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鳥居をくぐったら、森の主になりました  作者: 千羽鶴
序章 森の主はじめました。
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08 恐怖は幻に

獣人国配達係のクウとマトンは落ちこぼれと呼ばれ続けた配達員であった。


配達係は他の国に物を運ぶのが仕事だ。

けれど他の国に行くと言うことはもちろんその国の種族と関わらねばならない。

獣人国の種族は見た目が完璧に獣だ、嫌がる種族が多く存在する。

そんな者が他国に入ったらどうなるか解るだろう、獣臭い、襲われたらどうしよう、気色が悪い。

これまで周りの配達員達が言われたと言う罵倒の言葉だ。

石を投げられたと言うものも居る。


国同士の争いになるかといえば、全くそんなことはなく。

罵倒ならばまだわかるが、傷害となればそれは国に喧嘩を売るようなものだ、なのに主が何もしないということは誰かがその事実を隠しているからに他ならない。

獣人国は大きい国だ、人口だって相当居る。

国の主も忙しい方のため、すべての問題に目を掛ける事なんてできない。

主の耳に入る情報に真実はいくつあるんだろうか……


獣人国の主は優しく威厳のある方だ、部下を心から信頼している。

その部下の中にきっと事実を隠し偽りの情報を流してるものが存在するのだろう。


クウとマトンは腕っぷしが強いわけでも特別頭がいいわけでもないし勇気も持っていないが配達係という仕事に就けたことを誇りに思っていた。


かつてクウとマトンは違う国の配達係だった。

始めての配達で緊張したマトンは他国で嘔吐し、それを見たその国の者は嫌悪の表情でマトンとクウを罵倒し石を投げつけたのだ。

それから二人は落ちこぼれと言われるほど失敗ばかりするようになった。


そんな二人にある日、配達担当移動が言い渡された。

その場所は新しく主が出来たという捨てられた森、鬼神族と狼族の居る国。

誰もがここには行きたくないと討論になった場所だった。二つの種族が純粋に怖いのだ。

クウとマトンに移動を言い渡してきたのは国の上官の一人であった。

たった一言「国のために貢献しないクズなどいらない」そう言って移動届けの紙を投げつけてきた。


二人は絶望した。

厄介払いをされたのだ、役立たずにはいい仕事場所だと。他の配達員達も心配してくれたが、代わろうかなんて言う奴は一人もいなかった。


そして捨てられた森の担当配達員になったのだ





「……この国の奴ら何もしてこないな」


クウはポツリと案内された部屋で言った


「また嘔吐しちまった。情けない……」


この国の奴らはいいやつだ、嘔吐しても心配してくれるのだ。

鬼神族も狼族も心配してくれた。

茶も出してくれた。


でも、怖いのだ。どうしようもなく


「あの時の罵倒の声が消えない」


「そう……だな」


忘れたくても忘れられない。

そんな風に嫌なことを思い出していると、声がかかった


「クウさんマトンさんお茶を持ってきたので一緒に飲みませんか?」


それはこの国の主、五十鈴の声だった。


五十鈴はずっと二人の様子が変だと気付いていた。黒桜と銀月もだ。

怖がっている、でもそれを必死に隠している。

気付いてしまった、気付いたならどうにかすればいい。

それが五十鈴の出した答えだ


「喜んでいただきます」


「入ってくれ、桜木さん」


五十鈴はススーッと障子を開けた。

二人の前に緑茶をコトリと置く、湯気が漂い緑茶のいい香りが二人の暗い心を和らげた気がした。


「やっぱり、この緑茶とても美味しいです」


「心が落ち着く味だよな」


ふぅと落ち着いた様子でお茶を飲む二人をみてから話を切り出す


「怖いですか」


五十鈴が聞いたのはそれだけ、たったそれだけの言葉に二人は顔を俯けた。図星だったからだ


「ずっと気を張っていたでしょ?私も黒桜も銀月も気付いてましたよ。

だから黒桜と銀月はなるべくあなた方に近付かなかった。」


五十鈴の言葉に二人は俯けていた顔を上げた。二人の瞳を金の瞳が見つめ返す。


「怖がるだろうから近付かないと言ってましたよ。怖がられるのにはなれてると」


二人の瞳が揺れる


「私は彼等が怖がられるのを良しとしません。だって彼等は優しいですから、怖がられる理由がないです。


ねぇ、クウさんマトンさん」


彼等が怖いですか?





「は、離してください! 桜木さんっ」


「お、俺らが行ったら場の空気が悪くなるから!」


離してくれ!っと手を掴む五十鈴に訴えるが、ずるずると引きずるように二人を引っ張っていく


「クウさん、五十鈴でいいって言ったはずですよ」


「「五十鈴さん離してっ!」」


嫌ですっとっ微笑み付きで言いきる五十鈴。振りほどきたくてもゴリラに勝てるわけがない。


「食事は皆で食べるって決まってますから。もう夕飯の時間なんですよ、駄々こねないでください」


駄々こねてるのは五十鈴さんですっと言いたげだが、気にせずに歩いていく。



「はい、到着しました。」


その言葉に顔色が悪くなる二人。


「開けますよ」


「ちょ、まっ」


制止の言葉など無視して襖をあける五十鈴。皆もう集まっているようだ。

部屋の中を見てマトンがキラキラしたものを出したが

黒桜が桶を投げ、受け取った銀月がマトンの下に桶を置く見事な連係プレーで受け止められた。



ガヤガヤと話し声がそこかしこから聞こえる。

クウとマトンは真ん中に五十鈴を挟み座っている。


「うぅ、今日こそは主様のお隣に座れると思っていましたのに……くっ、そのクリクリした瞳で主様を誘惑したのですね!」


そう言ってクウに詰め寄る火花


「あ、主様は私のふわふわよりも羊のもこもこを選ぶのですね。うぅ、こんな、こんな、ふわふわなんてぇ」


そう言いながらマトンの毛をモフモフしまくる雪音


クウもマトンも固まって動かない。

そんな姿にクスクス笑ってしまうのは仕方ないことだ


「い、五十鈴さん笑ってないで助けてくださいっ」


固まって動かないマトンの代わりにクウが五十鈴に助けを求めた


「クウさん、主は気を使ってくださっているのですよ。」


「二人のお陰で緊張が無くなっただろ?」


そう言われてみると、クウもマトンも緊張はしていない。

マトンは状況についていけてない気がするが。


「クウさん、マトンさん。大丈夫ですよ、私達は貴方達を傷つけたりなんてしません。

むしろ皆お礼を言いたがってるんですから」


「「お礼?」」


二人が聞き返すと、部屋にいる皆が一斉にあるものを掲げる


「……象徴」


そう、皆が掲げているのは根付けの象徴。


「これ作ったのお前たちなんだろ! ありがとな!」


「主様の色をこんなに綺麗に編んでくれてありがとう!」


「こんなに綺麗に作れるなんてすごいな!」


次々に飛んでくる言葉は罵倒じゃない。これまでの出来事を塗り替えるような言葉ばかり


「クウさんマトンさん、ありがとうございます。この国の配達担当になってくれて。

貴方たちはこの国の担当になった。なら、貴方たちは私にとって守るものになる。

ようこそ、桜国へ。私達は貴方二人を歓迎しますよ」



ありがとうも歓迎するも言われたことなどない。

罵倒が当たり前だった、嫌がられるのが普通だった。

落ちこぼれで弱くて……

でも、配達係を辞めなかったのは受け入れてほしかったから。


そして受け入れられた。沢山の笑顔と共に……



この日二人は始めて配達係になって良かったと心から思えた。

きっともう、あの罵倒は聞こえない。




受け入れられることはとても嬉しいものです。

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