「学園再開。宣戦布告の朝。そして予想外の婚約者、乱入」
王城会議から一週間後。
黒鎧事件の衝撃も――表向きは落ち着いた。
だが、学園に戻ってみれば状況は完全に変わっていた。
廊下を歩けば視線が集中。
中庭に出ればささやき声が止まらない。
「勇者ブランデーって……本当にヒロイン三人から狙われてるらしい」
「聖女派?氷姫派?それとも王女派?」
「いやいや主人公本人はどう思ってるんだ!?」
俺の名前を賭けた投票所までできてる。
やめろ文化祭じゃないんだぞ。
そして――
運命の“学園再開1日目の朝”
俺は登校してすぐに悟った。
恋愛戦争、開戦。
◇
教室の扉を開けた瞬間――
三つの視線が同時に刺さる。
・ローゼリア(席の横でニコニコ)
・アルティナ(後方で腕組み)
・リュミエラ姫(窓際で優雅にお茶)
いや怖い怖い怖い。
三人が同じ教室に収まるな危険物同士みたいだろう。
雰囲気は完全に戦場。
ただし笑顔のまま戦場。
俺が座る前に、ローゼリアが椅子を引いて自然に言う。
「ブランデー様、今日のお昼ご一緒しませんか?
神殿から取り寄せた特級スイーツがあるんです♪」
そこでアルティナが笑顔のまま刺す。
「へえ……スイーツで釣るの?
ブランデーは甘いものより刺激を求めるタイプよ」
そして隣から姫が上品に追撃。
「そうやって“相手の好みを決めつける”のは……マイナスポイントですわ。
人は物で釣るのではなく、寄り添うものでしょう?」
会話は柔らかく、声色は優しい。
でも殺意は満タン。
俺はモテたいと思ったことはあったが、
命の危険を感じるモテ方は望んでない。
教師が入ってきて授業が始まっても、
視線と火花と殺気の空気の三重奏。
先生すら震えてチョーク落とした。
◇
そして昼休み。
宣戦布告タイムが始まる。
誰も譲らないことは明らかだった。
先に動いたのはアルティナ。
「今日の昼はブランデーと二人で食べるわ」
ローゼリアが即座に返す。
「順番では今日わたしです。
譲りません」
姫も微笑む。
「ここは“公平”に決めるべきですわ。
三人で話し合いましょう?」
三人は綺麗に笑っているが、
背後の魔力は核爆弾レベル。
空気がおかしいので俺が口を開きかけた瞬間――
ガラッ!!
再び教室の扉が開いた。
「失礼しまーす!探しましたブランデー様!」
――見たことがない少女。
ふわっとした白銀の髪、琥珀色の瞳。
背丈は小柄で可憐だが、身のこなしは冒険者らしい。
肩書きが似合うというより、存在が目を奪うタイプ。
俺達を見つけると満面の笑み。
そして――爆弾を落とす。
「今日からこの学園に転入します!
ブランデー様の婚約者、ルナ・エヴァーライトです!
よろしくお願いしまーす!」
教室が凍りついた。
笑った声も、ざわめきも、突っ込みも出ない。
最後に動いたのは――ヒロイン三人。
ローゼリアが笑顔のまま。
「……え?ブランデー様の婚約者?
聞いたことありませんね?」
アルティナも笑顔。
「書類ある?証人は?
どの国?どの家系?
はい、全部提出してもらいましょう」
リュミエラ姫は微笑を崩さず致命打。
「ブランデー様が“政治目的の婚約”を拒否しているのを
ご存知の上で名乗っているのですか?」
三人の圧に教室の机が震える。
だが――新少女ルナは物怖じしない。
「ご心配なく!
政治でも神託でも契約でもありません!」
胸を張って、宣言。
「私は“未来のブランデー様の妻”が
タイムスリップしてきた存在です☆」
――会場が死んだ。
俺の思考も死にかけた。
ローゼリアが震える声で小さく問う。
「未来……ですか……?」
ルナは頷き、俺の手をぎゅっと握る。
「大丈夫。未来ではちゃんと幸せになってたよ?
だから今も幸せにしてあげるために来たんだよ?」
……可愛い。
けど怖い。
愛が重い。
破壊力が高い。
そして追撃。
「あ、ちなみに未来では
ブランデー様は“全員を幸せにした”末に……」
全員が息をのむ。
「世界最強のハーレム王になってました☆」
ローゼリア→顔真っ赤
アルティナ→口が引きつる
リュミエラ姫→頬を押さえて震える
混乱の極致の中――
ルナは俺に抱きつきながら笑った。
「だから私も正式に参加しに来たの!
――恋愛戦争にね♡」
クラスの全員が精神崩壊寸前。
机に祈る者、鼻血を出す者、地面に膝をつく者。
すべてが混沌渦巻く中、
ゼロが静かに囁く。
(マスター。
世界の崩壊条件――“恋情の飽和”が加速しました)
(ヒロイン四人が揃った瞬間から、
世界の魔力安定値が下降を始めています)
(このままいくと――約一年で世界が崩壊します)
俺の背中に冷汗が流れる。
(回避条件は一つ)
(ヒロイン全員の“心の幸福値”を一定以上に保つこと)
(つまり――
“誰も傷つけず、誰も捨てず、全員を幸せにする”こと)
難易度、魔王討伐の6000倍。
ルナは俺の手を握ったまま微笑んだ。
「大丈夫。未来のあなたはできてたよ」
未来の――俺。
だが今の俺は言い切れる。
「未来がどうとか関係ない。
俺が選ぶのは――今のみんなだ」
四人の心を壊さない。
誰も泣かせない。
誰も置いていかない。
これは恋愛なんかじゃない。
もう戦争でもない。
命を賭けた幸福のゲーム。
俺は宣言した。
「全員――幸せにする。
倒れても、失敗しても、世界が壊れかけても関係ない。
俺が――守り切る」
ローゼリアは涙を浮かべて微笑む。
「はい……信じてます」
アルティナは挑戦者の笑み。
「なら私は全力で奪いに行くわ。覚悟して」
リュミエラ姫は胸に手を当て震えながら。
「恋をする権利を……ありがとうございます」
ルナは俺の腕に頬を寄せて。
「うん。未来に負けないくらい、素敵な今にしよ?」
――戦いのゴングは鳴った。
世界で一番難しいボスは“恋”。
世界を救う鍵は“幸福”。
俺は心の底から決意する。
「世界で一番強くて、優しくて、格好いい男になってやる」
四人のヒロインが同時に笑う。




