95 紡ぐ
もきゅもきゅもきゅもきゅ
そんな音と共に白い頬をリスのように膨らませお弁当を食べているその人に、五十鈴は少し困っていた
「えっと…ユグドラシルさん。喉に詰まるのでゆっくり食べてください
あと、口回りが汚いです」
目の前にある白い頬についた食べかすをハンカチで拭っていく。
「んぐっ、ありがとう。」
嬉しそうにお礼を言う彼?彼女?を観察する
白い肌に腰下まで伸びた所々外跳ねした緑の髪
瞳の色はシアン色、ずっと笑みを浮かべた優しげな顔
どこか浮世離れした姿だ…
じっとユグドラシルを観察していると、くいくいっと服を遠慮がちにひかれる感覚がして、そちらに意識を向ける
「「「おべんとつけて」」」
「どこ行くの…ではなく、何してるんですか」
五十鈴の瞳に写ったのは、三人して口元に米粒をつけて見つめる瞳
ソラが食べかすをつけてるのとか、初めてみましたよ…
「まったく、ドライアドさんも桜国に染まってますよね」
そういいながら三人の口元に"自主的"につけたであろう米粒を摘まんで口に入れる
「米一粒に7人も神様が居るって言われてるんですから、粗末にしたら駄目ですよ」
「「はい…」」
「◯」
何故か顔を赤らめ天を仰ぐドライアドとユリ、ソラは無駄に体をぷるんぷるんさせている
不思議な光景に首をかしげていると「ふはっ」っと吹き出す声がこだました
「ふ、あはははははっ!!ドライアドが口元に食べ物をつけて嫉妬なんて!」
腹を抱えて笑うユグドラシルに、四人は目を丸くする。見た目と違い、笑いかたが豪快だ
「ふっ…はぁ、笑ってごめんね。
からかってるわけじゃないんだ、ただ嬉しかったんだよ。
ドライアドちゃんが幸せそうで」
その言葉の通りに嬉しそうに、とても優しい瞳でドライアドを見るユグドラシル
「お腹も膨れてきたし、色々と話をしよう」
「ええ、私も知りたいことがあるので好都合ですが……
デザートを食べながらでもいいですか」
五十鈴は絞り出すような声でそう言った
真面目な話が始まりそうな雰囲気だが、それ以上に大事なこともある
三人ほどデザートを待ちまくってるのが居てね、話ができないんです
食欲と別腹の魔物を腹に飼ってる子達だらけで、放置するとスゴい音を奏だす
「「…じゅるり」」
「♪♪♪」
「ははっ!ホントに今代のドライアドも世界も楽しそうで気に入ったよ」
そう言って笑うユグドラシルの前にもマーチリケーキ(トマトレアチーズケーキ)をコトリと置いた
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「さてと、聞きたいことがなにかって聞かなくても、僕"ユグドラシル"についてから聞きたいよね?」
「はい、あなたはユグドラシルと名乗ったけれど。
ドライアドさんと貴方は今日初めて会った、ドライアドさんはユグドラシルから生まれ、ユグドラシルと共に生きていたのに会ったことがない。
じゃあ、あなたは何者なのか、ユグドラシルの大樹とユグドラシルさんは別々の存在なのか」
「いや、別々の存在じゃないよ。
言ったでしょ、僕"が"ユグドラシルだって」
そう言ってティーカップを持ち上げ優雅に飲みだす。
その姿を見て、にドライアドがゆっくりと持っていたフォークをカチャリとおろした
「たしかにユグドラシルの気配や魔力を感じます。私はドライアドですから貴方と私がとても近しいものだとは思いますが
歴代のドライアドも私も、貴方にはあったことがありません
それに、貴方がユグドラシルだとして。あの大樹はなんなのですか?」
さわりとドライアドとユグドラシルの間に風が流れる
「君達は答えを知ってるはずなんだけどな…ユグドラシルとはなんの役割をしてる?
金色の主さんも知ってる簡単な問題だよ」
「ドライアドさんに説明してもらったことが答えなら
この世界の"酸素を出す木"
これが答えの場合、ユグドラシルの役割はなんでしょうか?」
当たりだというかのように五十鈴の頭上に花びらが降らすユグドラシル
ヒラヒラ舞う花びらの中、ユグドラシルは口を開く
「そう、あの大樹は僕の半身であり酸素を出すための木、その酸素から人々の記憶や感情が僕に流れてくる。そして、ドライアドの主殿になった大樹だよ」
「"なった"?元々は主殿ではないんですか?」
「それについては答えられない。それがユグドラシルとしての役割でもあるからね。
その問いには答えられないが答えだよ」
煮え切らない答え方だ
ユグドラシルとの会話は、見えないパズルをするような感覚がする
「そのユグドラシルの役割については答えられますか?」
「うーん、細かいことは何一つ言えないけど。
"世界を見守る"のが答えかな
例えそれが、悲劇でもね」
…悲劇。それはこの世界にとっての悲劇なのか別にあるのかはわからないけれど。
ユグドラシルは目の前で何があろうと世界を見守ることしかできないのだろう
自身の心にある喜びも悲しさも何もかもをしまいこんで見守ってきたから、それらを全部
「笑顔で隠して生きてるんですね」
「…そうだよ、それしか出来ないからね。ユグドラシルなんてそんなものだよ。何も出来ないポンコツさ」
そんなことはないっと、五十鈴が口を開く前に。
バキッと机が割れる音が言葉を否定するように響いた
「「そんなことない!」」
ドライアドとユリがテーブルに手を叩きつけて割り、テーブルの上のものをソラがキャッチしている。
ユグドラシルは、ユリも一緒に手を叩きつけたとはいえ、ドライアドが机を割ったことに驚いているようすだ
「ユグドラシルはポンコツなんてことありません!私はユグドラシルから生まれて、フィアやリーリエ、エルフ国の方達に会えて嬉しい。
そしてなにより、五十鈴様達に会えた。
私は、ユグドラシル様に"ありがとう"っと言いたかったんですよ」
ドライアドの言葉に、きゅっと口を結ぶユグドラシル
「俺も感謝してる、ユグドラシルの酸素がなきゃ世界に人は生きれない。
そしたらマスターに会えなかったんだ。
人が俺を作り、マスターが俺の心を作った。人から人に巡りめぐって俺はここに居る。
それってすげぇ、奇跡だろ?
その奇跡を起こしたのはさ、ユグドラシルなんじゃねーの?」
ユグドラシルの記憶の中には様々な事がある。長く生きて見てきたもの
人は欲深く、愚か。そんな人や生き物を見守ってきた
ただただ見てきた
「答えられなくてもいいですよ、自分で調べますし。
ユグドラシルさんに見守られてるなんて、逆に幸せなのでは?」
「…幸せ?」
笑顔なのにすがるような瞳、寂しい、辛い。逃げ出したいそんな思いを詰め込んだ瞳
「だって、誰かに見守られてるなんて安心しません?悲劇でもなんでも、その人が生きていた事を目をそらさず見て覚えてくれている。
それって凄いことですよね。」
孤独死とか回避できそう、死ぬ間際まで空気は体に触れてる。死んだあとも…
触れられないけどその場にあるもの。それがずっと寄り添っている
「ユグドラシルさんは凄い、貴方は凄い人だよ」
クシャリと頭を五十鈴に撫でられたユグドラシルは、ゆっくりと目を閉じてその手を受け入れる
その暖かい手と言葉に
『ユグドラシルは凄いな』そんな声が聞こえた気がした
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五十鈴とドライアドの縁の糸に触るユグドラシル
「縁の糸とは、ドライアドの人生の中で一人だけ繋げられる糸なんだ…」
「一人としか繋げられないんですか?」
「しかも他国の主とだけ繋げられる、その国の主が変われば切れるようになってるんだ
僕の目が覚めたのは縁の糸が繋がったから
ある事があってから僕は眠りについたんだ、目覚める条件は縁の糸が繋がること、でもそれも無理だろうって思ってたんだけど…」
「無理?でも、こうして繋がってますし」
ドライアドと一緒に繋がった糸を持ち上げる
「呪いがかかってたはずなんだけど…それも相当な。」
呪い、呪い…ハッ
「除菌したやつじゃ…」
「うにゃうにゃしてた、あの?」
「のたうちまわっていた」
「うにゃうにゃ?除菌?なんの事だい?」
はてなを沢山飛ばしたユグドラシルがこちらを見る。どう説明しよう…
「ドライアドさんが生まれる緑光の側に生えてた黒い草を除菌したら腕に巻き付いて縁の糸が繋がってたんです」
「…!そうか、その場所は彼の…。ちなみに除菌って?」
「ハイポーションをビシャッと」
「ぶふっ、そうか。多分ハイポーションのおかげというよりは…君のおかげかな」
なんの事かわからず首をかしげる
「呪いはね、かけた人の想いが籠ってるんだよ。執着や怒りや悲しみなんかがね
かけた人が満足すれば消えるよ、君に会って満足して消えたんだと思うよ
まさか呪いにハイポーションをかけられるとは思ってなかっただろうけど」
「ハイポーションをかけたこと以外なにもしてないのですが?」
「そんなことないさ…さてと、縁の糸の説明が途中だったね。
縁の糸の発動条件なんだけど、ドライアドちゃんは気付いた?」
気付いててほしいなっと笑うユグドラシルはとても優しげな瞳でドライアドを見つめる
「歴代のドライアド様達は外ばかりに想いを馳せていました。でも私は外じゃなく、外に生きてる人達が尊く愛おしいと思いました」
そのドライアドの言葉に、ユグドラシルが少し目を見開いた事に五十鈴は気付いた
ドライアドは五十鈴の方を向き、幸せを詰め込んだものを見つけたとでもいいたげに笑みをもらす
「裏表のない心に、優しく触れてくれる手、家族を大切に出来る人
私を友として接してくれる、私が困っていれば全力で助けてくれる
私は五十鈴様を友として人として五十鈴様という人を"愛して"います」
目をつぶり自身の手を心臓の上に寄せるドライアド、そんなドライアドをユグドラシルは何故か安心したように見つめていた
「…ドライアドは草木を愛す心、草木から生まれたエルフ達を愛す心はあっても、それ以外を愛する心は育つことが難しいんだ。友愛でも恋愛でもどんな愛でもね
縁の糸はドライアドの愛する心が芽生え育つと繋がるんだ
他国の主とだけ、繋げられる縁の糸。二人が相手を心から大切に思っているから繋がったんだ。
その心を大切にするんだよ?さて、その糸を縫い付けないとね
『糸を結ぼう、糸を紡ごう』」
ユグドラシルがなにかを唱えると、縁の糸がシュルシュルとドライアドの回りを囲いだす。
そのまま糸がドライアドの手の甲に集まり光が弾けた
「うん、成功したよ」
ドライアドの手の甲には、桜国の印象があった。
「これでドライアドちゃんは桜国になら行くことができるようになるよぉっぐえぇ」
「ほ、ほんとですか!!」
目をキラキラさせて頬を桃色に染めた嬉しそうなドライアド、それとは逆に顔を青くするユグドラシル
「ちょっ、ど、ドライアドちゃん、く、くるしぃ。ドライアドちゃんドライアドちゃん、おろしてドライアドさん!!いや、ドライアド様!?」
「ほんとのほんとに五十鈴様の国に行けるのですね!!温泉も入りたかったですし!五十鈴様の家族達皆様にも会いたくて!」
「うん、わかったよ、すっごくドライアドちゃんが行きたかったのはわかったよ、吐く、吐いちゃうよ。
世界のユグドラシルがグロッキーだよ!助けて金の君!!」
「「………」」
今あったことを素直に話すってばよ、ユグドラシルの胸元をドライアドさんがつかんで持ち上げたよ。片手で、もう一度言うね片手で持ち上げたよ
ぐわしって音がしたなマスター
数センチはユグドラシルさんが浮いてるんだ、ユグドラシルさんがジタバタしてるのに一切揺れないんだよドライアドさん、怖いなー、すっごく怖いなー
片手なのに軽々もって話してるなマスター、俺も怖いよマスター
「ドライアドさんはもう既に、ゴリラに汚染されてたんですね…」
「安心しろマスター、遅かれ早かれそうなってたさ。」
ユリとソラの手が、ゆっくりと私の背中をなてでくれました…。
寒い季節になってきましたね。作者は冬服が好きなので嬉しいですが、寒いのは苦手です
"91話青天"で、ドライアドさんが桜国に来てたみたいになってたの直しました。
狐面からの通信だったのですが、書けていなくて申し訳ありません




