「学園祭開幕! 舞台の上で“選ばされる”運命と、予想外の乱入者」
学園祭当日――
王立アルクス学園は朝から異常な熱気に包まれていた。
一般来場者、冒険者、貴族、王族、果ては隣国からの観光客まで集まっている。
広場には巨大なステージ。
観客席には2000を超える人々。
そのざわめきの中心に、名前が飛び交っていた。
「今年の主役は勇者ブランデーらしい!」
「聖女ローゼリアと氷の姫アルティナの三角関係!」
「告白シーンが本番で“本気”になるって噂!!」
「最後のカップル喫茶での指輪イベントがあるらしいぞ!」
いやそんなイベント知らんぞ!!!
だれだデマ流したの!??
ゼロの冷静分析が飛んでくる。
(マスター、観客の期待は“劇中で誰を選ぶのか”です)
(選ばない前提で演技できないのか?)
(観客の99%が「選択シーン」があると確信しています)
(存在しないシーンを期待されてるの!?)
地獄スタートである。
◇
舞台裏。
本番開始10分前。
衣装に着替えた俺は、勇者の鎧と剣を携えた姿になっていた。
ローゼリアは純白の聖女ドレス。
アルティナは蒼の魔装ドレス。
どちらも息を呑むほど美しい。
しかし空気は張り詰めている。
アルティナは腕を組み、ローゼリアを一瞥。
「戦う気で来たのかしら?“演技”の話よ」
ローゼリアは一歩も引かず微笑む。
「演技も、気持ちも、全部ぜんぶ本気です。
本気じゃない人に、ブランデー様の隣は似合いませんから」
火花。
空気が焦げるほどの緊張。
俺は慌てて制止に入ろうとするが――
そこでレイラ副団長が静かに言った。
「大丈夫。どちらも戦うのは“舞台”の上だ。
結末がどうなっても、勝者は泣かない。
敗者は泣いても最後まで立っている。
それがヒロインだ」
言葉は厳しいが、信頼が含まれている。
さすが女騎士。覚悟の世界を知っている。
そしてイルミナ先生が続けた。
「ブランデー様。
今日あなたは“選びません”。
あなたは“嘘をつかずに最後まで演じる”だけです」
「嘘をつかずに……?」
「はい。
“誰より大事だ”じゃなく――
“あなたが大事だ”と言うのです。
それが最大の誠実さです」
……正直、怖くてたまらない。
でも逃げたくない。
俺は深呼吸して剣を握る。
「よし……全力でやる」
アルティナとローゼリアも頷く。
そして――幕が上がった。
◇
第一幕:冒険の旅
観客から歓声が上がる。
「本物の勇者だ!」
「戦闘演出すごすぎる!」
迷宮シーンの戦闘演出も完璧。
俺が本気を隠して“勇者の苦戦”を演じれば演じるほど、
ローゼリアは必死に癒やし、
アルティナは身体を張って支える。
演技なのに本気。
本気だから演技に見えない。
◇
第二幕:崖の上の休息
アルティナが背中を預けて剣を磨きながら呟く。
「……私は弱くてもいいの?」
俺の台詞は台本どおり。
「弱くていい。強くてもいい。
お前は――そのままでいい」
たったそれだけで、観客席は静寂に包まれた。
◇
第三幕:聖女の祈り
ローゼリアが震える手で俺に触れる。
「あなたの未来に、私がいたら……だめですか?」
俺は台本どおり答える。
「だめじゃない。
いてほしい。
お前が隣にいると、俺は前に進める」
また観客席が泣き出す。
演技なのに、演技じゃない。
想いが、全部声に乗ってしまう。
◇
そして――
クライマックス:最終告白シーン。
ステージ中央、夜の演出。
風が吹き、照明が淡く揺れる。
ローゼリアが涙の声で叫ぶ。
「私はブランデー様を愛しています!
世界の誰よりも、未来のどんな幸せよりも――
あなたが欲しい!」
観客席「うわぁぁぁぁ!!!!」
続けてアルティナが剣を投げ捨て、感情を爆発させる。
「私もよ!
あなたを誰にも渡さない!
奪われても奪い返す!
だから――私を見て!!!」
観客席「ぎゃあああああ!!!!」
両側から手を伸ばされ、
俺は選ばされる立場になってしまう。
演出を超えて、空気が“ガチ”になった瞬間。
観客全員が固唾を飲む。
ローゼリアとアルティナの瞳は震えていた。
泣きたくなるほどの本気。
逃げない。
誰も傷つけない。
嘘をつかない。
胸から言葉が溢れた。
「俺は――一人じゃ生きられない。
支えてくれた人、信じてくれた人――
その全部があったから、今の俺がいる」
会場が静まる。
「誰か一人を選ぶなんて、できない。
俺の強さは、誰かに愛されることで生まれたものじゃない。
“俺が愛したい人たちがいることで生まれたものなんだ”」
観客の涙腺決壊。
「俺は、俺の隣にいてくれる人を――全部守る。
どんな未来でも、二度と誰も失わない。
それが俺の選んだ道だ!」
ローゼリアも、アルティナも、泣きながら笑った。
「っ……ずるい……」
「うん……ずるいですよ……」
二人は俺の両手を取る。
三人で、前を向く。
舞台が光に包まれ――
――大成功。
歓声は悲鳴に変わり、
拍手は地響きとなり、
ペンライトが振られ、
花束が投げ込まれ――
劇は終わるはずだった。
だが事件はここから始まる。
◇
閉幕の音楽が鳴り、俺たちが観客へ一礼する――その時。
会場の結界が“破れた音”が響いた。
バキンッ!!
ステージ後方に、異常な魔力が渦巻く黒い裂け目が出現。
観客が悲鳴を上げる。
「な、なんだ!?」「魔物!?」「幻術じゃない!!」
裂け目の中から――
黒い鎧の男が現れた。
顔は見えず、身体から異常な殺意。
その男はゆっくりと大剣を抜きながら、
俺を真っすぐ指さした。
『――見つけたぞ、“絶対神”』
世界が凍りついた。
ローゼリアもアルティナも愕然とした表情を浮かべる。
観客は俺の正体を知らない。
でも本能的に気づく。
――舞台じゃない。
――これは現実だ。
黒鎧の男は言う。
『ブランデー……いや、“金宮悠人”。
討つ。
お前こそ世界の災厄。』
アルティナが剣を拾い上げ、俺の前に立つ。
「ふざけないで。
ここは舞台じゃない。
お前は一人でも触れさせない!」
ローゼリアも魔力を展開しながら叫ぶ。
「ブランデー様に指一本触れさせません!!」
観客がパニック、教師陣が結界展開、
レイラ副団長が斬撃体勢、
イルミナが冷酷な目で殺意MAX――
世界が修羅の舞台に変わっていく。
俺は大剣を握る黒鎧の男と視線を合わせた。
心臓が高鳴る。
怖くない。
むしろ――怒りが湧く。
この世界で得た幸せを奪おうとする者。
この世界で俺を必要としてくれる仲間を傷つけようとする者。
この世界で、大切な想いを踏みにじろうとする者。
許せるわけがない。
俺は一歩前へ出た。
「上等だよ。
俺の仲間に手を出すなら――
絶対に後悔させてやる」
観客2000人が見つめる中で、
俺と黒鎧の男の殺意がぶつかり合う。
舞台は終わり。
ここからは“本物の戦い”だ。




