「学園祭強制パートナー制度!? 修羅場が公式イベントになりました」
翌朝――特待生クラスのホームルーム。
イルミナ先生がにこやかに教壇へ立ち、黒板に文字を書き出す。
《来週:王立アルクス学園祭》
ざわっ!!!!
生徒たちが一斉に反応する。
「まだ入学して間もないのにもう学園祭!?」
「観光客も来るやつだぞ!」
「なんでこんな早い日程なんだ!?」
イルミナ先生は優しい声で続けた。
「今年の学園祭は特別仕様です。
“特待生クラスは二人一組で一つの出し物をしなければいけません”」
ざわざわざわざわ!!!!
つまり――
またペア制度。
また恋愛フラグ強制イベント。
イルミナは追撃する。
「なお、特待生クラスは“観客の来場数・評価ポイント・魅了指数”が競われます」
魅了指数って言ったよね!?
また恋愛評価!?
運営と教師どれだけ恋愛押しなのこの学園!!
さらに黒板の最後の一行が全員を凍らせた。
《ペアは“互いの合意”が必須》
これはすなわち――
誰かを選ぶ→選ばれなきゃ成立しない。
両想いか、少なくとも“両思い風”を演じられる者が勝つ。
ラブコメ戦争が公式採点に組み込まれた学園。
悪夢かここは。
俺の隣の席では、ローゼリアがすでに赤面+期待の眼差し。
そして反対側では、アルティナが静かに俺を見つめている。
表情は冷静なのに瞳は「絶対逃がさない」と語ってる。
その後方――
イルミナが“私も候補ですよ”の目。
入口付近――
レイラ副団長が「護衛目的でパートナーになるのが最も安全」と真顔。
他の女生徒たち――殺気というより“覚悟”の目。
俺は悟った。
人生最大の選択の時間が迫っている。
(マスター、逃げる案?)
(ないだろ)
(正解です)
◇
休み時間。
ペア選びがスタートする。
最初に動いたのはローゼリア。
両手を胸元にぎゅっと握りしめ、震えながら言った。
「ブランデー様……わ、私と……組みませんか……?」
声が柔らかくて甘い。
聖女候補の誘いは破壊力が高すぎる。
だが次の瞬間、背筋が凍る冷気。
「その前に――私が先よ」
アルティナだ。
ローゼリアの前にすっと立ち塞がり、静かな声で言う。
「迷宮試験は私と組んだ。
次のイベントも――当然、私よね?」
挑むようで、でもどこか期待している声。
そこへ――
「待て二人とも」
重い足音。
レイラ副団長が前に出る。
「ブランデー様の安全確保のため、私と組むべきだ。
学園祭は危険だ。民衆が集まる場所ほど護衛が必要だ」
理屈は最も正しい。
だが表情は“守る対象は渡さない”タイプの執着。
そして――
後方でイルミナが自由参加を宣言する。
「文化発表の準備は大変ですから……坊ちゃまが望むなら私はいつでもパートナーになりますよ」
笑顔のまま、瞳だけ笑ってない。
出し物は“恋愛アピール”が評価の対象だと知ってこの余裕だ。
あとから女子数名も動き始め……
「ぎゃあああ修羅場だああ!!」
「特待生クラス全員の視線がブランデー一点集中!!」
「避難しろ!!爆発するぞ!!!」
男子勢は机ごと後退して避難。
一部の女子は参戦、自爆覚悟の告白ゴング。
完全に戦争である。
(マスター、また“全員と組みます案”は?)
(絶対無理)
(正解です。今回は二名だけです)
(マスター、今の全員の感情分析出ます)
(出してみろ)
● ローゼリア:一緒に作業して思い出を作りたい
● アルティナ:成果と信頼を積み重ねたい
● レイラ:護衛として寄り添いたい
● イルミナ:監視と独占と幸せの両立(?)
● 他多数:ワンチャン命がけ
俺は頭を抱え――
一度深呼吸した。
王立学園は、強さも知性も品位も試す場所。
だったら答えはひとつ。
“自分の意思で決めなきゃいけない時が来た”
俺は一歩前へ出た。
教室が水を打ったように静まる。
「俺は――
本気で学園祭を成功させたい。
だから“相手と一緒に成長できる”って思える人を選びたい」
ざわぁっ!!!
告白宣言と似ている言葉に全員が固まる。
そして――俺ははっきり告げた。
「俺と組むのは――
《アルティナ》と《ローゼリア》の二人だ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、三つの反応。
● ローゼリア
「ほ、ほんとですか……!? やったぁぁぁ!!」
涙ぐみながら飛びつきそうになって、寸前で踏みとどまる。
かわいいし安心してる。
● アルティナ
「……フッ。最初からそう言っておけばいいのよ」
余裕ぶってるけど耳真っ赤。
嬉しさ隠せてない。
● クラス全体
「なぜ二人?!」「三角関係確定!?」「修羅場宣言じゃない?」
「いや“三人で出し物”のルールは無い……?」
「いやでもダブルパートナーとか規格外……!」
そして――
イルミナがにっこり笑った。
「二人にしたということは、坊ちゃま……
“両想いを演じる覚悟”があるということですね?」
なんでそうなるんだ。
最悪の追撃はレイラだった。
「護衛としては複雑だが……判断は支持する。
ただし何があっても守る。
二人が相手でも、私は譲らない」
言葉がかっこよすぎて逆に怖い。
◇
学園の張り紙には新しい情報が追加された。
《特待生クラスの出し物:二名以上の複数ペアも可》
学園運営、俺に全振りしてきたな??
絶対裏で賭けしてるだろ神々か教員陣。
生徒たちの反応も過熱。
「今年の学園祭、絶対見に行く!」
「三角関係リアルイベントじゃん!」
「視聴チケット売れるレベルだぞ!」
「歴史に残る修羅場になる!!」
いや俺は平和に学園祭やりたいだけなんだが??
◇
放課後。
図書館の小会議室――制作会議。
机に並ぶのは三人。
ブランデー × ローゼリア × アルティナ
三人という時点で緊張感やばい。
アルティナが淡々と切り出す。
「出し物は“カップル喫茶”が人気らしい。
観客の評価も“恋愛力+魅力”が高いほど得点が高い」
この学園ほんとどこ向かってるんだ。
ローゼリアがもじもじしながら提案。
「そ、そういうのも素敵ですけど、私は……
“英雄譚の劇”とかもいいと思ってて……
ブランデー様が勇者役で、私たちがヒロイン役で……」
こっちも破壊力すごい。
演劇とか絶対事故起きる。
二人が睨み合う。
「カップル喫茶でしょ」
「劇です!!」
ついに言い争い開始――だったが。
俺はその中心で机を叩いた。
「両方やろう!」
二人が同時に固まる。
「……え?」
「……どっちも?」
「劇で俺が勇者役。
その物語の中で、ラストシーンが“カップル喫茶”につながる演出にする!」
沈黙。
そして――予想外の反応。
ローゼリアとアルティナが……笑った。
「素敵です! 絶対楽しいです!」
「悔しいけど……その案、完璧だと思う」
珍しく完全な同意。
この瞬間だけ二人が仲良く見えた。
俺はホッと息をつく。
(マスター、生存率一時的に上昇 0.4% → 71%)
(戻るのおかしいだろ)
◇
会議が終わり、扉へ向かうと――
アルティナが袖を掴んで止めた。
「……今日のこと、嬉しかった」
その声は小さくて優しい。
「次の迷宮試験も……必ず私と一緒よ?」
「もちろん」
そう返すと、アルティナは静かに微笑んだ。
そして入れ替わるようにローゼリアが裾を掴む。
「あ、あのね……私も、負けませんから!」
瞳は震えていたけど力強かった。
俺は微笑む。
「楽しみにしてるよ」
ローゼリアの頬がさらに赤くなる。
◇
夜。
寮の自室でベッドに倒れ込む。
(マスター、今日の死亡フラグ7本、恋愛成功フラグ5本、友情フラグ2本獲得です)
(ドラクエの経験値みたいに言うな)
天井を見つめながら独り言。
「……学園生活、すげぇな」
地獄で、最高で、危険で、暖かい。
そして気づいた。
俺は――楽しい。
異世界生活って、最高じゃん。
明日も生き残るけど。




