が吹く、草木が揺れ草の擦れる音だけがその場にながれていた
ユグドラシルの記憶の中にある思い出したくない記憶がフラッシュバックする
「僕はまた…。見守るしか出来ない、それだけしか出来ない。
そして、また…」
悲劇にっという、ユグドラシルの言葉が紡がれる前にドライアドが喋りだす
「悲劇になどなりませんよ、絶対に」
「どうして…言いきれるんだい?」
そんなユグドラシルの言葉に、風に遊ばせた髪を靡かせドライアドは笑った
「だって、五十鈴様が悲劇になどしませんから!」
絶対に大丈夫、あの方ならっと瞳で言うのだ
その時ユグドラシルは、ドライアドの黄緑の瞳が光り輝いて見えた。
悲劇の記憶が吹き飛ぶほどの光り。見つけたのかもしれない、世界の歯車を
「そっか…悲劇にはならないか」
止まっていた、錆び付き朽ちるはずの歯車を動かせる歯車が
やっと、やっと世界に現れたのかもしれない…
「だから、ユグドラシル様も囚われずに生きてくださいませ」
黄緑色の瞳がきらきらと輝かせ生きろと言う
「君が生まれた時点で、歯車は回り出していたのかもしれないな…」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
ドライアドが不思議そうな顔をしていると、ちょうど五十鈴から連絡が来た
少し会話をしたドライアドは急いで転送魔法の印象に手を伸ばす
「いって参りますねユグドラシル様」
「うん、いってらっしゃい」
ちゃぽっと、水に手をいれるように沈ませるドライアド。
「きゃぁああ!!五十鈴様の手だけじゃありませんね!
多いです、多いですから!
ヒヤッとしてたりフサッとしてたりしてるのですが!!誰ですか、お弁当のタレが手についたままの人、香ばしいです!
ねちょっとしてるのはソラ様ですね!ああ、力が強いですから、あのっ、もう少し優しくっ!」
ひゃぁあああっと言う叫び声と共に、とぷんっとドライアドが転送魔法に吸い込まれていった。
一瞬の出来事にポカーンっと呆けてしまったユグドラシルは、次の瞬間には腹がよじれるほどの笑いが襲ってきた
「ひーっ!!ぐふっ、ふふふっ!あんなに取り乱すんだね、ドライアドって!
しらなかったなぁ…そっか、そうだよね。
あんなに沢山の手が彼女を掴んでくれるんだ、安心した。
それに…ドライアドちゃんも、多を愛せるようになってる。
それだけでも悲劇は報われてたんだ…そうだよね、僕が悲劇に囚われていても世界は移ろいでく。
やっと…」
僕の役目も終わる時が来るかもしれない…




