「学園祭の火蓋 ―― 秘密と過去と未来と、そして『初デート権』戦争」
勇者狩り事件から数日後。
表向きは何も起きていない――はずだった。
だが、学校中の空気は変わっていた。
廊下でも教室でも、誰かがヒソヒソ声で俺達を見ていた。
「ねぇ聞いた?勇者候補四人と仲がいい男子って……」
「しかも全員美少女だろ?何者だよアレ」
「ブランデーって最近転入してきた子だろ?なんかもうあれ漫画じゃね?」
新学期でもないのに、学校がざわついている。
当然だ。
・王女
・宰相の娘
・魔導学院主席
・未来の大英雄(候補)
その四人が――全員俺の周りにいるのだから。
俺の机の周囲だけ、まるで“結界領域”のようだった。
ゼロが脳内でつぶやく。
(マスター、時価評価で言えば――
“学園ラブコメ主人公として市場価値MAX”です)
「そんなランキングいらん」
(しかしヒロイン達は“本気”です。これからは全員が“攻勢”に出ます)
嫌な予感しかしない。
◇
【ホームルーム】
担任が教壇に立つ。
「えー、来月は学園最大イベント《学園祭》が行われる!
クラス・個人・部活・有志で出し物を決めるんだが――」
そこで担任は一度咳払いし、生徒達の視線を誘導するように俺を見た。
「有志でのデート企画は禁止な。
ブランデーを巡って殺し合いになると困るからな」
「先生?!なんで俺だと決めつけてるんだ?!」
クラス爆笑。
ローゼリア 「……先生、冗談が毒舌すぎます」
アルティナ (ニヤッ)「だが起こり得る話よね」
リュミエラ 「王城の会議より緊張感がありますわ」
ルナ 「デート企画禁止って言われたら逆に燃えるよね〜?」
おい未来視少女。煽るな。
担任は続ける。
「ちなみに学園祭終了後《表彰式》がある。
その優勝者は《願いをひとつ叶える権利》が得られる」
――空気が変わった。
その“願い”とは?
金品?栄誉?
違う。
ほぼ全員が同時に俺に視線を向けた時点でわかった。
「ブランデーと一日デートしたい」
全員がそう願う未来が見える。
ゼロが脳内で実況する。
(ヒロイン四人の思考解析――
願い=“初デート権”で確定)
(つまりこの学園祭――
“恋の戦争の舞台”となります)
先生、頼むからそんな景品を用意するな。
◇
【放課後:作戦会議】
誰が呼んだわけでもないのに、ヒロイン四人+俺は自然にいつものガゼボに集まった。
事件の時と違い、今日は穏やかな表情――
でもその奥には、強い闘志と期待が宿っている。
ローゼリアが穏やかに問いかける。
「学園祭……ブランデー様は、私たちに干渉する気はありますか?」
「ない。公平でいたい。
努力と本気を、全部尊重したい」
四人は同時に笑った。
“それでいい”という笑み。
アルティナが宣言する。
「なら私は《武闘大会》で優勝して願いを取る」
ルナがすかさず返す。
「じゃあ私は《未来予知カジノ》を主催して大儲けして優勝するね」
リュミエラ姫も上品に勝負を宣言。
「わたくしは《王族式舞踏会ショー》を開催します。
優勝賞は必ず勝ち取りに参りますわ」
ローゼリアは静かに微笑む。
「私は《恋愛相談喫茶》をします。
恋の悩みを解決し、“幸せな人”を一番増やします」
全員の計画――強すぎる。
ゼロが驚く。
(この学校、明日から経済圏が変わりますね……)
だが四人は争うわけではない。
対立しながら、互いの努力は認め、尊重する。
恋の戦いは――美しい形に進化している。
◇
【しかし、その裏で】
事件は水面下で進む。
《勇者狩り》が全滅した夜から――
“監視”が続いている。
影。
黒い靄。
見えない刃の気配。
リュミエラがふと呟く。
「敵は……また動いている気がしますわ」
アルティナが冷静に分析。
「学園祭は狙い目。混乱・人混み・警備分散。
勇者暗殺には絶好の機会」
ローゼリアもうなずく。
「だからこそ、私たちが守ります。
ブランデー様に狙われる理由があるなら――なおさら」
ルナは未来を見つめる。
「うん、敵は必ず来るよ。
でも“来た瞬間に後悔させる”未来にしておくから」
みんな優しいのに、守る時だけ残酷になれる。
その強さが――俺には胸を締め付けた。
◇
【夜】
寮の部屋で、ゼロが珍しく真剣な声を出した。
(マスター。
この“恋と戦いの物語”には核心があります)
(勇者が愛されるほど――
世界の防衛力が上がるシステム)
(逆に言えば――
勇者が不幸になるほど“世界は崩壊する”)
(敵が“お前の幸せを阻む”理由はそこ)
俺は息を飲んだ。
「つまり俺が愛されたら世界が守られる。
だが俺が孤独になれば、世界が滅ぶ」
(その通りです)
ゼロは静かに問う。
(では、マスター。
――あなた自身は、本当に幸せになってもいいと思えますか?)
胸が痛む質問だった。
たしかに俺は“四人を幸せにしたい”と願ってきた。
でも――
“自分が幸せになっていいかどうか”は、まだ答えを出せていない。
言葉にできない沈黙を破ったのはゼロ。
(安心してください。
あなたが幸せになる権利を持っているかどうかは――
学園祭で答えが出ます)
「学園祭で?」
(はい。
――学園祭の最後に、四人は“本心”を告げます)
(その言葉を聞いた時、あなたは初めて“自分の幸せ”を選べる)
だから戦いは避けられない。
学園祭はただの行事じゃない。
恋の戦線。
幸せの決戦。
世界の分岐点。
ゼロが静かに締めくくる。
(その時――“涙”は避けられません)
(でもそれは“誰かが傷つく涙”ではなく、
“誰かが救われる涙”に変わるでしょう)
俺は息を吸い――
胸に拳を当てた。
「全員幸せにする。
絶対に泣きっぱなしにはさせない」
ゼロは満足そうに微笑む気配を返した。
(なら――行きましょう)
(恋と戦いの舞台、学園祭へ)




