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神々からの恩恵  作者: 暁 龍弥
また、異世界?!

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32/53

「黒鎧の正体。世界の秘密。そして“勇者の敵は救世主”」

戦いの号砲となる唸り声が、観客席の悲鳴と混じって響いた。


黒鎧の男が一歩踏み出す。

その足音だけで大地が震える。

まるで存在そのものが“災害”。


観客の避難が始まり、教師陣と騎士団が防御結界を展開する。


ローゼリアは震える指を構えながら俺の隣に立つ。


「……ブランデー様。

 怖いんじゃなくて、悔しいです……

 せっかく、幸せな場所だったのに……!」


アルティナは鋭い眼光で男を睨む。


「こいつ……舞台を壊し、感情を壊し、幸せを奪う気ね。

 許さない。今日この場で殺す」


二人の感情を受け取った俺は、黒鎧の男へ一歩踏み出した。


「おい。

 なんで俺を狙う」


黒鎧は低く呟いた。


『理由?

 ――お前は絶対神だろう』


観客席の時間が止まった。

教師も、仲間も、息を止める。


だが黒鎧は続けて言った。


『勘違いするな。“神だから”狙うんじゃない』


剣を地面に突き刺し、黒い魔力が周囲に広がる。


『――お前が、世界を救うから殺す』


空気が凍り付いた。


俺が救う?

それを理由に殺す?


理解が追いつかない。


黒鎧は叫ぶ。


『この世界は、救われると滅ぶ!

 “救済”は“破滅”と同義なんだよ!!』


ステージ上にいた全員の動きが止まった。


ローゼリアは震える声で問う。


「ど、どういう意味ですか……?」


『救済が起きれば――人は苦しみを失う。

 苦しみを失えば、願わなくなる。

 願いを捨てれば、魂は止まる。

 魂が止まれば、魔力は消え、世界は崩壊する!』


黒鎧の声は怒りでも憎しみでもなく――

悲鳴に近かった。


『お前は世界を救う。それは確定だ。

 お前が正しいほど、優しいほど、人は甘える。

 甘えた世界は、止まって死ぬ!!

 だから――救う前に殺すしかないんだよ!!!』


観客のざわめきが恐怖の渦に変わる。


救世の英雄ほど世界を殺す。

だから救世主は“人類史最大の脅威”。


黒鎧の男は剣を引き抜き、俺を指す。


『俺は未来を見た。

 世界を終わらせたのは――お前だ、ブランデー!!!』


――未来視。

この男は未来を知る存在。


アルティナが牙を剥くように叫ぶ。


「そんな未来、私がブランデーと一緒に否定する!!」


ローゼリアも涙を浮かべたまま魔力を展開する。


「“救う”ことをやめろだなんて……そんなの、絶対に間違ってます!!

 誰かの幸せを守るために誰かの幸せを奪うなんて!!」


黒鎧の声が震える。


『俺だって……本当は……救いたかった……。

 家族を、仲間を、世界を……失いたくなかった……。

 だが俺は救えなかった。

 だから――お前が救う前に殺す。』


観客席から「やめろ」「戦うな」という声が飛ぶ。


だけど、これは避けられない戦いだ。


俺は深く息を吐き、剣を構えた。


「黒鎧。

 お前の過去も、未来も、理由も否定しない。

 だけど一つだけ言える」


剣を振り下ろすでもなく、突くでもなく、ただ構えるだけで――

地面が悲鳴を上げる。


「俺は“世界を救って終わらせるような救い方”は絶対にしない」


黒鎧の目が大きく揺れた。


『……優しすぎる救世は、最悪の破滅だ!!!』


空気が破れ、黒鎧が音速で突っ込んでくる。


だが俺は一歩も動かない。


「俺が救うのは“世界”じゃない。

 ――“俺の大切な人たち”だ」


黒鎧の剣が俺の首に届く――

その瞬間。


“超低速世界”


空間ごと俺を中心に停止した。


黒鎧の一撃は紙のように遅い。

観客の叫び声も止まっている。

時間さえ凍り付いた。


ゼロの声が静かに響く。


(マスター。この戦いは勝てます。圧倒的に)

(だが黒鎧の男は“敵であり、救われたい存在”です)


(――どう殺しますか?)


数秒沈黙して、俺は答えた。


「俺は誰も殺さない。

 でも誰も死なせない。

 敵だって味方だって関係ない。

 俺の大切な世界で誰も泣かせない」


空間が解ける。


黒鎧の大剣が俺の首に届いた瞬間――

俺はその剣を素手で止めた。


バキィィン!!


黒鎧の鎧にヒビが走り、男は後方に吹き飛ぶ。


観客の悲鳴。

ローゼリア、アルティナの叫び。

教師陣の驚愕。


俺は静かに歩きながら言う。


「黒鎧。

 お前は未来視で“救えなかった未来”を見たんだろ?」


沈黙。


「あの未来は“絶対”じゃない。

 お前が救えなかったなら――

 今度は俺が“一緒に救う”」


黒鎧の瞳が揺れた。


『……なぜだ……?

 救いは破滅だと知ったはずだろ……!』


「違う。

 救い“だけ”を与えるから破滅したんだ」


黒鎧が息を飲む。


「人には苦しみも痛みも必要だ。

 全部奪ったら腐る。

 全部与えたら壊れる。

 何も助けないのも地獄。

 全部助けるのも地獄。

 だから――ちょうどいい距離で支え合うんだ」


黒鎧の剣が手から落ちる。


『そんな答え……聞いたことがない……』


「なら今日から覚えろよ。

 “幸せは、みんなで獲るものだ”」


黒鎧は震える声で呟く。


『……俺にも……そんな未来があったのか……』


『そんな希望が……あったのか……』


解析不能な感情の光が、鎧に走った。


鎧が砕けていく。


光の破片の中から現れたのは――

まだ若い、少年に近い顔の青年だった。


瞳は涙で濡れている。


『……俺は……

 救われたかっただけなのか……』


――それ以上は言えなかった。

青年は意識を失い、崩れ落ちた。


観客席からは震えるほど静かな拍手。

安堵の泣き声。

嗚咽。

祈り。


黒鎧という脅威は終わった。

だが事件はこれで終わりじゃない。


ゼロが低い声で告げた。


(マスター。最悪の情報があります)


(――黒鎧の男は“未来のあなた”です)


息が止まった。


(世界を救った結果、全員を失った未来の“金宮悠人”です)


思考が弾けた。


じゃあ今倒れた青年は――


“俺が間違えた未来の姿”。


これを聞かずにいられなかった。


「ゼロ……俺はどうなるんだ」


ゼロの声はいつになく優しい。


(大丈夫です。

 マスターは“未来を変えた”。

 黒鎧はもう未来のあなたではありません)


(だが――敵はまだ終わっていません)


(世界を破滅させる“本当の原因”は別にいる)


息を呑む。


「誰だ?」


ゼロが答える。


(――恋です)


理解不能。

だがゼロは続ける。


(恋が走りすぎれば、感情が暴走し、世界が割れます)


(ヒロインの心の崩壊が“世界の崩壊”に直結します)


俺は血の気が引いた。


ゼロは静かに宣告する。


(マスター。

 これからあなたは――

 “世界最難関の戦い”に挑むことになります)


「……まさか」


(はい。

 ――ヒロイン全員を幸せにしながら世界を守ってください)


舞台より難しい戦い。

魔王より残酷な戦い。


“誰も傷つけずに恋を守る戦い”。


ローゼリアとアルティナが泣きながら俺に抱きついてきた。


「無事でよかった……!」

「怖かった……本当に……!」


抱きしめ返しながら思った。


この世界は平和じゃない。

戦争はまだ始まってすらいない。


俺は――決意する。


「絶対にこの世界で誰も泣かせない。

 敵だろうと味方だろうと関係ない。

 俺が全員を幸せにして――世界ごと救う」


ローゼリアもアルティナも涙の笑みを浮かべた。


ゼロの声が響く。


(それができた者をこう呼びます)


(――“真の勇者”)


舞台は終わった。

ここから先は、恋と戦争の物語。

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