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神々からの恩恵  作者: 暁 龍弥
また、異世界?!

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48/53

「剣を置く理由 ――“強い私”じゃなくても、そばにいていい?」

朝の空気は、いつもより澄んでいた。


学園の訓練場から聞こえる、金属がぶつかる音。

規則正しく、無駄がなく、そして力強い。


――間違いない。


「……アルティナだな」


ゼロが脳内で即答する。


(はい。

 本日早朝5時12分から自主訓練を開始しています)


(本日のデート予定時刻は10時。

 すでに3時間以上、剣を振り続けています)


「デート前に修行ってどういう感情だよ……」


(アルティナ様にとって

 “剣を振ること=心を落ち着けること”です)


なるほど。

戦士らしいと言えば、戦士らしい。



【訓練場】


俺が訓練場に足を踏み入れた瞬間、

空気がピンと張りつめた。


アルティナが、汗に濡れた髪を揺らしながら

黒剣を振り抜いている。


一撃一撃が、正確で、重くて、速い。


(……やっぱ、強ぇな)


最後の一振りを終え、

アルティナは気配に気づいて振り返った。


「……来たわね」


息は少し荒いが、

表情はいつも通りの強気。


「待たせたか?」


「別に。

 勝手に振ってただけ」


そう言いながらも、

剣を地面に突き立てて、深く息を吐く。


その横顔は――

“戦士”じゃなくて、ただの少女みたいだった。



【アルティナの提案】


「で、今日のデートだけど」


アルティナは腕を組み、俺を見る。


「街とか、甘い場所とか……

 そういうの、得意じゃない」


「だろうな」


即答したら、睨まれた。


「だから――」


アルティナは一瞬、視線を逸らしてから言った。


「……訓練、付き合いなさい」


「デートで?」


「デートでよ!!」


即キレ。


だが、その顔は少し赤い。


「私にとって、剣を振ることは“生き方”なの。

 それを見せないでデートとか、ズルいでしょ」


なるほど。

これはアルティナなりの“本気”。


「いいよ。

 俺も剣、少しは振れるし」


「本気で来なさい。

 手加減したら……嫌だから」


その一言が、妙に胸に響いた。



【模擬戦】


木剣を手に取り、

訓練場の中央に立つ。


アルティナは、いつもの黒剣ではなく

少し軽い訓練用の剣を選んだ。


「いくわよ」


合図はない。


一歩踏み込み、

風を切る音とともに剣が迫る。


速い。

だが、殺気はない。


“見せる剣”。


俺も応じる。


ガンッ、と木剣がぶつかる。


数合打ち合ったところで、

アルティナがふっと笑った。


「……悪くないじゃない」


「褒め言葉として受け取っていいか?」


「当然でしょ」


だが――

徐々に、アルティナの動きが荒くなる。


力任せ。

速さも増している。


「……どうした?」


「……っ」


答えない。


一瞬の隙を突いて、

俺は剣を弾き――


カラン、と音を立てて

アルティナの剣が地面に落ちた。


勝負あり。


……なのに。


アルティナは、動かなかった。



【剣を置いた少女】


「……ねぇ、ブランデー」


背を向けたまま、

アルティナが低い声で言う。


「私ね。

 ずっと“強い私”でいなきゃいけなかった」


風が吹き、

汗に濡れた髪が揺れる。


「弱いと、捨てられる。

 役に立たないと、必要とされない」


ゆっくり振り返る。


その瞳は――

戦士の鋭さじゃなく、

傷ついた少女の色だった。


「だから、剣を置くのが怖かった」


俺は、剣を下ろした。


「……置かなくていい」


「違う」


アルティナは、首を振る。


「“置ける場所”が欲しかった」


そして、俺をまっすぐ見る。


「ブランデー。

 あんたは……強くなくても、そばにいさせてくれる?」


胸が、ぎゅっと締めつけられた。



【答え】


俺は、ゆっくり歩み寄る。


アルティナの前で立ち止まり、

そっと手を差し出した。


「剣を持ってても、

 置いてても」


手が、少し震えている。


「アルティナは、アルティナだ」


一瞬、時間が止まったように感じた。


次の瞬間――


アルティナは、

思い切り俺に抱きついた。


「……っ、バカ……」


声が震えている。


「そんなの……

 ずっと欲しかった言葉じゃない……」


俺は、そっと背中に手を回す。


しばらく、誰も喋らなかった。



【“デート”の続き】


少し落ち着いた後、

二人で訓練場を出る。


アルティナは剣を背負っているが、

さっきよりも軽そうだ。


「……この後、どうする?」


「甘いもの、嫌いじゃないんだろ?」


「……知ってた?」


「なんとなく」


少し照れた顔で、そっぽを向く。


「じゃあ……

 街で、甘いの食べる」


「それ、デートっぽいな」


「うるさい」



【街の菓子屋】


小さな菓子屋で、

二人並んでパフェを食べる。


アルティナは最初、

ぎこちなくスプーンを動かしていたが――


「……美味しい」


ぽつりと呟いた。


「剣振ってる時と、

 全然違う顔だな」


「見るな」


だが、その声は柔らかい。


「ねぇブランデー」


「ん?」


「私、まだ負ける気ないから」


「恋の話か?」


「全部よ」


小さく笑う。


「でも今日は……

 剣を置いても、私は私だって思えた」


それは、

勝敗よりも大きな一歩だった。



【別れ際】


夕方、学園の門の前。


アルティナは少し考えてから、

俺の袖を掴んだ。


「……今日は、ありがとう」


「こちらこそ」


一瞬、躊躇ってから――

額に、軽くキス。


「これは……

 戦士の挨拶だから」


耳まで赤い。


俺は笑った。


「次は?」


「次は……

 負けない」


剣を背負い、

振り返らずに歩いていく。



【ラスト】


部屋に戻ると、ゼロが報告する。


(マスター。

 本日のデートにより――)


(アルティナ様の“戦闘力”は微減しましたが、

 “存在安定値”が大幅に上昇しました)


「良い変化ってことか?」


(はい。

 “壊れにくくなった”という意味で)


俺はベッドに倒れ込む。


剣を置いた少女。

未来を捨てた少女。

優しさを選んだ少女。



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