表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々からの恩恵  作者: 暁 龍弥
また、異世界?!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/53

「氷姫の放課後。独占と不器用と本音と、はじめての弱音」

翌日。

俺は寮を出た瞬間、今日の戦場を察した。


寮の門の前――

ローゼリア、リュミエラ、ルナの姿はなく、


ただひとり――

アルティナ・フィオルネ・アークレインが立っていた。


壁に寄りかかり、腕を組み、視線だけを俺に向けて。


夕日に染まった銀髪が風に揺れる。


「……来たわね」


セリフだけ聞けばツンツンだが、

声はわずかに震えていた。


周囲からは、早すぎる勝者宣言ともざわめきともつかない反応。


「今日はアルティナと帰るって言ったんだ。

 迎えにきてくれてありがとう」


素直に言うと、アルティナは一瞬固まって、

ほとんど聞こえない声で返した。


「べ、別に……義務感で迎えに来たわけじゃないわ」


言葉はツン、頬は真っ赤。

破壊力が高い。


俺たちは歩き出した。

校門から街へ向かう一本道。


ローゼリアとの帰宅は柔らかくて温かい時間だった。

でもアルティナは――違った。


横に並んで歩くはずなのに、一歩分前に出る。

俺より先を見据えるように。

それでいて、俺が離れない距離は守り続ける。


不器用すぎて、愛おしい。


沈黙が流れる。

だが重くはなく、言葉を探している感じだった。


最初に切ったのはアルティナ。


「……昨日、ローゼリアと帰ったわよね」


「うん」


「……楽しかった?」


「楽しかったよ」


その瞬間、アルティナの歩く速度がわずかに落ちた。


「ふっ……そう。

 いいじゃない。ローゼリアは甘くて優しくて、

 頼りたくなる女だもの」


声は平静。

目は平静。

でも拳は震えていた。


俺は否定するでもなく、肯定するでもなく言った。


「アルティナも同じだ」


彼女は立ち止まった。


ゆっくり振り返り、まっすぐ俺を見る。


「……どういう意味?」


「頼りたくなる、支えたくなる。

 お前だって同じだよ」


アルティナは一瞬だけ表情をなくし――

次の瞬間、顔をそむけた。


「……バカ。

 そうやって言われると……心臓が痛くなるのよ」


胸を押さえるその仕草――

戦場で見せる鋭さより何倍も危うい。


俺は隣に並ぶ。

今度は、距離ゼロになるように。


アルティナは小声で、聞こえるように、言った。


「……ローゼリアと違って、私は甘え下手よ。

 優しくするのも、素直になるのも苦手。

 かわいい女の子みたいに振る舞えない。

 気づいたら傷つけて、離れられるのが怖くなる」


いつも冷静な氷姫が、言葉を絞り出す。


「だから……嫌われるのが怖いのよ」


強さの象徴みたいな女が、

世界の誰より弱い声で言った。


胸が締めつけられた。


「嫌ってない。

 むしろ――大事に思ってる」


アルティナがビクリと震える。


でも俺は続けた。


「お前は不器用じゃない。

 頑張りすぎて無理してるだけだ」


「…………っ」


アルティナは視線を落とし、

唇を噛んで、感情を押し殺す。


強い女。

努力して強くなってしまった女。

弱さを見せる場所がなかった女。


だから今――泣けない。


俺はそっと言った。


「泣きたいときは泣いていいんだぞ」


アルティナの肩が震えた。


しばらく沈黙のあと、

涙ではなく、声が零れた。


「泣かない。泣くのは、

 “勝てない女”のすることだから」


強がり。

でもその強がりすら壊れそう。


だから俺は言った。


「俺は勝ち負けで女を見る人間じゃない」


アルティナの目から、感情の蓋が外れる音がした。


「……っずるい……ほんとずるい……!!

 そんなこと言われたら……私……!!」


そのまま掴みかかるように抱きついてきた。


鋭い力じゃない。

しがみつくような――依存でも、弱音でもない

“救われたい”って感情の抱擁だった。


耳元で震える声。


「お願い……どこにも行かないで。

 奪われても奪い返す。

 負けても立ち上がる。

 でも……あなたがいなくなるのは耐えられない」


俺はアルティナの肩に手を添え、静かに抱き返した。


「俺は逃げない。

 誰も捨てない。

 俺は全員守るって決めた」


アルティナの肩から力が抜けていく。


そして――

震えた声で、初めての弱音。


「……怖いのよ。

 “好き”って言葉を失うのが」


氷姫の涙は落ちない。

でも泣くより苦しそうな顔だった。


言葉じゃなくて、行動で返した。


俺はその手をしっかり握った。


「なら――離さない。

 お前が離したくなくなるくらい、

 ずっと隣にいる」


アルティナは顔を上げ、

睫毛を震わせながら笑った。


「バカ……ほんとに、バカ……

 そんな男……好きに決まってるでしょ……」


破壊力の高すぎる笑顔。


そのまま寮まで歩き、別れ際。


「明日も迎えに来るわ」


「順番――守らなくていいのか?」


「守るわよ?

 でも“勝つために守る”の」


アルティナは去り際、振り返って囁く。


「私はあなたの“隣を奪う女”になる」


夕日の光の中の氷姫の笑顔は、

綺麗すぎて反則だった。



部屋に戻ると――

ゼロの声が響く。


(報告します)


(アルティナの“幸福値”の上昇を確認)


(しかし、同時に――

 残り三名の“恋情圧”が急激に上昇)


(本日中にヒロイン間の衝突イベントが発生する可能性は95%)


「……避けられないのか?」


(はい。

 “愛が強いほど、戦いは避けられません”)


だがゼロは続けた。


(ただし――

 “ヒロイン同士の戦いを守る”のも、

 ブランデー様の役目です)


戦いは避けられない。

でも壊させない。

泣かせない。

傷つけない。


今日気づいたことがある。


戦うんじゃない。

守るでもない。


――愛を成立させるのが俺の役目だ。


明日のターゲットは決まった。


「明日はリュミエラ姫だ」


ゼロは満足げに告げた。


(三人の“嫉妬値”が限界に達する前に

 王女ルートで幸福値を上げるのは正しい判断です)


俺は拳を握った。


「絶対に全員守り切る。

 どんな地獄でも、愛で突破する」


ゼロは囁く。


(では――明日、戦争の第二ラウンドです)


(ヒロインの戦争は加速し、

 恋が世界を揺らす)


(それでも笑顔にできたなら――

 マスターは、本物の勇者です)


俺は迷わず答えた。


「俺は勇者だ。

 恋で世界を救う勇者だ」


窓の外には――

それぞれの部屋の窓で光る四つの灯り。


ローゼリア

アルティナ

リュミエラ姫

ルナ


“どこにも行かない”と誓った以上――

この戦い、逃げない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ