70 英雄と呼ばれた彼女
私の両親は氷魔法の天才だった。
生まれてきた私にも期待が高まるのは仕方がないことだったのかもしれない。
「きっと凄い氷魔法の使い手になる」
「きっと天才よ! 私達の子だもの」
きっと……その言葉は叶わなかった。
私が氷魔法を一切使えないとわかると、両親は私に関心がなくなった。
愛情なんてない、名前も呼ばれない。
「氷魔法がつかえないんだと」
「え! あの二人の子供なのに?」
「この国で生まれて使えないなんてなぁ」
街の人たちも私が氷魔法を使えないことに対して色々と言ってくる。
使えないのは変だ、おかしい、そんな言葉ばかり。
「フローラ、何をつまらなそうな顔をしてるんだ」
ただ一人、氷宝国の主。ダリウスさんだけがいつも笑いかけてくれた。
「私は氷魔法が使えないから、両親は私を必要としてない」
「そんなことないさ、フローラ。氷魔法の源は何か知っているか?」
「魔力でしょ?」
私は普通のことを言ったのにダリウスさんは笑う。そして頭を撫でられた
「フローラ、氷魔法は心の魔法なんだ。心次第でどんな形にもなる」
「心の魔法……じゃあ、私の心は死んでるんだね」
私の言葉にダリウスさんがあたふたしてる。この人は感情豊かな人だ
「それは違うぞフローラ、お前の心はちょっと人見知りなんだ。
きっと、お前の心に手を差しのべてくれる者が現れるさ」
ダリウスさんの言葉を聞いても何も感じない。私の心は死んでる、それが答えだから
家に帰っても一人
ご飯も一人
遊ぶのも一人
何をするにも一人
そうやって毎日を過ごしてた。私はどんなに年を重ねても氷魔法は使えなかった。
そんなある日、ダリウスさんの怒鳴り声がした
「氷巨人など危険すぎる! 制御できない場合もあるだろう!」
「主よ、氷魔法はもっと発展できる。形作った物を動かせるはずだ!」
「きっとこの国の為になりますわ!」
シュテルン夫妻だ、私の両親と同じ天才。
この頃何かを作ろうとダリウスさんにお願いしてるみたい。
街のみんなもシュテルン夫妻に賛同してる、発展を望んでるんだ
「……はぁ、わかった。だが、危険だったら止めるからな」
シュテルン夫妻はとても喜んでいるようだ。
いつの間にかシュテルン夫妻を国の中で見なくなった。
どこかで研究を続けてるって噂を聞いた。
私はまた、いつもと変わらない毎日を過ごしてる。
きっと明日も、明後日も変わらないと、この時は思ってた。
ズドォオオオオオオン
とてつもない爆発音、音の出所を見て私は目を見開いた。
「氷の、巨人」
ダリウスさんや大人達が騒いでる。氷の巨人は国を破壊していく。
赤ちゃんを抱いたシュテルン夫妻にダリウスさんが怒鳴り声をあげ、その声に赤ちゃんが鳴き声を上げている
「制御できないのかっ!」
「や、やってるんだが……」
シュテルン夫妻は赤ちゃんをダリウスさんに渡し、氷巨人に向かっていった。
でも、二人の声は氷巨人には届かなかった。
そして、自分達で作り出したものに自身の命を奪われた
「主! 私達がどうにかしてみます!」
「倒せないのなら封印しましょう」
そう言って私の両親は迷いなく赤ちゃんに手を伸ばした。
「何をする気だっ」
「何って、その赤ん坊に氷巨人を封印するんだ。シュテルン夫妻の魔力を持っているだろうから。この子が器に相応しい」
ダリウスさんが赤ちゃんを庇う動作をするが、私の両親は気にしない。
「まだ赤ん坊だぞ! この子に罪を持たせるきか!」
「この子の両親がしたことです、構わないでしょう?」
言い合っている間も氷巨人は暴れている。私の両親は無理矢理赤ちゃんを抱き寄せる
「この氷魔法は私達も初めてだわ」
「僕らは天才だ、成功するに決まっている」
自信に溢れた顔、いつも見る両親の顔だ
「「永久冷凍」」
私の両親は自分達が天才だと疑いもしなかった。
確かに氷巨人は封印できた。でも、不完全な状態で。
私の両親は凍りつき砕けあっさりとこの世を去った。特に悲しい気持ちはない。
氷巨人が居なくなり、赤ちゃんの鳴き声だけがこだまする。
ダリウスさんが必死に泣き止ませようとしているが全く泣き止まない。
私は何となく赤ちゃんに近付いた、何故かはわからないけど……
「そんなに泣いてると溶けちゃうよ?」
そう声をかけると赤ちゃんの涙が止まった。私を純粋な目で写す。
期待も落胆も無い、そんな瞳で
手を伸ばしたのは無意識だった。
「っ!」
きゅっと捕まれた指、そして私を見て笑う赤ちゃんを見て、心が暖かくなった
「え?」
パキパキと音をたてながら氷の花が咲いた。
「フローラの氷魔法か……」
「私の?」
私は赤ちゃんを見つめた。小さい手が触れた場所が暖かい。
この小さい命を私は愛しいと思った
私はこの日、この子。スノウに心を貰った。
その日から私の日常がスノウ中心に回り始めた。
私の弟になったスノウ
家に帰っても一人じゃない
ご飯を食べるのも一人じゃない
遊ぶのも喜ぶのも一人じゃない
何をするにもスノウと一緒
スノウが笑えば私も笑える。
スノウは暗闇が苦手だと知って、光る花を作ろうと決めた。
花言葉や花の名を決めた、でも恥ずかしいから今は内緒
「姉ちゃん!」
「なに、スノウ」
「友達が出来ないっ!」
笑いながら言うことじゃない、スノウはいつも楽しそうだ。
「いつか出来るよ」
「そしたら姉ちゃんに紹介する!」
「楽しみにしてる」
毎日が楽しくて、この子を守れることが誇らしくて。
油断してた。
チリーズ祭りの日
「姉ちゃーん!」
バフッと抱きついてくるスノウに笑みが浮かぶ。
そんな私たちを見て一人の男が放った言葉が、事件の始まりだった
「本当の姉弟じゃないのに仲良いよな、早くフローラも結婚したらどうだ? お、俺とか」
本当の姉弟じゃない、その言葉に私は腕の中にいるスノウを見ると。
目を見開いて私を見てる
「本当の、姉弟じゃない?」
「……ずっと教えなくてごめんね、私とスノウは血の繋がりが無いの。
でも私はスノウのっ」
突然スノウから冷気が出始める。ダリウスさんが走り寄ってきた
「フローラ!!」
焦ったようなダリウスさんの声と共に騒音が響いた、爆風と共に雪が舞い目が眩む。
瞳を開いて写るのは氷の巨人
「ダリウスさん!!」
「くそっ、封印がとけたか!」
氷巨人は容赦なく攻撃してくる。このままじゃいけない、周りの大人達を見るが
前の時に全く歯が立たなかったせいか、恐怖に支配されている。
私がスノウを守らなきゃ。
「ダリウスさん、スノウをお願いします」
「フローラ?」
ダリウスさんごめんなさい。
そう心の中で謝ってから私は氷巨人に手を伸ばす
「絶対零度」
パキパキと私の周りが凍っていく、私自身も。冷たい、それでもやらなきゃ……あの子から貰ったものは私の命だけじゃ返せない
まだ首は動く、最後に私はスノウを見た
「たとえ血の繋がりがなくても私はスノウ愛してる、大切な私の弟。
寂しくないように、きっと花を咲かせるから
ねぇ、スノウ
私を姉にしてくれて、ありがとう」
両親に愛されなかった私の人生は毎日が一人ぼっちで、悲しいとも辛いとも感じなかった。
でも、スノウのおかげで心が生まれた。スノウと過ごす毎日はとても楽しかったよ。
私は眠るように意識を手放した
冷たい世界で声が聞こえる
スノウの声がする、ロロって誰かを呼ぶ声。
友達かな?
五十鈴って声もする、女の子のお友達も出来たの?
私がいなくなってスノウが一人ぼっちにならないか心配だったけど、大丈夫だね
寂しくないね、暗闇もきっと大丈夫
でも、友達が出来たんだ。お祝いしないとね
ノスウの花をスノウと友達に贈ります
スノウの未来に沢山の花が咲きますように




