51 髪? 神?
悪役令嬢系のシーンを見たあと、マリクの口に玉子焼きをリンクの許可をもらい口に叩き込んでから宿屋に戻った五十鈴とアリスなのだが
「ふっっざけんじゃないですわよ!?」
バキバキバキ、そんな音と共に机が砕け散る。細腕の何処からそんな力が出ているんだろうか……
「何が君だけを愛すよアイリーンですって! しゃらくせぇええ!」
目の前で暴れるのはアイリーン。
婚約破棄され家からも追い出されたようで、何故かここに来ている。
「私だってあんなやつ嫌いでしたわよ!
両親が勝手に決めた婚約ですし、はっきり言って私の理想はゴリマッチョですわ!
婚約破棄されて両手広げて喜びたいところですけれどっ
あんな男に振られたと思うと腹が立って腹が立って」
ギリギリと歯軋りをしている。女性としてその表情はどうかと思う……
「まぁ、落ち着いてください。これでも食べて」
差し出したのはチャチャクッキー、ようは珈琲クッキーである。
ロロとアリスはリスのように食べている。
「そうですわね、ありがとうございますわ」
サクリ、そんな音と共にクッキーをひと口。大体の想像はつくだろう。
「私がいままで食べていたものはなんだったんですの」
「「「ゴム」」」
呆然とクッキーを見詰めている。
「ゴムパンですよゴムパン。この国相当ヤバイですよ」
「ヤバイですわ! ガチでヤバイやつですわ、いままで食べてたものがゴム!」
不味さに気付いてくれて嬉しいです。
「アイリーンさんはこれからどうするんですか?」
「家からも追い出されてしまいましたし、夢も叶えられませんでしたわ」
「夢?」
「女騎士になりたかったんですの。でもこの国は女性が騎士になることを許してくださいませんでしたわ」
この子採用!
「アイリーンさん、桜国の騎士になりませんか?」
「え?」
「桜国には警備してくれる者が居ないんです、観光に来る人も増えてきましたし、国を守ってくれる者が居ないと駄目で。
良かったらなってくれませんか?」
その言葉を聞いたアイリーンにガシリと手を捕まれる。
豆だらけの夢を追う少女の手がしっかりと五十鈴の手を掴んでいる。
「よろしいんですの! 自分で言うのもあれなんですけれど、私ゴリラみたいに力が強いんですのよ?」
むしろ好都合です。五十鈴は大根を差し出した。
「なんですの?」
「片手で握り潰せたら歓迎されること間違いなしです」
アイリーンは差し出された大根手に取り、そして……
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「とりあえず、ドリル髪をやめましょう。目立ちます」
「でも、なかなかに頑固でぐるぐるですのこの髪」
彼女自身も嫌だったらしい。敵の腕とかについてそうなドリルだもの、嫌に決まってる
「桜国をなめてもらっては困ります」
取り出したのはシャンプーとリンス。これをこの国の女性に広げるのも今回の目的である。
「アリスも誘って三人で入りますよ」
三人で風呂に入り、しっかり暖まってから出たのだが、若干一名別人がいる
「誰?」
ロロが首をかしげる、そうなるのもしかたない
「ロロ、アイリーンですよアイリーン。ドリルは彼方に消え去りました」
「長年なくならなかったあの髪が……」
呆然と囁くアイリーンの髪は、ドリルが消え去りゆったり波打つ髪が美しい少女になっていた。
アリスも髪の艶とサラサラ具合がUPしている。
「「桜国は神がいらっしゃるのですね」」
だからどこの宗教だ、祈りを捧げないでください
「明日一日カカオ狩りに行って来ますから、女性達に自分に対する自信を持たせてほしいんですよ」
「女性達の自信?」
「そうです。男なんて尻に敷いてしまいなさいって事ですよ」
五十鈴の言葉に瞳をキラキラさせていく。
「この国の男達は調子に乗ってると思うので」
「そうですわ! 女性は強く美しいんですのよ!」
さすがアイリーン、わかってらっしゃる
「とりあえず、このシャンプーとリンスをじわじわと女性の間で広げてください。
ちゃんと桜国で作ったものって言っといてくださいね。
女性は飾りじゃありません、ちゃんと自分の意思をしっかり伝えないと。
ちなみに、自分に自信のない方達に大事なシャンプーとリンスは売れませんって、ボソッと言っといてください」
脅し? いいえ、女性の潤いを売るのですから交換条件です。
とりあえず女性達の問題は二人に任せるとして、他の問題があるとすれば食べ物である。
この国の食べ物を教えてもらったところ、野菜が多い。
そのくせスープにちょちょっと入れただけとか、洗って出しただけでサラダとか
「料理なめてますよね、完璧に」
「ほんと申し訳ないです」
「いいんですよ亭主、あなたは不味さに気付いた。同じ間違いはしないはずです」
ちなみに今やってる作業はカカオ豆からチョコレートを作っている
宿屋の倉庫にカカオ豆がそれなりにあったので助かった。
しかもこのカカオ豆の凄いところが割るともうすでにパウダーになっていることだ。
ローストしたりすり潰したり皮を剥いたりしなくて良いから楽である。
割ったカカオの豆の皮の裏側にはカカオバターなる油分もしっかりあることに優しさを感じる
「とりあえず砂糖で練りますよ亭主」
「僕も、やる」
亭主とロロ、三人でチョコレート作り。甘い香りが食事処に漂っていく。
板チョコじゃつまらないので、チチゴチョコケーキにしよう。
甘酸っぱさもあるしチョコに合うはずだ……
「で、完成したのがこのチチゴチョコケーキです」
チョコレートでコーティングされたケーキの上にはチチゴの実を乗せてある
ケーキの中にもチチゴの実とチチゴジャムを層になるように挟んでるから切り分けると見た目も綺麗な出来だ
「とりあえず大量に作ったので、食べてみてください」
いまこの食事処には、ギルドのメンバーやら騎士団(弟子)やらが居る
食べたみんなの感想はもはや神を崇めるレベルで、五十鈴は少し引いた。
「美味しい、五十鈴」
「これがカカオ豆なんですよロロ。明日は大量に持ち帰りますよ」
「うん」
カカオ狩り。桜国の皆にもチョコレートを食べさせねば。
「五十鈴さん、いいや五十鈴様」
そう声をかけてきたのはジュザントである。副官のくせにまったく主の側にいない自由な男だ。
「俺もやるぜ、カカオ狩り。ゴブリンはついでだ、ついで。
ちなみに、明日のメンバーはあいつらな」
そう言って指差す向こうには、一心不乱にケーキを食べる二人。
目が合うと、崇められました。
食べ物で人は神と呼ばれるらしい




