「重なる想い、揺れる世界 ――“全員の本音”が交差する夜」
その夜、学園の中庭は静まり返っていた。
昼間は生徒で溢れかえる場所も、
夜になると、噴水の水音だけが淡々と響く。
俺は、そこに立っていた。
――四人を呼んだのは、俺自身だ。
逃げないと決めたから。
選ぶだけじゃなく、向き合うと決めたから。
ほどなくして、一人目が姿を見せる。
◆ローゼリア
白いカーディガンを羽織り、
いつもと変わらない柔らかな微笑み。
「ブランデー様……
皆さんも、呼ばれているのですね」
その声は穏やかだが、
覚悟を知っている人の目をしていた。
次に現れたのは――
◆アルティナ
腕を組み、壁に背を預ける。
「……全員集合ってやつね。
まあ、覚悟はしてたわ」
強気な口調の裏に、
わずかな緊張が滲んでいる。
そして――
◆ルナ
静かに歩いてきて、
俺の隣ではなく、少し離れた場所に立つ。
「未来、見えない。
でも……だから来た」
最後に――
◆リュミエラ
夜でも分かるほどの気品。
王女としての姿勢を保ちながらも、
その瞳は“一人の少女”のものだった。
「皆さま……
本日は、お集まりいただきありがとうございます」
四人が揃った瞬間。
空気が、張りつめた。
◇
【沈黙を破ったのは、アルティナ】
「で?
ブランデー、今日は“誰を選ぶ”話?」
単刀直入。
逃げ道を断つ言葉。
俺は首を振った。
「違う。
“どうやったら、誰も失わないか”を話したい」
四人の表情が、微かに揺れる。
ローゼリアが、そっと言った。
「……それは、とても優しいけれど……
同時に、とても残酷な願いですね」
ルナも小さく頷く。
「一人を選ぶ未来は、見える。
でも“全員が救われる未来”は……
まだ、輪郭が曖昧」
リュミエラは、静かに問いかけた。
「ブランデー。
あなたは“全員を恋人にしたい”わけでは、ありませんわよね?」
核心だった。
逃げずに、答える。
「……違う」
その一言で、
少しだけ空気が緩む。
◇
【ブランデーの告白】
俺は、噴水の縁に腰を下ろし、
四人の顔を順に見た。
「ローゼリア。
俺は、君の優しさに救われた」
彼女の指先が、きゅっと握られる。
「アルティナ。
君の強さは、俺に“弱くてもいい”って教えてくれた」
アルティナは、視線を逸らしながら舌打ちする。
「ルナ。
君は未来を捨てて、今を選んだ。
それがどれだけ勇気のいることか、俺は知ってる」
ルナは、目を閉じて息を吐いた。
「リュミエラ。
君は国を背負って、それでも恋を選ぼうとしている」
リュミエラは、胸に手を当てて一礼する。
「ありがとう。
それだけで、報われますわ」
俺は続けた。
「俺は……
誰かを“都合よく選び続ける”つもりはない」
その言葉に、
全員の視線が集まる。
「恋は競争じゃない。
勝った負けたで、切り捨てるものじゃない」
一度、深呼吸。
「でも同時に、
“全員を恋人にする”なんてことも、しない」
アルティナが、低く笑った。
「……当たり前でしょ。
それやったら、殴る」
◇
【世界の条件】
その時――
ゼロの声が、全員に聞こえる形で響いた。
《解析結果を共有します》
全員が息を呑む。
《この世界は“勇者の感情”を基軸に構築されています》
《特に“恋愛感情”は、
世界安定値を大きく左右する要素》
《条件は三つ》
一つ目。
《勇者が“自分の幸福”を否定しないこと》
ローゼリアが、小さく頷く。
二つ目。
《選ばれなかった者が、
“自分の価値を否定しない未来”を持つこと》
ルナが、息を呑んだ。
三つ目。
《選ばれた相手が、
“他者を排除しない覚悟”を持つこと》
リュミエラが、目を見開く。
アルティナが腕を組んだまま、言った。
「……つまり?」
ゼロは淡々と答える。
《“誰かが幸せになることで、
誰かが壊れない”選択をしなければ、
世界は歪みます》
静寂。
重いが、逃げられない真実。
◇
【それぞれの本音】
最初に口を開いたのは、ローゼリアだった。
「……わたし、分かっていました」
微笑みながらも、瞳は潤んでいる。
「ブランデー様が、
“全員を抱え込む”方ではないこと」
一歩、前に出る。
「それでも、
選ばれなかったとしても……
わたしは、わたしで在りたい」
アルティナが続く。
「私も。
負けたからって、価値がなくなるほど
弱くなったつもりはない」
拳を軽く握る。
「……悔しいけどね」
ルナは、少し俯いてから言った。
「未来が一つじゃなくなった今……
“選ばれなかった未来”も、
ちゃんと生きられる気がする」
最後に、リュミエラ。
「恋は、所有ではありません」
凛とした声。
「誰かを選ぶということは、
他を否定することではない」
視線を俺に向ける。
「ブランデー。
あなたがどの道を選んでも、
わたくしは“あなたを愛した自分”を誇ります」
その言葉で――
胸の奥が、少し軽くなった。
◇
【ブランデーの決意】
俺は立ち上がり、
四人を見渡す。
「……ありがとう」
一人ずつ、ちゃんと目を見て言う。
「まだ、答えは出せない」
正直な言葉。
「でも、
“誰も失わない未来が存在しない”とは、
俺は思わない」
夜風が、噴水の水面を揺らす。
「時間をくれ。
逃げるためじゃなく、
本当に選ぶために」
四人は、それぞれのやり方で頷いた。
誰も泣いていない。
誰も取り乱していない。
それが、何よりの証拠だった。
◇
【ラスト】
その場を離れた後、
ゼロが静かに告げる。
(マスター。
世界安定値、上昇中)
(“全員が自分の価値を肯定している”状態は、
極めて稀です)
「……まだ、道の途中だな」
(はい。
ですが――)
一拍置いて。
(“破滅する未来”は、
ほぼ消滅しました)
夜空を見上げる。
星は、まだ揺れている。




