「放課後イベント開始! デート権争奪戦の行方は…?」
昼休み。
午前授業が終わった瞬間、特待生クラスの空気は“平和”から“殴り合い前提の静寂”に変わった。
教室の中心に座っている俺を囲む三方向――
右:ローゼリア(抱きつき予備軍)
左:アルティナ(氷属性の視線レーザー)
後方:他多数の女生徒(婚活戦士モード)
教師席にはイルミナ(静かに殺気を漂わせて状況監視)
入り口付近にはレイラ副団長(護衛体制+剣の柄に手)
もはや俺の周囲だけ物理結界みたいな空間になってる。
そしてチャイムが鳴る。
キーンコーンカーンコーン
先生が告げる。
「午後の授業はありません。自由時間ですが――
“貴族区・学園区・商業区・闘技区・庭園区・食堂区”へ自由行動となります♪」
自由時間という名のデートイベント時限解放。
全員の目が変わる。
女子のみならず男子も“派閥探し”で殺気モード。
そう、言い換えるなら――
放課後レイドバトルの始まり
まず動いたのはローゼリア。
「ぶ、ブランデー様! その、よかったら一緒に学園食堂で……! 一緒にランチを……しませんかっ!」
純粋に誘うタイプ。殺意ゼロ。可愛い。
その瞬間、アルティナが机を立つ。
「ランチは後。図書館区で魔法資料の整理をする。あなたも来るのよ」
誘ってるのか命令なのか分からんが、視線が真剣。
空気がピキッと割れる。
「ぶ、ブランデー様はお昼に困ってると思いました!!」
「あなた勝手に決めつけないで」
雷が走りそうな視線の交錯。
そして――
第三の影が会話へ滑り込む。
レイラ副団長
「ふむ、学園区の鍛錬場を見学しに行くのはどうだ? 危険も少なく、安全だ」
そして最後に――
イルミナがゆっくり立ち上がった。
「放課後最初の時間は、私と職員室で過ごすのがベストですよ?
“安全”で、誰にも邪魔されませんから……ね? 坊ちゃま?」
笑顔のまま背後で黒い翼が生えてる幻覚すら見えた。
俺は理解した。
──このまま選んだら確実に死ぬ。
(マスター、逃げる案は?)
(逃げた瞬間、一番怒らせるやつだろ)
(正解です)
(マスター、誤魔化す案は?)
(100%バレるだろ)
(正解です)
(マスター、MOST SAFE ルート:全員を満足させる)
(どうやって?!)
(“放課後はスケジュール制です”と宣言すればOK)
神AIかお前は。
俺は立ち上がり、宣言した。
「放課後は――
時間で区切って、全員と回る!!」
一瞬、静寂。
次の一瞬。
「順番制!?」「公平!?」「公平だ!!」「それなら戦争じゃない!!」「天才か!?」「救世主か!?」「間接的ハーレム宣言!?」
クラス全員の反応が爆発した。
俺は勢いのまま続けた。
「順番は“今日指名してくれた順”で回る!
ローゼリア → アルティナ → レイラ → ……他の子 → ……イルミナ先生(希望があれば)!」
イルミナがすっと手を挙げる。
「希望、あります♪」
笑顔が怖い!!
いやいちおう参加希望者だな!!
怖いけど!!
◇
こうして、本日のデート(?)スケジュール決定。
【放課後イベント 〜本日の予定〜】
① ローゼリア :食堂ランチ
② アルティナ :図書館区・魔法資料
③ レイラ :鍛錬場見学
④ 他女生徒枠 :希望者抽選
⑤ イルミナ :職員室で“反省会(?)”
俺は冷や汗だくだが、周囲は大盛り上がり。
「公平すぎる!」「ジェントルマン!」「好感度爆上がり!」「もしかしてブランデー様って聖人?!」
……いや違う。
生き延びたいだけだ。
(マスター、恋愛フラグ管理ゲージが安定してきました)
(なんだそれ初耳だ)
◇
そして、放課後イベント①スタート。
***《食堂区》***
食堂は広すぎてテーマパーク。
席数は数百。
料理は全部美味しそう。
魔法でできた自動システムがサラダ飛ばしてくる。
ローゼリアは緊張で硬直しながらトレーを運んでいる。
「こ、こんな大人数がいる場所でブランデー様とランチなんて……夢みたいですっ……!」
顔が真っ赤。
だが、ものすごく嬉しそう。
席につくと、ローゼリアは勇気を振り絞るように話した。
「その、私……もっとお話ししたいです。
戦いだけじゃなくて、学園生活のこととか……」
「ああ、もちろん。俺も話したいよ」
ローゼリアの表情がふわっと明るくなる。
「じゃあ、あの……一番好きな色、教えてくださいっ!」
可愛い質問だな。
「青かな。空とか海とか好きだし」
するとローゼリアは、ぱっと胸元のロザリオを握った。
「わ、私の魔力色も“青”なんです! 同じ色……嬉しいですっ!」
偶然だけど嬉しいらしい。
こういうのに弱いのはわかる。
その瞬間――周囲の女子達が騒ぎそうになるのを、イルミナが外から射殺す視線で黙らせてくれてるのが見えた。
怖いけど助けられてるのが複雑。
食事もスムーズに進み、最後の一口。
ローゼリアは、そっと言った。
「ブランデー様……楽しかったです。
また……食事、してくれますか?」
「もちろん。いつでも誘ってくれ」
ローゼリアの瞳がうるうると輝いた。
「うん……ありがとう……!」
胸が温かくなるくらい幸せそうな笑顔だった。
◇
放課後イベント②
***《図書館区》***
静かな書庫、膨大な魔法書、ラミネートされた禁書。
本好きには天国……だが俺は読めない呪文多すぎ。
アルティナは棚から厚い魔導書を10冊ほど宙に浮かせて持ってくる。
「はい、これ。私のおすすめ」
「これ全部読むの?」
「全部“私が読ませたい本”よ」
照れてるの?
眼鏡外した司書プレイしてるの?
ふと、アルティナが俺の手をそっと掴む。
「……ここは音を立てたら退場処分。だから距離を近くして話すしかないの」
いやそんなルール初耳だけど?
距離近いのは嬉しいけど誤魔化してない?
「昨日の迷宮の続き。
あなたの“当然だろ”って言葉……もう一度聞かせて」
「アルティナが隣にいるのは当然だろ」
言った瞬間、アルティナの手が震えた。
「……“隣”は……初めて……」
言葉の意味が分かって、胸がどきっとする。
そのまま黙って横に座ってくるアルティナ。
照れて言葉が出ないくせに
手だけは離してくれない。
図書館の静寂の中、
二人だけの距離が近いまま時間が過ぎていく。
◇
放課後イベント③
***《鍛錬場》***
レイラ副団長は淡々としていた。
「護衛対象として冷静に見ていたが――君はやはり異常だ。
腕前は天才の領域ではなく、神域だ。だが――」
レイラは木剣を構える。
「“隠す技量”を鍛えるべきだ」
強さを隠す訓練。
確かに一番必要かもしれない。
「俺に教えてくれるのか?」
「当然だ。あなたに死なれたら困る」
言葉は冷静で誠実。
だがどこか“執着”がある。
レイラは指先で俺の手を包み込み、木剣を握らせる。
「手加減の感覚、身体に覚えさせる。
そっと、しかし確実に。
力は守るために使うものだ」
レイラの手は暖かく、頼もしくて――
妙に安心する。
彼女の言うことには逆らう気が起きない。
言葉より行動で守るタイプの人だ。
◇
放課後イベント④
希望者抽選枠。
女子たちが視線を送り、男子たちは距離を取る。
結果、見た目はクラス参観の暴動。
抽選で当たったのは、控えめそうな子。
「え、えっと……あ、あの……ただ、一緒に学園庭園を歩きたくて……」
攻撃性ゼロ。
ただ純粋に一緒に歩きたいだけの子。
庭園を歩きながら、
「すごく綺麗ですね……」「花が好きなんです……」
など可愛い会話だけで終わった。
最後、三つ編みの子は照れながら言った。
「その……今日の思い出、私は一生忘れません」
その瞬間、観客席(教室窓)から視線の嵐が飛んできた。
が、今日の俺は死ななかった。
◇
そして最後――⑤
***《職員室》 イルミナの番 ***
職員室に入ると、イルミナがティーセットを用意していた。
笑顔は優しいのに瞳は獣。
「坊ちゃま、今日は“全部”無事でしたね。
えらかったですよ」
褒められたのに身体が固まる。
何か怖い。
イルミナは紅茶を注ぎながら言った。
「坊ちゃまが誰を選んでもいいんです。
でも――“泣かせないように”だけはしてください」
その声には怒りも独占欲もなく……
ただ本気の優しさだけがあった。
「坊ちゃまが幸せなら、私は嬉しいんです」
その言葉に俺はやっと息ができた気がした。
イルミナは表情を崩し、いつもの微笑みに戻る。
「さあ坊ちゃま、明日も大変です。
本気で幸せになれるように、全力でサポートします♪」
うん、やっぱり怖いけど、味方だ。
◇
屋敷へ帰る馬車の中。
今日の出来事を振り返り――
頭が痛いのに胸が温かい。
俺は小さく呟いた。
「……異世界生活って、忙しいな」
(マスター、“楽しい”って言いたかったんですね)
(うるさい黙れ)
視界の外でイルミナが静かに笑っていた。
修羅場も恋愛も成長も全部混ざった一日。
だけど俺は生き残った。
そして――
明日、また新しいイベントが待っている。




