「台本読み合わせ開始! 告白シーンで理性が蒸発しました」
学園祭まであと2日。
放課後、特待生クラスの練習専用ホール――
広すぎて体育館3つ分はある場所に、運命のメンバーが集まった。
勇者役:ブランデー(俺)
ヒロイン役:アルティナ & ローゼリア
演出補助:レイラ副団長(安全管理)
脚本監修:イルミナ先生(恋愛指導担当?)
周囲にはギャラリーとして他のクラスメイトが詰めかけている。
みんな勉強そっちのけでスマホ(魔導端末)を持って録画準備。
これ、第1回読み合わせなのに観客100人超えてるんだが?
(マスター、興味指数=学園最大級です)
(上昇してほしくないランキングNo.1だろそれ)
◇
イルミナ先生が配った台本は本格的な劇仕様。
最後の1章――勇者とヒロインが想いを告げるシーンまである。
目的は「観客の心を掴み、学園祭評価を上げること」
つまり、演技とはいえ告白を“ガチ”にやる必要がある。
感情を入れろ、躊躇うな、真剣にやれ――
そんな指導が書き込まれている。
演技だけど、本気。
本気だけど、演技。
それが一番危ないんだよ!!!!
イルミナ先生の号令。
「さぁ、読み合わせを始めましょう。
まずは――クライマックスの告白シーンから」
「最初にやるのそこなの!??」
「最も難しいところを先に仕上げる方が効率的です♪」
いや心理戦なんだよ!?
顔真っ赤の人が二人いる状態で告白シーンとか一番ダメな順番なんだよ!?
◇
シーン1:ローゼリア
桜並木の下、傷だらけの勇者に寄り添う聖女。
最終決戦後――ヒロインが勇者に想いを告げる。
ローゼリアは台本を握りしめ、小刻みに震えながら前へ。
「こ、告白なんて無理です!!せ、精神が……!!!」
「練習だから大丈夫」と慰めた瞬間、
「そういう優しさが余計に無理なんですぅぅ!!」
泣きそうな顔で俺を睨む。
可愛すぎて逆に死ぬ。
深呼吸のあと――スイッチが入る。
「た、台本どおりいきますっ……!
どんなに恥ずかしくても、ちゃんとやります……!」
ローゼリアが正面に立ち、俺の胸に両手を添える。
顔が距離10センチ。
呼吸がかかる。
「あなたを癒すための力なんて……私にはもう必要ない……
だって……だってね……
あなたがいるだけで……私の心は癒えてしまうから……」
声が震えている。
涙が滲んで、それでも目をそらさない。
「私は……あなたが好き。
あなたが生きていてくれたら、それだけで……幸せなの……」
演技なのに、言葉が本気に聞こえる。
“伝えたくて伝えている”声。
胸が締め付けられた。
俺の台詞――
「生きててよかった」
言おうとした瞬間。
ローゼリアがアドリブで抱きついてきた。
ぎゅうううぅぅぅ!!!
観客席が爆発。
「尊いぃぃぃ!!!」
「ローゼリア全力すぎる!!!!」
「勇者沈んだぁぁぁぁ!!」
俺の理性ゲージ:残り3%
◇
シーン2:アルティナ
舞台は夜。
戦いの終わり、月明かりの下――
冷たく見えて涙を隠していたヒロインが勇者の手を掴む。
アルティナはゆっくりと歩み寄り、俺の手を取った。
力強く、離さない。
「あなたは……私の光。
あなたの背中を追っていたら、いつの間にか……
私はあなたの隣にいた」
低く、熱のある声。
表情はいつものクールなのに、瞳は揺れている。
「勝手に消えないで。
置いて行かないで。
私を……一人にしないで」
声が震え、涙がこぼれかけて、
「好きよ……世界より、運命より、未来より――
あなたを、一番……愛してる」
言い終えると、俺の頬に触れて顔を近づけてきた。
距離5センチ。
キス寸前の角度。
観客席、ほぼ悲鳴。
「ぎゃあああああ!!!」
「アルティナ重いのに尊すぎる!!!!」
「勇者の精神崩壊目前!!」
俺の理性ゲージ:残り0.5%
アルティナは続けてアドリブ。
「次は演技じゃなくて……本気で返事を聞くから」
理性ゲージ、警戒態勢に突入。
◇
シーン3:俺のターン
台本ではこうなっている。
勇者はヒロイン達に想いを告げる。
そしてラストは――
「俺はもう一人じゃない。
隣にいてくれる人がいる。
その未来を守りたい。」
観客の前で、はっきりと言う。
演技とはいえ、
誰かを選んだようにも受け取られる台詞。
選んだと誤解されれば死ぬ。
選ばなくても死ぬ。
下手したら観客が暴動。
俺は震える手で台本を閉じ――
ゆっくり息を吸い――
覚悟を決めた。
「俺は……助けられてばかりだ」
ローゼリアが顔を上げる。
アルティナがまばたきすら止める。
「怖かった時、励ましてくれた人がいる。
俺を信じてくれた人がいる。
隣に立ちたいって言ってくれた人がいる。
その全員に……感謝してる」
観客が静まる。
「だから――
俺は“誰か一人だけ”じゃない。
“隣に立ってくれた人を全部守りたい”」
会場が震える。
ローゼリアもアルティナも息を呑んだ。
返事じゃなく、拒絶でもなく――
二人を否定しないまま大切にする宣言。
俺はラストの台詞も変えた。
「俺は一人じゃない。
これからも――一緒に歩きたい。
二人で、じゃなくて……“みんなで”。
そう思わせてくれてありがとう」
沈黙。
数秒。
そして――
世界が割れた。
「最高すぎるぅぅぅ!!」
「好感度全員に配っただろ!!!!」
「爆発力が凄すぎる!!!!」
「ブランデーの告白、全人類を殺す威力!!!!!」
観客達が泣く者、叫ぶ者、倒れる者。
男子すら「惚れたわ今の……」と崩れ落ちる始末。
ローゼリアは涙をぽろぽろ流しながら微笑んだ。
「……それでいいです。
それが、あなたらしい……」
アルティナは横を向きながら、震える声で。
「……ずるい。
でも……嫌いになれない……
そんな言葉、聞かされたら……」
二人とも泣いて笑っていた。
◇
最後、イルミナ先生が拍手しながら言った。
「合格です。
“本番は最後までその調子で”お願いします♪」
どこが合格なんだよ!!
俺、死ぬ寸前だったんだが!?
レイラ副団長も静かに頷く。
「お見事です。
でも覚悟しておけ。
本番は今日の100倍は危険だ」
どんな祭りなんだよ学園祭。
ゼロが総括する。
(マスター。恋愛フラグが増えました)
(何本だ)
(ヒロイン2名だけで+14、サブヒロイン候補が+5、野次馬オーディエンスが+37)
(オーディエンスに恋愛フラグ立つな!!!!)
◇
夜、自室。
今日のことを思い出すと胸が熱くなる。
苦しい、嬉しい、怖い、幸せ、全部混ざって――
今まで味わったことのない感覚。
「……なんだよこれ、心臓もたねぇよ……」
それでも――
俺は明日を楽しみにしている自分がいた。
きっとこの世界で、
俺はただ強くなるだけじゃなく――
“誰かと生きていく未来”を掴もうとしている。
まだ答えは出ない。
簡単に出せない。
でも――
選べる未来があるって幸せだ。




