93 お弁当!
バタバタ倒れた観光客達を見て、私とドルガドは目をそらさずガッツを見詰めていた。
ガッツは申し訳なさそうに頭をかいている
「すまねぇ、まだコントロールが出来てねぇんだ」
「コントロールとは…」
「おう、俺達獣人はな、精神を極めて極めて極めまくるとある日目覚めるんだ
内なる獣が」
「肉食動物は目覚めちゃいけないものですよ、絶対」
こわいよ、普通に怖いよ。内なる獅子を目覚めさせちゃダメでしょ?ただでさえゴリラステータスがゴリラを軽く飛び越えてるんですから
「それが目覚めるとな、獣気が使えるようになるんだ、五感が研ぎ澄まされて相手を威圧する。
和菓子のあまりの旨さに誰にも取られたくねぇって俺の思いが周りを威圧しちまった。
でもやっぱり嬢ちゃんとドルガドには効かねぇんだな、安心したぜ」
はははっと笑いながらどら焼きをかじるガッツを見て、私とドルガドはそっと手を繋いだ
「ねぇ、ドルガドさん?」
「なんだ、嬢ちゃん?」
「いやー、怖いですねぇ」
「そうだな、こえーな」
ふふふ、あははっと笑い合いながら顔を見合わせる
「「これに耐えられた自分達が一番怖いッ」」
全く何も感じなかった…ゴリラステータスは日々上がっている
*************
ガヤガヤわいわいと桜の木に囲まれながら楽しげな話し声がそこかしこから聞こえる
「朝は豆腐で昼はお弁当、作るのが大変だった」
運動会前日と当日の母親の気持ちを理解しましたよ。作るまではいいけど、詰めるのがめんどくさかった…女子達皆が手伝ってくれたから終わったような気がする
烏天狗一族が増えて手伝ってくれる人も増えたけど、食べる人も増えてプラマイゼロ、むしろ皆の胃袋が限界をしらなくてマイナス
重箱だけじゃ足りない気がするので、ボックスにも料理をポイポイしまってある。
「「おつかれ、五十鈴」」
ロロとスノウがいたわってくれるけれど
「せめて涎を拭いてから言ってほしかった、というか何故にフィア達も居るんですか?」
来そうだなとは思いましたけど、最初ッからボックスの中身は出さないといけない運命になってしまった
「ふふ、お弁当なるものが出ると聞いたものですから」
「ドライアド様にも用意してもらいたかったんだが…」
どこか青ざめた顔でそう言ったリーリエ、いつも強気な彼女らしくない顔色だ
「そう言われると思っていたので準備してますよ、ソラに重箱をもう一つコピーしてもらったので詰めときました。
もちろん十段なので満足してもらえると思います。
あとでドライアドさんに会いに行くので私が持っていきますね」
そう言うとリーリエは安心したように息を吐いた
「よかった…ドライアド様から頼まれていてな、持って帰れなかったら…」
ガタガタと震えるリーリエ
ドライアドさん、何したんですか…
「フィアも頼まれたのに全く怯えてませんね」
「フィアとドライアド様は何かが黒いんだ、笑顔なのに黒いんだ」
「ふふっ リーリエ、なにか言いましたか?」
「いや!なにも!」
…ドライアドさんもフィアも怒らせないようにしよう、それかソラを見せれば大丈夫か?
「○」
うん、頼もしい
それと、ロロにスノウ。重箱を勝手に開けないッ
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「「「「いただきまーす!!」」」」
「はい、召し上がれ」
キラキラキラキラ、重箱の中身に瞳を輝かせる皆。
子供かな?
見てて楽しく美味しそうに見えるように、色々と詰めた。
ロロ、スノウ、ユリとか若い子が好きそうな唐揚げやハンバーグが沢山つまった重箱
桜国といえば和食でしょ?って感じの重箱
見て楽しいキャラ弁的な可愛い重箱、おにぎりが猫の形とかタコさんなウインナーとか
コン達が喜びよそうなお稲荷さんの重箱に獣人達が喜ぶであろうチモ草料理が詰まった重箱
デザート用の重箱には、桜餅とどら焼きが沢山入ってる、フルーツゼリーも作ったんだけど…
「「「きゃあああああああ!」」」
「あ、見ちゃいましたか」
フルーツゼリーには細工あり
「ソラそっくりなフルーツゼリーを作りました。
感触もぷるぷる感もソラを触りながらそっくりに作り出された力作です。
水色のフルーツゼリーとかサイズ以外に見分けがつきません」
手に取りソラの隣に並べてつつく、ぷるんぷるんだ。この可愛いフルーツゼリーをエルフは食べれるか見物ですね
「そして、問題はこの重箱です」
パカリパカリと開けていく
「甘い卵焼きに、出汁を混ぜて作ったしょっぱめの卵焼き、ネギ卵焼きにチモ卵焼き、チリーズ卵焼き、人参卵焼き、大根の葉を混ぜた卵焼き
それと、黒い卵焼きさん」
蓋を開くと、ぶしゃぁああっと謎の煙?が出る
「なんか進化してませんかね?」
「「私達も作ったんですよ主様!」」
にこにこ顔の梅と椿、二人が作った卵焼きは紫色でネバネバ?ドロドロ?いや、それよりも
「顔がある…」
ねぇ、ナビ
≪…はい≫
これ、大丈夫?
≪………≫
黙らないでッ お願いだからっ
「味は多分大丈夫です!」
「兄さんに味見をしてもらったら、美味しくて震えてましたから!」
バッと青天の方に顔を向けると、真っ青な顔で思い出したのか口に手を当てている。
黒桜と銀月はそんな青天の背中をさすっている
「梅と椿の卵焼きなんて食べたらお腹を壊します!」
「私達の卵焼きを食べていただくんです!」
「「いいえ!私達の卵焼きです!!」」
いや、どっちも卵焼きではないっ
ぎゃーぎゃーと言い合ってる内にスキル発動。
スキル影、烏天狗一族を眷属にしたことで手に入れたスキル、気配を消せるスキルだ。自分自身が動揺したりすると勝手にスキル解除されてしまうから気を付けないといけない。
あと、家族にはこのスキルはあまり効果がない。
何故か直ぐに見つかる、家族には長くて三十秒ぐらいしか隠密出来ない
調べたら皆して謎のスキルを保有していた
『スキル:主探知』
どこに居ても見つかる、ここ数日一人になることがない。
かくれんぼとか絶対に出来ない。
やるなら私は鬼をやることになるが、みんな自分から捕まりに来るからかくれんぼは絶対に無理
とりあえず、四人にばれないように素早く移動
流れ作業のように食べてるロロとスノウをスルーして
「楽しめてますか?マルラ」
「はふみへてるほ、ふぶしゃん」
「猫のおにぎりを飲み込んでから喋りなさい」
そう言って緑茶を差し出す。
「んぐっ、ぷはっ!楽しめてるよ鈴ちゃん!」
「口元にお弁当ついてますよ」
口元についてるご飯粒をつまんでとると、驚いたように目を瞬かせている
「マルラ?」
声をかけると頬を染め、へにゃりと笑顔を見せる
「えへへっ今のね、鈴ちゃんの行動が兄さんにそっくりで驚いちゃった!」
ふふーっと嬉しそうに、どこか照れたように笑うマルラ
「鈴ちゃんと兄さんってちょっと似てる、見た目とかじゃなくて…なにかが似てる気がするんだけど」
うーんっと考え込むマルラに、突然アイリーンが飛び付いた
「ガッツ様に、ガッツ様に、あ、あーんをされてしまいましたわぁぁあああ」
「わわっ、落ち着いてアイリーン!首、首がしまってるよっ」
そう言って青ざめるマルラを助けたのはアリス、三人はそのままお喋りを始めてしまった
どこが似てるのか気になったけど仕方ない、ああなったアイリーンは止められない
「それにしても私と似てる、ですか…」
魔王と私が?魔王もゴリラならわかりますけど、その他に似る部分なんてありますかね?
ま、考えても私がわかるわけもないですし、とりあえず
「ドライアドさんにも重箱を届けにいきますか。ドライアドさんも話があるようですし」
「…マスター、一人で行動するのは禁止されてたはずだぜ」
「ユリ、ぬるっと背後に現れないでください。
それにソラも一緒ですし、エルフ国に行くだけですよ」
私の言葉に周りの皆が、ぐるんっとこっちを見てきた。
一番騒ぎそうな頭三人は妹の玉子焼きにダウン中だけど、こっちに意識を向けてるのが怖い
「…ユリ、付いてきてください」
「…おう」
皆の愛が重い
***************
「お待ちしておりました、五十鈴様」
世界樹の前まで行くとドライアドさんに迎えられた。
とりあえず、ボックスから重箱を取り出す
「ドライアドさん、お弁当をどうぞ」
「まぁ! 有難うございます。でも、食べるよりも先に来ていただきたい場所があるのです。
本当は今すぐ食べたいですけどね、今すぐに」
そう言って受け取った重箱を名残惜しげに地面からのびてきた草木の上にのせると、そのまま主殿の中に運んでいく
「女性の魔神が消えてから気になる出来事がありまして、些細なことですが五十鈴様ならなにかわかるかもと…」
「魔神が消えてからですか?」
「はい…関係ないのかもしれませんが気になってしまって、ですから五十鈴様をお呼びになったのです」
こちらにっと言い連れていかれたのは主殿の入り口とは真逆、世界樹の裏側
「扉、ですか?」
「はい、ここはドライアド以外は誰も入ったことがない場所です」
世界樹の裏側、草木が絡まりあい密集している。そこにドライアドが手を添えると、しゅるりしゅるりと絡まっていた草木がほどけていく
「地下?」
なかを見ると、世界樹の下に続くように道がある
「世界樹の根っこの中です」
「下に空間があるとは思いませんでした…」
「滅多に行くとこではないですから」
一本の道の周りに根っこがひしめきあっている、外の光を通しているのか暗くはない
世界樹の真下であろう場所には根っこがなく、ドーム状に根っこがうねっている。
真下の真ん中、そこだけ草の色が違うのか離れていてもわかった。
近くで見てみると何が黒いのかがわかった。カサカサで水気のない草木
「…枯れてる」
中心の草が黒く枯れている。
黒くどす黒い色をした枯れた草、乾いたあとの血みたいな色をしている。
でも、その枯れた草のなかに新芽のような鮮やかな緑色をした芽が生え始めてるのがわかった
黒く枯れた草の中心には黄緑に輝く球体が浮いている
「ここはドライアドが生まれる場所、その緑光からドライアドは生まれるのです」
「魔神が消えてからというのはもしかして…」
「はい…
魔神が消えてから枯れた草木が少しずつ消え始め、新しい芽が生え始めました。
些細なことですが、この枯れた場所は初代様がいた頃にはもう、枯れていたようです…」
そうなると、やはり魔神が消えたから消え始めた。でも、なぜここだけ枯れているのだろう?
話を聞く限り、枯れているからといって害になっている事もなさそうですが
「そうだ、ドライアドさん。魔神の仮面を見たら何かわかるかもしれません」
ボックスにしまわれた魔神の仮面。そういえば、鑑定も何もしないままだ。
色々と忙がしくて忘れていた。
ボックスから割れた魔神の仮面を二種類出す。
一枚はドライアドに手渡し、もう一枚を鑑定してみる。
鑑定結果とドライアドさんが何かに気付くのは同時だった。
動揺したのは同じでも、ドライアドさんは全身が震えるほどだ
「…まさか、あり得ません。ドライアドが認めなければこんな…」
信じられないと仮面を見つめるドライアドさん、それもそのはずだ。
だってこれは…
「「ユグドラシルの木」」
私の持っている、このお面と同じ素材なのだから




