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神々からの恩恵  作者: 暁 龍弥
また、異世界?!

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30/53

「学園祭前夜祭は波乱の幕開け。夜の校庭で交錯する想い」

学園祭前日。

夜、王立アルクス学園の中央庭園――

巨大な噴水とイルミネーションライトで彩られた幻想的な会場に、生徒達が集まっていた。


ステージでは音楽、軽食の屋台、夜空に魔法で描かれる星の模様。

普段の訓練の空気とは違う、まさに“青春”そのもの。


だが――俺には心の準備が必要だった。


なぜなら前夜祭は毎年こう呼ばれている。


「本命指名の夜」


学園祭でパートナーを優先して行動する相手を、

前夜祭で“指名”する暗黙の文化がある。


指名=恋愛フラグ確定みたいな風習。

指名されなかった人は爆死コースみたいな空気。


俺は静かに呟く。


「俺は今日、誰も泣かせたくない。

 それだけは絶対に避けたい」


(マスター、今日それを言う時点で死亡フラグです)

(言わないともっと死ぬ)



前夜祭が始まって数十分――

俺は屋台の近くで焼きチキン串を食べながら過ごしていた。


すると、背中をつつく感触。


振り向くと――ローゼリア。


淡いピンクドレス、肩と背中が少し出た露出低めの上品な服。

そして新しい髪飾りが揺れている。


「……あの、少し……一緒に歩きませんか……?」


声はいつものふわっとした可愛さだけど、

瞳には覚悟と不安が両方宿っていた。


俺は頷き、並んで歩き始めた。



静かな中庭。

光の花が咲く“魔法ガーデン”を歩きながら。


ローゼリアが深呼吸し、勇気を振り絞るように言った。


「わ、私……弱いのかもしれません。

 誰かから選ばれたいって、願ってしまいます。

 本当は……そんな自分のこと嫌いだったんです」


ローゼリアは俺の方を見られないまま続ける。


「でも……ブランデー様と過ごす時間があって……

 迷宮も、食堂も、練習も……どれも全部……すごく幸せで……

 自分の心を隠せなくなって……」


胸に手を当てて、小さく震えながら笑う。


「選ばれたい、って思ってしまう私は……変ですか?」


一言で、胸の奥に響いた。


俺はちゃんと向き合いたくて、言葉を選ばずに返した。


「変じゃない。

 選ばれたいって思うのは、“大事にしたい相手がいる”ってことだろ?」


ローゼリアは涙を浮かべながら微笑んだ。


「……ありがとう。

 私……前に進めます」


最後に彼女はこう言った。


「明日、私は全力で“あなたのヒロイン”になります。

 たとえその先にどんな結果が待ってても」


そう言って、ローゼリアは謝らず逃げず、しっかり頭を下げて去っていった。


強くなったな、本当に。



ローゼリアを見送った直後――

背後から冷たい風。


「……ずいぶん綺麗な雰囲気だったわね」


振り向くと、アルティナが立っていた。


深い青のドレス、銀髪が月光を反射して輝く。

表情はいつもの無表情……だが、胸元のアクセが震えるくらい心が揺れてる。


「歩くわよ。ついてきて」


拒否権なかった。

けど、それでいい。



学園の高台――

夜景がすべて見渡せる“展望庭園”。


アルティナは夜空を見つめたまま、口を開く。


「私はずっと“強くなれ”“完璧でいろ”と言われてきた。

 自分の弱さを見せたら、捨てられると思ってた」


風の音が小さく響く。


「でも迷宮で……あなたに抱き寄せられて……

 怖いって、思ってしまった」


俺は小さく息をのんだ。


「怖いのは、失うこと。

 “あなたの隣にいたい”って思ってしまった自分に、驚いた」


アルティナは初めて、完全に感情を見せた顔を向けてきた。


「認めたくないのに、あなたに惹かれてる。

 譲りたくないし、独占したいし、誰にも触れてほしくない。

 好きとか愛してるとか、そんな言葉で片付けたくないくらい」


近づいてくる。


一歩、また一歩。

腕が触れる距離で止まる。


「明日、私は“あなたの隣は私の場所”って証明する。

 誰にも渡さない。

 でも……結果がどうなっても、ちゃんと受け止める」


それは愛であり、覚悟であり、願いだった。


俺は苦しくなるほど心臓が鳴った。


アルティナは最後に一言だけ。


「あなたを好きになって……よかった」


囁くように呟き、去っていった。



――二人とも背負っているものが違う。

想いの強さも、愛の形も違う。

なのに同じくらい真剣だった。


泣きたくなるくらい嬉しくて、苦しくて、温かい。


そんな感情が混ざって胸の奥で渦を巻く。


(マスター、気づいてますよね)

(……ああ)


――もう逃げて済む段階じゃない。



寮に戻る途中。

誰もいない裏庭で立ち止まって空を見上げた。


星がきれいすぎて、ふと涙が出そうになる。


「俺……何を守りたいんだろうな」


戦う力はずっと前からあった。

でも、心の答えはまだ出ていない。


“選ぶ”って言葉がこんなにも重いなんて。


そこへ――背後から声。


「坊ちゃま」


イルミナだった。

夜風に髪が揺れ、いつもの優雅な微笑み。


「……泣きそうな顔ですね」


「泣いてねぇよ」


「泣いていいんですよ。

 人を大切に想うことは、弱さじゃありません」


イルミナは俺の頭にそっと触れた。

その手は暖かい。


「坊ちゃまは“誰かを幸せにしたい”と本気で考える人です。

 だからこそ、選べず苦しむ。

 でも――それでいいんです」


「俺の気持ちも……そのうち決まるのかな」


「はい。

 人を想う気持ちは、焦って選ぶものじゃありません。

 誰の手を握りたいのか――

 自然に、答えは見つかります」


そう言って、更に続けた。


「ただし――

 その答えが見つかる前に“誰かを傷つけるなら、私は止めます”」


言葉は優しいのに、瞳は強い意志を宿している。


俺は少し笑った。


「ほんと、お前って怖いのに優しいよな」


「私はあなたの味方です。

 それだけは永遠に変わりません」


月明かりの中、イルミナの微笑みはどこまでも穏やかだった。



そして――

学園祭当日の朝を迎える。


運命の劇が始まる。

そこで必ず誰かの心が動き、何かが決まる。


これはもうイベントじゃない。

運命の舞台だ。


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