「誰かを選ぶんじゃない。――“自分の幸せ”を選ぶ日」
学園祭・最終日。
昨日の暗殺者襲撃のことは
結界と未来改変と情報操作により、
学校の誰一人として気づいていない。
だが――
守った側の胸には重く残っていた。
俺が倒れかけたシーン。
初恋の告白。
“俺も幸せになりたい”と泣きながら言った瞬間。
それが四人の心に火をつけた。
今日、全員が本気で“勝ちにくる”。
舞台は最終イベント――
《表彰式&願いの儀式》。
優勝者の願いは必ず叶う。
つまり――
優勝=ブランデーと公式“初デート権”
全校生徒の前で、堂々と。
◇
【午前:最後の追い込み】
学園中を歩くと、
四人が最後の一押しをしているのが見えた。
◆ローゼリア
喫茶を拡張し、
生徒だけじゃなく教師や父兄まで相談に来ている。
恋・家庭・夫婦・進路・友人関係――
「幸せになりたい人を幸せにする」
その純粋な想いが一番票を集めていた。
相談者の一人が涙を流した後、笑顔で言った。
「ありがとう。生きてみようって思えた」
ローゼリアは笑った。
静かに、誇らしく。
俺に気づくと、胸に手を当てて小さく頭を下げた。
「見ていてください。
今度はわたしが誰かを“救う番”です」
◆アルティナ
武闘大会の優勝者インタビューに引っ張り回されていた。
「好きなタイプは?」「どこで習った剣術?」「結婚は!?」
記者まがいの質問にイラつきながらも
“最後まで戦う覚悟”がぎらぎら燃えている。
そして俺を見つけた瞬間――
全ての雑音を無視して一直線に来た。
「言っておくけど、私は恋で負けない。
強さじゃなくて、想いで勝ちに行く」
そして――小さく囁いた。
「私の全部を預けられる相手は、あなただけ」
◆リュミエラ姫
舞踏ショーのアンコールは止まらない。
国王からの“帰還命令”も、褒め言葉も、非難も、
何一つ顔色を変えない。
姫は国民でも教師でも観客でもなく――
“俺だけ”を見て踊る。
音楽の終わりとともに、
姫は俺にしか聞こえない声で言った。
「負けませんわ。
人生全て賭けていますもの」
◆ルナ
未来予知カジノに加え、
“未来からの手紙”イベントを開催。
人々は未来の失敗を知り、
その失敗を避ける選択をし、
未来を幸せに変えていく。
参加者全員の顔が明るくなっていく。
ルナは俺の前に来て笑う。
「覚悟して。
私は“幸せになる未来”しか選ばない」
四人全員が“誰かを救う形”で走り切った。
恋の力=誰かを幸せにする力だと証明していた。
◇
【夕方:表彰式】
校庭中央、大舞台。
優勝者発表の時が来た。
司会がマイクを握る。
「栄えある総合優勝は――――」
観客全員が固唾を呑む。
ローゼリア
アルティナ
リュミエラ
ルナ
全員が前を向いている。
誰も怯えず、震えず、他人を見ず。
ただ“勝ちたい”という想いだけがある。
司会が封筒を開き――読み上げた。
「総合優勝は……
《ローゼリア・ノア・リヒト》!!」
歓声。
拍手。
どよめき。
ローゼリアは驚き、口元を押さえ、涙が浮かんだ。
だが――泣かなかった。
代わりに微笑んだ。
嬉しさと誇りが綺麗に混ざった笑みだった。
司会が進行を続ける。
「では優勝者の願いを叶えます!
願いをどうぞ!!」
観客全員の視線がローゼリアへ。
ローゼリアは一歩前に出て――
俺の名を呼んだ。
「ブランデー様」
歩み寄る俺。
だが、ローゼリアは涙をこらえながら――予想外の言葉を言った。
「わたしの願いは――
“今、ブランデー様をデートに誘わないこと”です」
観客がざわつく。
司会「え、願いを……使わない!?デートじゃなくて!?」
ローゼリアは震える声で続ける。
「わたしだけ幸せになりたいわけじゃありません。
わたしが初デート権を取ったら――
ほかの三人が必ず泣きます」
リュミエラ、アルティナ、ルナの胸が揺れる。
ローゼリアは微笑んだまま涙を流した。
「わたしは“ブランデー様が幸せになる形で”勝ちたい。
だからこの願いは使いません」
会場が静まり返る。
「幸せは奪うだけじゃない。
“分け合ってもいい”」
その言葉で――
四人全員が涙を流した。
◇
そして――
司会が、もう一度願いの権利を読み上げる。
「優勝者の願い権は行使されなかったため――
次点者に権利を移行します!!」
次点は――
アルティナ
観客が息を飲む。
アルティナは泣き顔のまま大笑いした。
「ローゼリア。
あんたほんと、勝たせてくれないわね……!!」
アルティナは一歩前へ出た。
観客が息を呑む。
だが。
「願いは一つよね?
なら私は――
《三人と同じ条件にすること》を願う」
会場が再びざわつく。
アルティナは吠えた。
「私は“私だけの勝利”なんかいらない!!
全員同じラインで戦って、
本気で勝った時にブランデーを抱きしめたい!!!」
全校生徒が泣いた。
司会は震えながら宣言する。
「願い権は再度“保留”扱いとなる!!
三位へ移行!!」
三位は――
リュミエラ・アルトリアーナ姫
世界が止まった。
王女はゆっくり歩み出て、
涙で滲んだ瞳のまま笑った。
「わたくしの願いは――
《全員が幸せになれるよう、わたくしの権利も保留》ですわ」
叫ぶような拍手が起きる。
姫はドレスを揺らしながら宣言する。
「ブランデーは“誰かを選ぶ”のではありません。
ブランデー自身の幸せを選ぶのです」
場内は涙でいっぱい。
そして……
「権利は四位へ移行!!」
四位は――
ルナ
未来視の少女は泣きながら笑う。
「未来は変わった。
“誰かだけ幸せになる未来”じゃなくなった」
そして、願いを告げる。
「私の願いは――
《最初のデートを決めるのは、ブランデー自身》」
会場は爆発的な拍手に包まれた。
誰も勝たず、誰も負けず、
ブランデーに決定権が戻った。
◇
司会は震える声でマイクを向ける。
「ではブランデー。
最初のデートの相手は、誰にしますか?」
四人が俺を見る。
覚悟、涙、勇気、愛。
そして俺は――
逃げなかった。
「……今日までずっと、誰かを選べなかった。
誰かを選んだら、誰かを傷つけるって思ってたから」
観客が息を呑む。
「でも――違うんだな。
誰かを選ぶってことは、
誰かを捨てることじゃない」
涙が溢れそうになる。
「俺は“自分の幸せ”を選びたい。
幸せになる権利を怖がらずに取りに行く」
四人の瞳が震える。
「最初のデートは――」
名を呼ぼうとした瞬間。
ゼロが、震えるような声で囁いた。
(マスター……選ぶその瞬間、
世界の命運が決まります)
(恋の選択が、世界の形になる)
(でも恐れないで――
“選んだ相手を幸せにすれば、世界は救われる”)
俺は一歩前へ出て――
たった一人の名前を呼んだ。
「俺が最初にデートしたいのは――――」
空気が震え、光が走り、
世界の魔法システムが反応する。
四人のうち一人の名前が――
俺の口からしっかりと発せられた。
それは“恋”の始まりであり、
同時に“世界救済”の始まり。




