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鳥居をくぐったら、森の主になりました  作者: 千羽鶴
序章 森の主はじめました。
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07 配達担当?

部屋の中、ズズズズっと茶をすする音だけが響く。

五十鈴は茶を飲む相手をじっと見つめていた


くりっとした瞳、灰褐色(はいかっしょく)と白のまだら模様の羽が腕から生えている。後頭部にある赤い斑。顔は完璧に鳥。どっからどう見てもキツツキである

その隣の羊もまた人型だが、顔は完璧に羊だった。



結論から言うと、獣人国(じゅうじんこく)の者が五十鈴の国にやって来たようです。




ことの始まりは数時間前に遡る。


あの稽古の日から数日、料理の腕はめきめき上がり今ある食材で作れる和食は全て作れるようになった。

味も申し分無い出来だ。

だが、塩がないのは辛い。醤油も味噌も作れないのだから。

日本食に必要な調味料が確実に足りていない。困ったものだ。


稽古も頑張っているようで、特に朔と琥珀の成長は目を見張るものがある。

そろそろ他の国に行ってみるのも良いかもしれない。

そんな風に考えていると慌てたように銀月が五十鈴の所にやって来た


「主様!」


「どうしました?」


「獣人国の者とみられる二人が向かってきています!」


その言葉を聞いて五十鈴は急いで外に出た。

鳥居の手前で空を見上げると、ファンタジーではなくファンシーな者が近付いてくるのが見える。


背中に大きな鞄を背負った鳥獣人が腕の翼でバサバサと飛んできているのは別に良い、異世界なら普通の光景だろう。

気になったのはそこじゃない、何で腰にブランコをくくりつけているんだ。

しかもブランコには羊の獣人が座っているように見える。


口笛はなぜ遠くまで聞こえるのかを知りたくなる光景だ。

教えてくださいおじいさん……


ゆっくりと五十鈴の前に降りてくる。羊が先に降り、それを確認してから鳥の方も降りてきた。

五十鈴が声をかけようとしたその時


「おぼろろろろろろろ」


羊がキラキラしたものを出したため、声をかけようにもかけられなくなった


「だからブランコは止めようって言ったじゃないか。君はすぐに酔うんだから」


「酔ってるわけじゃない、気持ちが悪いだけだ」


キリッとしながら言い放つが、すぐにまたキラキラしたものを口から出す姿に思わずひと言


「いや、それ酔ってますから」


取りあえず中に入ってくださいと声をかけた。




そして冒頭に至る


ふぅっと、緑茶を飲みながら一息付く獣人二人。

五十鈴の左右には黒桜と銀月が控えている


「はじめて飲む味ですがとても美味しいですね、この飲み物」


「他の国にはない飲み物だな。」


緑茶が気に入ったのか、おかわりをしている。


「えっと、どのような用件で来たのでしょうか?」


そう声をかけると二人は佇まいを正し頭を下げた


「獣人国配達係、クウと申します」


「同じく獣人国配達係補佐、マトンです」


二人の挨拶に五十鈴も頭を下げると驚いたと言う顔で見られた。

それにしても、マトンって羊肉の呼び方なんだが。つっこんだら負けだろうか……


「この森の主になりました、桜木五十鈴と申します。そして此方(こちら)が鬼神族頭の黒桜と狼族頭の銀月です」


よろしくお願いしますと二人と共に挨拶するのが、違和感がひとつ。

獣人二人は黒桜と銀月に一切目線を向けようとしない。五十鈴だけをその瞳に写そうとしている。


「私達はこの国の配達担当になったので挨拶と説明に来たのです。」


「配達担当?」


何なのかわからず首をかしげると、説明するから安心をっと返ってきた。


「獣人国では各国の特産物や特産品、簡単に言えばその国にしかない食べ物等を他の国に売りに行く仕事をしています。

もちろん売り上げはその国に入りますから安心してください。

他の国にも担当が就いていますから、獣人国に特産物を持って帰りその特産物を欲しがる国に各配達担当が配達します。

種族同士仲が良くないのでこんな風に他の国の物を仕入れるんです」


「それだけだと獣人国が損をしませんか?」


「いえ、運ぶ代わりに獣人国にも特産物を納品して頂きますから損ではないんですよ」


「お金の代わりに特産品を頂くっと言うわけですね」


「はい」


国同士仲が良くないのだから、こういうシステムを導入したのだろう。

仲は良くないが物は欲しい、そんな考えが見える。

とりあえずお金の問題はすぐに解決しそうだ


「この国の特産物も確認しなければいけないのですが、それよりも先にこの国の名前、象徴、この2つを決めていただかないといけません」


そう言ってクウは大きな鞄をガサゴソとあさり出す


「名前、象徴ですか?」


「はい、国としての登録と言うものがあるんです。

主が居るならば作らなければいけません。

他の国に入るときにその国の象徴を(かた)どった物を持ってないと入れないように出来ていますので。」


通行書みたいな役割のものらしい。


「民一人一人が持っとくものですから。他の国に移住するときにも必要になります。

まぁ、移住した人なんて見たことないですけど。」


そう言いながら鞄から手のひらサイズの厚みのある小さい板を次々に出していく


「この国は何人住んでるか教えてもらっても?」


「私を合わせて63人です」


五十鈴がそう答えると木を一つずつ数え始めるクウ


「よし、しっかり63個ありますね。じゃ、国の名前と国の象徴を決めてください。」


いきなり言われても浮かぶわけもなく悩んでいると、桜の花びらが五十鈴の前にひらひらと落ちてくる。

外に目を向けると沢山の桜の木。


それを見て五十鈴はナビを呼び出した


《ご用件は?》


五十鈴はすぐに頭に浮かんだものを印刷させた。

すぐさま印刷紙が目の前に現れる。獣人二人が驚いているが気にせずその紙をクウの前に差し出す。


「この国の象徴は桜、国の名前は(よう)国で決まりです」


大きな桜に小さな桜が寄り添う象徴


この国の木は殆どが桜の木だ、五十鈴の力で咲き誇っている。

枯れる事のない桜の木。

五十鈴がいる限りこの国の桜は枯れない。だからこそ象徴も名前も桜をつかったのだ。枯れる事のない国を意味して。


「じゃ、彫っていきますから少し待っててください」


そう言うと先ほどの板に向かってくちばしを突き立て。

ガガガガガガっと高速で彫っていく。


一心不乱に彫る姿が少し怖い……


「ふぅ、出来ました。」


並んでいるのは寄り添う桜の形に彫られた63個の板だったもの。

とても綺麗な出来だ、細部までこだわって彫ってくれたらしい。


「これで象徴は完成です。後はマトンが仕上げてくれますよ」


「この象徴をどんな風に持ち歩きたい? 首飾りとか腕輪とかが多いけど」


そう言われて思い付いたのは根付け。


「根付け紐って作れますか?」


「根付け紐? 作り方が分かれば大抵の物は作れる」


その言葉と共に紙が一枚、ナビはなにも言わなくても察したらしい。しっかりと根付け紐の編み方が載っている。けっこう複雑だが大丈夫だろうか


「こんな編み方初めてみたな……面白そうだ。色はどうする?」


そう言うと様々な色の紐を並べていく。その紐をみて黒桜と銀月が並ぶ紐の中の一つに指を向ける


「主の色でお願いします」


「これ以外はやめてくれ」


その紐は五十鈴の瞳と同じ色。

マトンはそれを聞いてから、素早く編んでいく。手の動きが早すぎて残像がすごい


いくらもしないうちに63本出来上がってしまった。

始めて編んだと物とは思えないほど綺麗に出来てる。根付けもしっかりと付けているのだから完璧だ


「これでよし。この象徴板は主の力が籠る、他の国に入るときにそれが国の入り口で記録される仕組みになってる。

この国なら赤いあれがそうだ」


赤いあれとは多分鳥居。そんな機能があったとは知らなかった。


「持ってないと入れないようになってるからな。

それと、持ち主じゃない人間が持って入り口を通った場合は板が割れる仕組みにできてる。」


盗難防止もしっかりされている。



その後は特産物の米や緑茶、他にも野菜などの説明で意外と時間がかかり、二人は泊まることになったのである。





獣人二人、種族同士仲が悪いのに冷静だって?そんなことないんですよ……

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