86 おかえりなさい
門を潜り桜国に戻った瞬間、沢山の温もりに抱き潰された
「くるっ、くるしいっ」
いつもなら嬉しいモフミに殺される
「なに言っとるんやっ、わいらの方が苦しかったんやで!」
「そうですわ!! 目の前からいなくなるなんてっ」
「嬢ちゃん、どうしてくれんだ。一ヶ所毛が抜けて剥げてんだぞ」
「五十鈴っ、いなくなる、ダメだ!!」
「おかえり五十鈴! 氷の涙が出るようになったんだぜ、俺!」
「マトン! 我慢してください、嬉しキラキラはダメですよ!」
「で、でも、う、うれじぐでぇ、うっおえぇぇえ」
マトンがキラキラだしたぁああああ!!
皆して涙がすごい、罪悪感がハンパないが。それ以上に
「ふふ……皆、ただいまです」
「「「「おかえりなさい!!」」」」
私のために泣いて、そして笑顔になってくれる皆が愛しくてしかたない
ーーーーーーーーー
「本物の五十鈴ちゃんだ!」
がばりと抱きついてきたのは黒髪ショートの少女、彼女が魔法国に行く手伝いをしてくれたらしい
「初めまして、桜国主の桜木五十鈴です。えっと、あなたは?」
「私はマルラ!呼び捨てで呼んでね 」
「マルラは何の用で桜国に?」
「兄さんと喧嘩して家出したから桜国まで来たんだ。
そしたらなんか、皆して絶望に染まってたから話を聞いたら桜国の主さんが消えちゃったって言うから手伝ったんだよー」
「でも、どうやって魔法国を見付けたんですか?」
「魔力でちょちょっとだよ? 魔法国の中に彼等を転送させたのも私
魔王の妹だもん、それぐらいできるよ」
ん? なんか変な単語があったような
「……魔王?」
「うん、魔王」
…………うん?
いやいや、え。魔王、魔王って黒いマントに黒い椅子、異様に黒を好むイメージのあるあれですか
えっと……!
「……魔王との兄妹喧嘩ってどんな感じなんですかね」
「マスター混乱してんな、何故それを聞いた」
私にもわかりませんっ
「兄さんが全然話を聞いてくれないから、顔面殴って男の急所をバーンして来ちゃった」
あはっと笑う彼女に恐怖を感じるが、男に対して慈悲も優しさもない攻撃に感心する。銀月と黒桜が青ざめ距離をとった
「だからね、桜国に滞在したいんだけど大丈夫かな? 兄さん悔しがるだろうし」
「悔しがる?」
なにを?
「うん、だから仲良くなろうね! だって女の子同士だし、兄さんが出来ないこと沢山するんだ」
「よくわからないけど歓迎しますよ。助けてくれましたしね」
「わーい!」
喜びを表現するかのように抱きつく力が強くなる。
魔王の妹は天真爛漫って感じで可愛らしい感じの女の子のようだ
とりあえず、桜国に可愛らしい家出娘さんが増えました。
ーーーーーー
五十鈴とソラはチリーズフォンデュ無双をしている
「とろとろ!」
「○」
「のびるのびる!」
「○」
「美味しい!!」
「◎◎」
「でも狭いっ」
五十鈴の周りには仲間達がわらわらと、いきなり目の前からいなくなったのがトラウマになったらしい
「コン、スナさん食べづらいのですが。というか、チリーズつきますよ」
「離れへんで、じゃんけんで勝ち取ったんや」
「五十鈴様が居なくならないように捕獲してます」
後ろから二人にフォールドされている。モッフモフです……
誰が捕獲するかじゃんけんが繰り広げられた。
チョキを出して負けた者達が、自分の手を見て崩れ落ちている
「今回が特殊だっただけで、どこにもいきませんよ」
そういいながらチリーズフォンデュをコンの口に入れる
「むぐっ、もぐ。そやかて、怖かったんや。
突然五十鈴はんが居なくなって、皆して発狂してたんやで?
今度居なくなったら死人が出るで、確実に。しかも殺害やなくて自殺や」
「怖いわ! 」
何処か暗い瞳が怖い、ヤンデレフラグが生まれるから気を付けよう……
「ねぇ、ほんとにどこもいきませんって……」
「「「信用しませんから!」」」
一刀両断である。今五十鈴達が居るのは一番広い部屋、しかも隣の部屋の襖まで外してるから果てしなく広い
「ほんとに皆で寝るんですか? 密集率がすごいんですけど」
男も女も全員集合だ、ちょっと楽しいとか思ってしまった
「主様は皆に愛されていることを自覚してくださいませ」
「そうですよ、ここにいる皆が主様を大切に思ってるんです」
そう言って笑いかける火花と雪音。周りを見ると場所取り合戦が始まっている。
五十鈴の周りは女子で固められているらしい
「鈴ちゃん、私場違いな気がするんだけど。確かに兄さんは悔しがると思うけど……」
「気にしたら負けだと思ってください、火花と雪音からは逃げられませんよ」
兄を持った妹同士、話が弾んだのか仲良くなった三人。
この部屋にマルラを呼んだのもこの二人だ
「五十鈴様と同じ部屋で寝られるなんて光栄です、それに皆で寝たことがないから、楽しいですね」
「アリスも乗り気でしたもんね、逆にアイリーンは死にそうですけど」
すっと目線をずらすと、枕を抱き締めたアイリーンが頭から湯気を出している
「ガッツ様と同じ部屋、ガッツ様と同じ部屋」
「枕がありえない形になってますよアイリーン、落ち着いて」
枕が可哀想なことになってる、このままだと中身が出る
「ロロとスノウ、もう寝てますね」
スヤァっと声が聞こえそうだ
「じゃあみんな寝ますよ」
「「「はぁーーい!!」」」
うん、仲がよろしくていいね。
ーーーーーー
寝静まった部屋、五十鈴はゆっくりと起き上がった。絡み付く腕や脚をどけながら
「みんなよく寝てますね……」
みんなの性格が出る寝相だ。そう思いながら五十鈴は立ち上り襖を開けた
「黒桜、銀月」
「「はい」」
「ちょっと付き合ってもらいますよ」
そう言ってから部屋を静かに出て、屋根の上に上がる。
主殿の上に上ると星も国もよく見える。
風が吹けば桜が舞い、とても綺麗だ
「星がすごいですね、月もよく見える」
満月ではないが、綺麗な光を放っている。月を見上げる五十鈴の後ろには二人の近待
「さて、そろそろ話してくれますか?」
五十鈴は振り向かず月を見ながらそう言った
「はい、全てをお話しします」
「黒翼の者……いいえ。この森の、もう一つの種族
烏天狗一族についてを」




