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鳥居をくぐったら、森の主になりました  作者: 千羽鶴
第六章 桜国編
92/114

92 じゃん拳


早朝、桜国にガガガガガガっと鳴るドリルのような音と、シュシュシュシュっと風を切る音が響いていた


「ふぅ、完成しましたよ五十鈴さん」


「こっちも完成だ」


「お疲れ様です、クゥ、マトン」


そう言って差し出すのはチモ茶、先程まで響いていたのは烏天狗一族用の象徴板と根付けを作っていた音だ


昼から来てゆっくり作ってくれていいと言っていたのに、朝から二人が桜国に来て何故作っているかと言うと桜国の朝御飯を食べる気だからだ

この二人の胃袋もブラックホール化してきていて怖い


「それにしても、この桜国も賑わってきましたねぇ」


「はじめて来たときは鬼神と狼族だけだったしな」


「そうですね、クゥもマトンも桜国が出来て直ぐに来ましたからね」


ですねぇっと言いながら三人でチモ茶と緑茶を飲みながら一息ついていると、目の前の襖が吹き飛びました。


あ、飛んできた襖がマトンの頬をかすりましたね。


「ゲホッ」


「おぼろろっ」


「大丈夫ですか?クゥ、マトン」


マトンが吐き出す前に桶を置いて二人の背中をさする、クゥはチモ茶が気管に入ったのか苦しそうだ


襖が吹き飛んで驚いたのはクゥで、マトンは襖がかすったことにも驚いたみたいだけど、目の前の黒い翼と鋭い眼光におぼろっている


「おはようございます青天」


目の前にいるのは目の下の隈がなくなった烏天狗の頭、青天。

あの日から彼は毎日襖を吹き飛ばしている


「失礼します主」


そう言ってズンズンと五十鈴に近付いた青天は突然ぶわぁっと泣き出し、そのままごめん寝ポーズで五十鈴の正座した膝に顔を押し付ける


「うっうっ」


ずびすび泣き出す青天、湿る私の膝

どうして泣いているのか聞こうとしたが、左右から来る圧迫感で言葉が出ない


「「主様っ」」


左右には同じ顔が二つ抱きついている、二人もズビズビと泣いているが二人は私に抱きつく時にクゥとマトンが吹き飛ばしている。二人とも涙目になってて申し訳ない


「主様から離れなさい!(うめ)っ!」


椿(つばき)もです!」


「青天もだ」


「主様のお着物が濡れるだろうが」


(かしら)と妹が勢揃いだ、梅と椿は青天の妹。

青天よりも色素の薄い赤髪で、双子でそっくりだが姉の梅はつり目で妹の椿はタレ目だ。

この二人は火花と雪音にお仕置きされた二人


青天はほぼ毎日襖を吹っ飛ばすので襖が可哀想になってくる

頑張れガッツ、今日も直してもらうことになりました。

頭に浮かぶ兄貴なゴリラがお礼は菓子だと言ってきた気がした…


烏天狗一族は長い間、魔神に操られ人を殺したりしてきた罪の意識がありSAN値が足りない。

ハッキリ言って彼らのメンタルは豆腐以下、つつけば崩れる柔らかさだ


少しずつ家族達と関わる内に絹豆腐から木綿豆腐になってきているが、よく泣くので困るかといえばそうでもなく


「はい、顔をあげてください」


その言葉と共に泣きながらも素直に顔を上げる青天の目元付近に小さい小瓶を近付けて涙をいれていく


名称:(からす)の雫

効果は暗闇でも目が見えるようになる目薬、一滴で一時間はもつ優れものだ


「で、今日はなんで泣いてるんですか?」


その言葉に、青天と双子がよくぞ聞いてくれたっといいたげな顔をして、ずぃっと詰め寄ってくる


「じゃん拳なんて嫌いですっ!」


「「そうです!まったく勝てませんっ」」


「じゃん拳?」


何故にじゃんけん?

私が首をかしげると銀月が説明してくれた


朝餉(あさげ)で主様の隣に座る人をじゃん拳で決めているのです。

左右に座りたいものの戦い。くっ、あの時チョキを出していればっ」


「朝、昼、晩、全三回あるじゃん拳争奪戦、今日は私が勝ちましたので主様の左側はこの黒桜が」


いい笑顔の黒桜はいい、いつものことだ。それよりも気になるのが


「…待って、毎回?」


毎回じゃん拳してたんですよね?これまでずっと右側の相手が変わってないんですけど


そんなことを考えていると、壊れた襖のお陰で丸見えな入り口からひょこっとコンが顔を出す。うん、ひょこって顔を出すのは可愛いですけど…


「五十鈴はん、朝餉の時間やで?」



私の記憶違いでなければ毎回右側はコンが座っている


「主様、彼には誰も勝てないのです。じゃん拳の時の覇気を纏ったコンさんには主様のように大根を握り潰すこともきっと可能ですっ」


「じゃん拳の覇者なんですっ、火花さんも私も勝てませんっ」


「…覇気」


あれか、海賊の王と同じレベルか。そうかそうか…家の子達ってどこを目指してるんですかね?

ゴリラがゴリラの皮を被ってゴリラのランクでも上がってるんですかね?


「なんやの?はよ朝餉食べようや、五十鈴はんはよいこ」


そう言って私にくっついていた青天と双子をペリペリっと剥がすと、私の手を引いてから私の背中を押しながら歩き出した


五十鈴に見えないように振り返ったコンは



「覇王に勝とうなんて百年早いで」


その一言と共に、ほなっと言い五十鈴を連れて朝餉を食べる大部屋へ歩きだ出すコンの背中を見送った銀月達は、ニコッと笑顔を浮かべめきゃっと畳を潰した




「「「「あの、きつねぇぇえええええええっ」」」」




残されたクゥとマトンは恐怖に身を小さくし、置いてかれたことに嘆いた




************




今日の朝餉は湯豆腐、クゥとマトン用にチモ豆腐も作った。

緑の豆腐だ、枝豆味だと思って食べると痛いめにあうから気を付けないといけない


朝から豆腐祭りで、湯豆腐に揚げ出し豆腐、豆腐あんかけに豆腐の味噌汁、豆腐の肉味噌炒め

何故こんなに豆腐だらけなのかというと



「「「小さいなんて言わせない!!」」」



一心不乱に豆腐料理を食べる女子三人が原因


「そんなに気にしなくてもいいと思いますけど」


「そうですわ、自然体が一番可愛いですわよ」


「そのままが一番素敵でいいと思います」


「「「主様/鈴ちゃんもアイリーンもアリスも私たちの気持ちはわかりません!/わからないよ!」」」


そう言って怒ったように目をつり上げているのは雪音、梅、マルラの三人である

ちらほらと周りの女子達も頷いていて、苦笑いしか出ない


豆腐を作るときにイソフラボンの話をしたのがいけなかった、三人のコンプレックスを刺激してしまったらしい


今度豆乳を作ってあげよう、このままだと毎日豆腐料理になりかねん




*************




豆腐まみれの朝餉が無事に終わり、五十鈴はガッツの所に来ていた

頼んでいたものを回収しに来たのだ


「ガッツさん、出来てますか?」


「おー、嬢ちゃん。出来てるぜ、けっこう自信作だ」


そう言ってガッツが出したのは10段もある重箱が二種類、赤色と黒色の重箱だ。金色の桜が描かれていて可愛らしい

その重箱をソラの前に置く


「ソラ、頼めますか?」


「◎」


任せろっというキリッとした顔で重箱をもきゅんっと体内に入れてポンポンコピーしていく

どんどん増えていく重箱。ガッツが作ってくれたものを入れて赤い重箱が30個に黒い重箱も30個、全部で60個。

全部が十段ずつあるため、600程おかずやご飯を入れるばしょがある


「ありがとうソラ、美味しいものを沢山詰めましょうね」


つい最近お弁当の話をしたら食べたいと言われてガッツに頼んで重箱を作ってもらった

誰か一人にお弁当を作ったら面倒な事になりそうなので、皆で楽しめる重箱を作成


これを機に、桜国の中にもお弁当販売を始めるか…おにぎり屋さんもありますし


「はいガッツさん、お礼のチモ和菓子セットです。

中身はチモ餡どら焼きにチモ饅頭、チモういろうにチモ羊羹、あとチモ団子にチモ練りきりにチモ最中です」


試しに一段だけ作って渡された重箱に詰めてみた。

チモ団子は団子自体にチモ草を練り込んであって、団子の上にもチモ餡をたっぷりと乗っけてある

ガッツリクエストのチモ和菓子セットで、私達にとっては地獄の和菓子セットだ


「嬢ちゃんが主で良かったとしみじみ思うぜ」


「和菓子作って主で良かったと言われましても…」


嬉しいような、嬉しくないような。まぁ、喜んでくれたなら良かった


目の前のガッツが重箱の中身をキラキラした目で見詰めていると、おーいっと声を出しながら駆け足で近寄ってくる人物が一人


「ドルガドさん?」


「嬢ちゃん!探したぜ」


とても言い笑顔で駆け寄ってきたのはドルガドで、手にはなにか持ち手のある金属を持っている


「どうかしました?」


「嬢ちゃんに此を渡したくてな」


「? これは!!」


手渡されたのは桜国の印象が彫られた金属


「焼印!作ってくれたんですか!」


「おうよ!嬢ちゃん和菓子を作る度に印がつけられればって言ってただろ?だから作ってみたんだが、どうだ?」


「ありがとうございます!」


ぎゅむりと体格のいいドルガドに抱きつく、周りからみると孫と父か爺にしか見えない


「お礼は早いぜ、この焼印には特殊な加工がしてあってな。


ガッツの旦那、そのどら焼きちょっと貸してくれ」


ガッツは素直に重箱からどら焼きを一つ取り出して手渡す。

受け取ったドルガドはどら焼きに焼印をポンッと押す、焼印を離すと綺麗に桜国の印象が焼き付いている


「火なんて使わなくても焼印をつけられる、火石と他にも色んな石を混ぜて作って、火がいらねぇ作りになってんだ。

ユリが手伝ってくれてな、人とか生き物には一切熱く感じねぇように出来てるから怪我の心配もねぇ

火事にならねぇようにも細工してあッから安心だろ?」


焼印を素手でポンポン触って安全性を表現している


「すごいですね、想像以上の良い出来じゃないですか」


その言葉に照れるドルガドとソワソワするガッツ

そんなに食べたいんですか、重箱に沢山入ってるでしょうに


「沢山あっても初めて焼印されたどら焼きはそれ以外にねぇだろ?」


「ナチュラルに心の声を聞かないでください…まぁ、ガッツさんにあげたものですから食べて良いですよ」


その一言に嬉しそうにどら焼きを受け取り口に運ぶ、パクリと一口かじったガッツがピタリと固まった


「?どうかしましたかガッツさん」


ひょっこりとガッツの手元を覗き込むと、どら焼きの中に黄色いものが


「ああ、ナーナ種入りどら焼きに当たったんですね。一個だけ入れてみたんです。

ナーナの種って蒸かすと甘くて栗みたいな食感にナーナの香りがほんのりするので、栗を入れるよりもガッツさんは好きだと思ったんですけど、もしかして」


不味かったですか?っと五十鈴が聞こうとした瞬間、近くを歩いていた観光客がパタパタと倒れた


「…ゐ」


思わず変な声が出た、あとドルガドが私の真横に移動した危険を感知したらしい。

でも、原因が一番近くにいるのですが…え?私の近くが何があっても安全?



「う、うめぇぇぇえええ」



雄叫びを上げながら涙を流すガッツ。

いやいや何事ですか、なんで観光客が倒れてるんですか、ゴリラ五人が手慣れたように観光客を回収していくんですけど…


これってあれですか?朝聞いたコンと同じ…




「ガッツさん、説明求む」


私の言葉にドルガドが素早く頷いている。いや、マジで説明して






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