10 白い羽織は鶴のよう
桜国の特産物の売れ筋は嬉しいことに右肩上がりだ。
クウの情報だと獣人国主の副官の一人が茶葉をとても気に入ってくれているらしい。
種族や国が仲良くないとはいえ、売れるものは売れる。
それがいいものなら尚更だ。
欲しいものは欲しい、欲望に忠実と言うのも考えものだなと五十鈴は思う
「塩と酢を手にいれました」
ふふふっと笑みが浮かぶ、これがあれば醤油も味噌も作れます!っと、とても嬉しそうだ。
料理のさしすせそを制覇。
やはり欲望には勝てない、欲しいものは欲しいに決まってる。
この世界の作物は不思議な育ち方をする、米なんて田んぼがいらない。
そのまま土の上に育っている。しかも収穫してから数日後にはまた実るから無くなる心配もない。
獣人国では肉やら卵やらは木に実っているとクウ達が言っていた。
肉の実と卵の実などと呼ばれているらしい。
各国の特産品などは一覧があって、それを見て決める。カタログみたいなものだ。
特産品の説明と絵が描いてあるため、異世界的名称の食べ物でもどんなものかわかるようになっているのでとても助かっている。
今回買った酢は、桜国が初めて買ったと言われた。
クウ達も何に使う気だと聞いてきたぐらいだ。
まぁ、酢の説明欄が〝酸っぱく鼻がツンっとするので要注意、何に使うかは不明だが 体に害はありません。在庫がありすぎるのでどうぞ〟なんて書いてあっても誰も買わないだろう。
品物名が酸っぱい何かって……売る気が全く感じられない。
そのくせに塩よりも少し高い値段なのが不思議だ……
いずれ米酢と果実酢とか作る予定だから他国にも酢の素晴らしさを伝えようと誓った五十鈴だった。
そろそろ茶屋とかその他の施設的なのも建てたり作ったりしたいと考え、とりあえずナビに製図とか色々印刷してもらったものが五十鈴の手元には山のようにある。
「交友できる国にするには、観光できるものがないと駄目ですよね」
今のところ、この国で楽しめるものと言えば桜と和食ぐらいだろう。
やることはまだまだあるが、一つずつやっていくことにした五十鈴
まずは……
「私が主様と一緒に?」
「はい、明日から獣人国に行くので近侍の銀月に頼もうかと思いまして。」
狼族の背に乗って行くのが一番早い。大勢で行ったら戦争でも仕掛けに行くように見えるだろう。
二人で行くのが一番だ。
だから銀月に頼んでいるのだけれど……
「……主よ、私も主の近侍です。それに主と銀月だけなど何かあったらどうするおつもりですか!」
そう言って訴える黒桜はこの世の終わりだとでも言いたげな表情だ。
他の皆もどこか不満げな様が見てとれる
火花と雪音なんて
「主様が不在、主様のいない朝、主様のいない夜……」
「兄上だけ、兄上だけ、兄上だけ……」
こわい、その一言しかない。
そっとしておこう。
「なぁ、朔」
「なんだ? 琥珀」
「どうやったら頭の息の根を止められるだろうか」
「琥珀一人じゃ無理あるだろ? 俺も手伝うよ。でも琥珀、 主が悲しむから半殺しにしなさい」
二人は殺る気に満ちているようだ
いやいやいや、半殺しも駄目だからな。皆して瞳に光がなくてとても怖い。
五十鈴は目の前の光景から目をそらしたくなった。
ちょっと獣人国に行ってくるだけだっていうのに、まったく
「とりあえず落ち着いてください」
ふぅっとため息をはくと皆してビクッとしている。怒られるとでも思っているんだろうか
「銀月、一緒に行ってくれますか?」
「勿論です! 断るはずがありません! 」
「良かったです。ということで、明日は銀月と行きます。黒桜、今回は一緒に行かないだけですからね。私が留守の間は私の代わりを頼みました。」
「仕方ありません……銀月、しっかり主をお守りするんだぞ」
「当たり前だ」
君達私よりも弱いでしょうがっとは言えない五十鈴である
「火花と雪音も留守を頼みます。獣人国に行ったら卵の実を買ってきますから、帰ってきたら二人が作ってみたいって言ってた玉子焼き一緒に作りましょう」
五十鈴がぽんぽんっと頭を撫でながら言うと、渋々ながらもはいっと返事が返ってきた。
「琥珀、銀月の代わりを頼みます。」
「はい! 主様が言うのであれば! 」
主に頼まれて嬉しいのか、さっきの様子が嘘のような態度だ。
五十鈴と一緒に行けることになった銀月はその日一日ずっと機嫌がいい。
それを見て鬼桜がいまだに悔しそうな顔で見ているのが少し面白いと思ってしまった五十鈴。
夕飯時では、銀月のご飯だけ何故か少なくなっていた。
五十鈴が自分のおかずを分けようとしたら止められ、銀月の皿には大量の湯がいたほうれん草が追加され緑の山が出来ている。
銀月がほうれん草をすべて食べ終えたその日の晩、五十鈴の部屋にやって来たのは火花と雪音
「主様にお渡ししたいものがあって」
「や、夜分遅くに申し訳ありません。」
「先程、やっと出来上がったものですから」
そう言って二人が差し出したのは和物の白い羽織。フードらしきものが付いていて下の裾付近には金糸で小さい桜が一つ刺繍されている。
「羽織は私が作ったんですよ。主様はいつも黒いお召し物ですから、白いものを羽織っていただきたくて。
雨なども防ぐにはどうしたらいいか考えて、首の後ろに布を付けたんです。頭に被せられるように」
「さ、桜の刺繍は私です……お裁縫は苦手ですけど、主様は色んな国に自ら行くって思って。
火花と一緒に主様が無事にこの国に帰れるようにって思いを込めて作ったんです」
嬉しいサプライズだ。
「ありがとうございます。明日からこれを着させてもらいますね。」
二人は嬉しそうに笑って自分の部屋に戻って行った。
それを確認してから羽織に腕を通す。
刀を背負って菊結びになっている赤い紐を胸の前で結べば完成。
うん、ぽいな……
桜国は和風なのだからセーラー服だけじゃ締まらない。これで少しは和服感が出る。
だが、黒いセーラー服に白い羽織を羽織るだけで二次元感が半端ない……
刀を背負うための赤い紐の菊結びが余計にぽく見せる要因な気がすると五十鈴は思った。
明日は忙しくなる、そう考えると眠気が襲って来るのだから人とは良くできた生き物だ。
五十鈴は素早く寝巻に着替えて布団にはいった
明日はとうとう獣人国に向かう、どんな国だろうかそんなことを想像しながら目をつぶれば、いつの間にか五十鈴は眠ってしまっていた。
白い羽織、各ゲームのサプライズじじいをイメージして書いております。
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