「王女の帰宅ルート。優雅な微笑み、肉食の恋、そして“王族の覚悟”」
翌日。
校門前には――予想どおり“今日の勝者”が立っていた。
白いドレスの上に淡い青のコート。
完璧な姿勢、完璧な微笑、完璧な気品。
第三王女、リュミエラ・アルトリアーナ。
俺を見つけると、深く一礼した。
「お待ちしておりました。
本日はわたくしの番ですわね?」
声は柔らかく微笑んでいるのに、
絶対に逃げられない圧がある。
ローゼリア、アルティナ、ルナは距離から見ている。
だが今日は割り込みはない――
“順番は順番”という暗黙の公平を守っているからだ。
そして、わずかな緊張と宣戦布告の視線を送りつつ。
俺は微笑み返した。
「迎えに来てくれてありがとう。
今日はよろしく頼む」
王女は瞳を少し揺らし、うれしそうに微笑む。
「……その一言だけで、来た甲斐がありましたわ」
◇
【帰り道:王族カー】
帰宅ルートは徒歩ではなく――
豪華な専用馬車(王族仕様)。
座席は向かい合い、机には花とお茶。
完全に王族式デート空間。
だが優雅な沈黙が続くと思ったら違った。
リュミエラ姫は突然、身を乗り出して聞いてきた。
「ブランデー様。
昨日はアルティナさんと帰られましたわね?」
「うん。
アルティナを選んだことは後悔してない」
姫は柔らかく微笑んだまま――
その瞳には“嫉妬の炎”を隠していた。
「では、今日はわたくしを選んだ理由は?」
怖い質問じゃない。
でも逃げられない質問。
俺は正直に答えた。
「君の気持ちを受けとめたかった。
王城会議の時、本気で、苦しそうに、でも堂々と想いをくれたから」
姫は一瞬だけ息を飲み――
目を伏せた。
「……その言葉……卑怯ですわ。
そんな風に優しくされたら……
“王女”じゃなくて“少女”でいられなくなってしまう」
そう言って顔を上げた時――
王女ではなく、一人の女性の表情になっていた。
「わたくし、“政治の道具”として生きてきました。
生まれた時から、王国のために恋を捨てる宿命。
感情を押し殺し、役割を演じるのが当然だと思っていました」
馬車の振動に揺れる涙の粒。
それでも崩れない微笑が痛い。
「でも、あなたに会ってしまった。
恋なんて知らなかったのに……
胸が苦しくなって、嫉妬が怖くて、
笑顔でいたいのに涙が出る……」
震える声。
「これが“恋”なら……二度と手放したくない」
王女は手を胸に当て、小さく絞り出す。
「わたくしは王族。
簡単に“普通の恋”なんてできません。
でも……それでも、あなたを愛していたい」
俺は迷わず答えた。
「俺は“王女だから愛す”わけでも、
“王女だから距離を置く”わけでもない。
リュミエラが俺を想ってくれるなら、
俺はリュミエラを大切にしたい」
言葉を受けた瞬間――
姫の瞳が潤んだ。
「……っ、ダメですわ……今のは反則……」
そのまま俺の肩にそっと頭を寄せる。
奪うようでも、依存でもなく――
ただ寄り添う愛。
「なら、今日だけは……少女でいさせてください」
その頼みを断れるわけがない。
俺達は馬車の中で静かに寄り添った。
沈黙、だけど幸せな沈黙。
姫は涙を拭きながら微笑む。
「あなたが誰を選んでも、わたくしは幸せになる努力をします。
でも――諦めませんわ。
必ずあなたの心を手に入れます」
瞳が真っ直ぐで、誠実で、覚悟に満ちていた。
これが――王族の恋。
◇
【帰り道:寄り道】
突然、姫が言う。
「ブランデー様。
少し寄り道、しませんか?」
馬車が止まり、案内されたのは――
見晴らしのいい丘にある“夜景の庭”。
街の灯りが宝石のように輝き、
星空と混ざって境界が消えるほどの景色。
「ここは……“好きな人と見ると運命が結ばれる場所”と噂ですの」
照れながら言う姫の横顔は
普段の完璧な王女ではなく――恋する少女のそれ。
俺は笑わず、期待も煽らず、ただ隣に立った。
「じゃあ……見よう。
二人で」
姫は泣きそうなくらい嬉しそうに笑う。
しばらく夜景を眺めて――
姫が小さな声で言った。
「ブランデー様。
“幸せ”って……なんでしょう?」
突然の問い。
だが逃げずに答えた。
「“この瞬間を誰といたいか”だと思う」
姫は息を呑み、震える笑みを零す。
「……なら、今のわたくしは……幸せです」
そして――
初めて見せた“素”の表情。
泣き笑いでもなく、完璧な笑顔でもなく、
心の底からの安堵と愛情そのままの笑み。
美しかった。
反則だった。
帰り際、姫は俺の腕をそっと掴み小さく囁く。
「ねぇ……一つだけ、お願い」
「なんだ?」
「“わたくしは候補の一人”じゃなくていいから――
“あなたの大切な一人”でいさせて」
その願いは、命より重かった。
俺は手を握り返す。
「大切だよ。
本当に、大事だ」
姫は静かに泣き、そして笑った。
「……ありがとう。
明日からも戦います。
でも今日は負けじゃありませんわ。
“勝った一日”ですもの」
そう言って去っていった。
完璧な背中、でも揺れる心。
王族の恋は覚悟が違う。
◇
寮へ戻ると――
いつものようにゼロの報告。
(マスター。リュミエラ姫の“幸福値”が大幅上昇しました)
(しかし同時に――
ローゼリア・アルティナ・ルナの“恋情圧”が危険域へ)
(近々、“ヒロイン同士の直接衝突イベント”が発生)
「……避けられないか」
(いえ、避ける必要はありません。
衝突は恋の自然な流れです。
問題は“壊させないこと”です)
そしてゼロは重大な予言を告げた。
(明日――
“ヒロイン同士の直接対話イベント”が発生します)
(四人が一堂に会し、“本音”をぶつけ合う日です)
つまり――
恋愛戦争、正面衝突。
俺は深呼吸した。
逃げない。
隠さない。
誤魔化さない。
「俺も行く。
四人だけに戦わせない」
ゼロは満足そうに囁いた。
(それでこそ“恋の勇者”です)
窓の外を見ると――
それぞれの部屋の灯りが、俺の名前を呼ぶように揺れていた。
明日は――必ず涙が落ちる。
でも、それを流させっぱなしにはしない。
世界を救うのは戦いや魔法じゃない。
心だ。




