「舞踏ショー決戦 ―― 戦う理由は“恋”でいい」
学園祭2日目・夕方。
いよいよリュミエラ姫の《舞踏ショー》本番が始まる。
巨大野外ステージは満席。
観客席は溢れ、遠くの屋上や渡り廊下にまで人が押し寄せていた。
今回の出し物はただのダンスではない。
“王族舞踏式プロム”
観客の中から“運命の相手”を選び、
ひと曲だけ踊りを捧げるという――恋と王族の象徴的儀式。
そしてその“運命の相手”として名指しされているのが――俺だ。
◇
照明が落ち、静寂。
次の瞬間――
白いドレスが光に溶け、リュミエラ姫が登場した。
息を呑む観客たち。
誰も声を出せないほど美しかった。
“王女”じゃない。“戦乙女”でもない。
ただ“恋する少女”の顔だった。
演奏が始まり、姫が観客席に向かって指を伸ばす。
「ブランデー。
どうか、わたくしと一曲、人生を踊ってください」
拒否なんてできるはずがない。
手を取り、ステージの中央へ。
音楽に合わせて踊る――
なんて優雅で現実離れした時間なのに
姫の手の震えがはっきり伝わってきた。
「怖い?」と聞いたら、
「いいえ……幸せすぎて、怖いのです」と答えた。
観客は悲鳴にも似た拍手。
憧れ、焦燥、嫉妬、歓声――
全てが混ざり、ステージは熱に包まれていく。
だが――
ゼロが警告した。
(マスター、敵本隊の魔力反応――25名!!
襲撃は今!!)
次の瞬間――ステージの上空が裂けた。
空から影が降り注ぐ。
刃、呪詛、魔力、爆発の予兆。
「勇者の幸福の象徴を――破壊しろ!!」
ステージが狙われている。
目的はリュミエラ姫の“公開告白”の破壊。
つまり俺の幸福そのものを叩き潰すこと。
俺が動こうとした瞬間――
姫が俺の手を強く握った。
「行かせませんわ、ブランデー。
この曲を最後まで踊りたいのです」
「でもステージが――」
「だから守ります。
“あなたを守るのがわたくしたち”ですわ」
視線だけで――四人と意思が繋がる。
次の瞬間。
■ローゼリアの結界が張られる
「――《境界結界・願花》!!」
ステージの上空から降りそそぐ刃も呪いも爆破も
全部、舞い散る花びらへ変わる。
観客は気づかない。
ただ花が舞って美しいとさえ思っている。
■アルティナが跳ぶ
黒剣が閃き――影の軍勢の武器を次々と叩き折る。
「ここは踊りのステージ。
血を流す場所じゃない」
次の瞬間――
「消えろッ!!」
振り下ろした一撃が地面に走り、
影の兵を数十人まとめて吹き飛ばした。
■ルナが“暗殺計画”そのものを書き換える
「――《未来改稿》」
ルナは未来のページを破り、違う未来を上書きした。
「“ここで暗殺は失敗する未来”に変更した。
もう勝ち確だよ」
■姫は踊りながら魔法を撃ち返す
「王族の恋は弱さではありません。
強さですわ!!」
槍の形をした魔力が、舞踏の軌道のまま敵を撃ち抜く。
観客は音楽に夢中で
ここが戦闘の最中だとすら気づいていない。
演目と戦闘が融合している――瞳から涙が出そうになるほど美しい。
◇
戦いながらも、演奏は止まらない。
姫は俺に視線を向けて微笑んだ。
「わたくしは――今日だけは、王女ではなく“恋する女”です」
そして俺の胸に手を当てて囁く。
「ブランデー。
あなたの“初恋”を聞かせてください」
世界が止まった。
姫の瞳だけじゃない。
ローゼリアも、アルティナも、ルナも――
戦いの最中に聞いていた。
観客の声は届かないのに、
俺の“心”の声は四人に届く。
「初恋……?」
ずっと閉じていた記憶。
怖くて蓋をしていた記憶。
俺は、戦いの最中に――初めて口を開いた。
「昔……ずっと好きだった子がいたんだ」
姫の目が揺れる。
四人の心が震える。
「でも、俺みたいなのが好きになっちゃダメだって思ってた。
その子は優しくて人気者で、俺なんかが好きになったら迷惑だって。
だから“自分の気持ちを持つのが罪”だって思い込んでた」
戦闘の音は聞こえるのに、
俺達の会話だけが鮮明に響く。
「告白できなくて、何も言えなくて、
“俺は幸せになっちゃいけない”って思いこんだまま――
初恋を終わらせた」
震えた。
喉も痛い。胸も痛い。
だけどやっと言えた。
ローゼリアが呟く。
「だから……誰かの幸せを優先しようとしていたんですね」
アルティナが拳を握り締める。
「いつまで独りで傷ついてきたのよ……!」
ルナの瞳が濡れたまま笑う。
「初恋を失うのと同時に……“自分の幸せ”を捨てちゃったんだね」
リュミエラ姫は手を重ねて言う。
「では――“二度目の恋”は救わせてください」
姫の瞳が涙に震え、でも強く光った。
「あなたは幸せになっていい。
恋していい。
愛されていい。
愛していいんです」
敵が最後の突撃を試みた。
だが姫は踊りを止めず――囁いた。
「《王命――恋の守護》」
光が爆発した。
ローゼリアの結界、
アルティナの戦闘、
ルナの未来視、
姫の王命魔法。
四つの恋が同期し――
影の暗殺者本隊は秒殺で消えた。
演奏は最後まで続き、
曲が終わった瞬間――観客席は歓声に包まれた。
誰も、戦いがあったことを知らない。
ただ――
最高の舞踏ショーが成功した。
恋の奇跡が起きた。
そんな空気だけが残った。
姫は俺に寄り添って小さく囁いた。
「ブランデー。
あなたの“初恋”は終わってしまった。
なら――次は幸せにしましょう」
ローゼリア
「あなたの恋は“痛み”で終わらせない」
アルティナ
「“強さ”で奪うんじゃない。“幸せ”で奪いにいく」
ルナ
「未来は変わった。
“ブランデーが幸せになる未来”が見える」
四人は戦いの勝利よりも、
願いの優勝よりも――
ブランデーの心が救われたことを喜んだ。
涙を流したのは――俺だった。
◇
ゼロが静かに呟く。
(これで――条件が揃いました)
(“勇者の幸福が世界を救う”システムが発動する準備が整った)
(学園祭・最終日。
“願いを叶える権利”を得るのは誰か)
(その時――世界の形が決まります)
気づけば、三日目になっていた。




