「恋と戦いは両立する。守るために戦う――勇者陣営、初陣」
ガゼボを包囲する黒装束の集団。
十数名ではあるが、全員が異常な気配を放っていた。
ゼロが即座に解析する。
(マスター、全員がS〜SSS級。
“勇者殺し専用の対勇者戦闘スキル”を所持)
(……油断したら殺されます)
四人のヒロインが同時に前へ出た。
ローゼリアの瞳――淡いピンクが強い光を帯びる。
「手を出すなら……覚悟して下さい。
これは恋の戦いではなく、“守る戦い”です」
アルティナは黒剣を抜き、低く構える。
「斬るよ。
ブランデーを傷つけるために現れたなら容赦しない」
リュミエラ姫は魔力で髪飾りを起動し、淡く輝く魔法陣を展開。
「王城とは違い、今日は“姫”ではなく“女”。
恋人候補を殺しにくる敵は敵。容赦しませんわ」
ルナは微笑を保ったまま、影のように姿勢を低くし――
「未来視の結果だけ教えるね。
――勝率100%。負ける未来は存在しない」
その瞬間、勇者狩りのリーダーが叫んだ。
「四人まとめて殺せ!
勇者は“守りたいものがあるほど弱くなる”!!」
――違う。
“守りたいものがあるほど人は強くなる”。
俺が口を開く前に――ヒロイン達が動いた。
◆
【ヒロイン無双開幕】
■アルティナ
最初に飛び出したのは黒剣の少女。
「――《黒穿・虚影連鎖》」
剣が一度だけ振られた。
ただそれだけ。なのに――敵十名の剣が次々と砕け散る。
弾けた斬撃の痕跡が数秒遅れで発生し、
敵達の胸部・腕部・足を正確に切り裂き、戦闘不能に。
アルティナは剣先を落とし、低く呟いた。
「……次斬るときは命までいくよ」
リーダー格が震えた。
■ローゼリア
敵後衛が追加魔術を重ねる。
「《拘束陣・六芒封魔!!》
《精神断罪・勇者妄執!!》」
ローゼリアが静かに右手を前へ。
「――《境界結界・願花》」
淡い桜色の結界が咲いた。
その内側では――全攻撃が“花弁に変わる”。
剣も、呪いも、精神攻撃も、爆発魔術も。
全て淡い花弁となって散り、香りに変わる。
ローゼリアは優しく微笑んだまま。
「ごめんなさい……誰も傷つけたくなかったのに。
でも、これは“奪ってくる人を拒絶する魔法”なんです」
敵は一歩も触れられない。
■リュミエラ姫
残る前衛が突撃。
だが――姫は逃げない。微笑むだけ。
ドレスが揺れ、魔力が波打つ。
「――《王命・権能解放》」
光が収束し、姿が変わる。
王女 → “戦乙女”
純白と群青の鎧、宝石の槍。
その存在自体が戦場の秩序となる。
「王族の恋は義務じゃありません――“選択”ですわ」
刺す。
突き放すような冷酷ではなく、
“守りたいから倒す”という迷いのない一撃。
敵は全員――昏倒。
■ルナ
最後の敵が影に潜り、暗殺を狙う。
――消えた。
だが、ルナは微笑んだまま振り向く。
「未来の情報、返してあげる」
靴が一回だけ鳴る――“コツ”。
それだけで、暗殺者は地面に叩きつけられていた。
「《時制逆転》――君が攻撃してきた未来を“過去に流して消した”だけ」
敵は完全沈黙。
◆
十数秒。
それだけで勇者狩りは全滅した。
恋のため、守るため、譲らないため。
その感情が全員を最強にした。
リーダーだけが辛うじて動けていた。
震えながら、俺に刃を向ける。
「テ、テメェさえいなければ……
この四人は争わずに済むんだよ!!
お前がいるから――世界が狂うんだ!!」
俺はゆっくり歩み寄り、刃先を指で止めた。
「俺のせいじゃない。
“俺を愛した四人の想い”が原因だ」
剣は粉々に砕けた。
「そこに俺の意思もある――全員を守りたい。
一人も泣かせない。
その覚悟を笑うなら、世界の方が間違ってる」
その瞬間――
胸が熱く燃えた。
ゼロが叫ぶ。
(解放反応ッッ!!
ブランデーの新能力発動!!!)
視界が白く染まる。
◇
【新能力解放】
《恋心共鳴》
――愛する人の感情を“力”に変換する権能。
四人の恋が、俺の力へ。
俺の力が、四人の守りへ。
関係が深くなれば強くなる。
傷つけば弱くなる。
だからこそ――大切にすべき力。
ゼロが告げる。
(この世界の“勇者システム”の真の姿――
“愛の強さが、世界の強さを決める”)
(四人を愛するほど――この世界は救われる)
敵は震え崩れた。
「そんな……ふざけるな……!
愛で世界が救われるわけねぇだろ……!!」
俺は静かに言った。
「救われるよ。
だって、今ここに――
誰かのために命を張れる四人がいる」
敵はその言葉で心が折れたように沈黙した。
戦いは終わった。
だが、四人はまだ戦場の息をしていた。
魔力も体力も削られている。
俺は一人ひとりの手を取り――言葉を置く。
「ありがとう。
守ってくれて、本気でぶつかってくれて。
俺は、四人の想いなしじゃ生きていけない」
言った瞬間――
四人は同時に泣いた。
嬉しさ、安堵、誇り、苦しさ、希望。
全部を抱えた涙だった。
ルナ「泣かせないって言ったのに……バカ……」
アルティナ「……泣かせるんじゃない……っ」
ローゼリア「胸が苦しいのに……幸せすぎて……」
リュミエラ「こういう涙なら……いいですわね……」
俺は全員を抱き寄せた。
「泣いていい。
でもこの涙は“幸せの涙”に変えていく。
必ずそうする」
その瞬間――四人は笑って泣いた。
“世界の戦争”より先に
“恋の幸せ”を勝ち取ると誓う涙だった。
◇
だがゼロが告げる。
(マスター。
勇者狩りは“始まりにすぎません”)
(次は――魔王軍。
そして“神々の思惑”)
(この恋は世界を揺るがす)
俺は答える。
「世界が敵でも、守る。
恋を、四人を、俺の幸せを」
四人は微笑みながら口をそろえて言った。
「――では私たちも、生涯あなたを守ります」
今、陣営が完成した。




