「学園生活開始! 座席決めでクラスが大荒れします」
翌日。
王立アルクス学園・特待生クラスの教室。
豪華なシャンデリア。大きな窓。個人ロッカー。
教室なのにホテルのラウンジみたいな構造、そして机は全部一人用。
さすがは“王侯貴族・聖職者・英雄候補・超天才”しかいないクラス。
もちろん俺は――
この修羅場の中心に放り込まれている。
入室して早々、教室中の視線が俺に集中。
「ねえあれがEXランクの……」
「昨日1位通過の……?」
「氷の姫や聖女候補が本気で狙ってるって噂の……?」
「王族レベルの権力争いに巻き込まれてるとか……」
「あの子の隣に座る=命知らずって意味では……?」
俺の社会的地位:存在するだけで修羅場。
そんな中、ローゼリアが駆け寄ってくる。
「お、おはようございますブランデー様! 今日も一緒にがんばりましょうね!」
笑顔満点、距離近すぎ。
袖をつかまれてるのもいつも通り。
「おはようローゼリア」
そう言っただけで周囲がざわつく。
「なにあの自然な距離感……!」
「触れてる……近い……」
「勝敗決したか……!」
いや決してないから!!
続いて、アルティナが入室。
ローゼリアはぱっと距離を取る。
空気が凍りつく。
クラスメイトたち全員の背筋が伸びる。
アルティナは表情ひとつ変えないまま、俺の前に立った。
「……おはよう」
その声が静かで、だけど優しい。
その瞬間、周囲の女子が悲鳴あげかけて口を塞いだ。
(マスター、テロレベルの破壊力です)
(俺の平和どこ?)
そして最後、教室後ろの扉から――
コツ、コツ、コツ
ヒールの音が響き、イルミナが入室してきた。
家庭教師兼護衛であるはずの彼女が、なぜか学校指定教師ローブを着ている。
「今日から特待生クラス副担任を務める、イルミナ・フローレンスです。よろしくお願いします、坊ちゃま」
「教師になってるーーーっ?!?!」
「もちろんブランデー様の“学園生活の安全確保”のためです」
笑顔が怖い。
なぜ教師になれるんだ。
審査厳しいんじゃなかったのか王立学園。
(マスター、収賄の証拠はありません)
(そこまで言うな!!)
さらに、扉がまた開く。
「失礼する!」
金属音とともに、全身鎧の女騎士――レイラ副団長が入室。
「本日より王立学園の外部協力教官を拝命した! 特待生クラスの訓練指導を担当する!」
「勤務形態変わりすぎだろぉぉぉ!!」
俺の周囲を固める“包囲網”が完成してしまった。
◇
そして問題の時間――
席決め
学園長が掲示する。
《クラス内の席は“好きな席に座る方式”》
その瞬間、全員の顔色が変わった。
そう。
このルールは、実質こう意味する。
「誰の隣に座るか」=社会的勢力図
恋愛、派閥、友情、政略、全部席で決まる。
一秒の遅れで人生変わる。
そして――
教室中央に“空席が二つある机”が置かれている。
明らかにカップル席。
いやカップル席にしか見えない。
もう嫌な予感しかしねぇ。
学園長が言う。
「特待生クラスはペア制の活動が多い。
座席は自由だが――“両隣に座った者がペアになる”」
ざわぁぁぁぁぁ!!
「おいあの席、ブランデーの隣に座るってことだろ?」
「つまりヒロインフラグ席か……!!」
「戦争が始まる!!」
俺の平和、完全に死亡。
学園長の号令。
「席につけ!」
――静寂。
1秒。
2秒。
そして――
「ブランデー様の隣は私です!!」
ローゼリアが真っ先にダッシュ。
席に滑り込み、ガシッと机を抱える。
執念すら感じる。
「……その席は私がもらう」
アルティナが瞬間移動レベルの速さで、もう片側の席に座った。
完 全 包 囲 完 成
ローゼリア × 俺 × アルティナ
両脇ヒロイン席。
教室全体が悲鳴に近いざわめきになる。
「氷の姫と聖女候補が両サイド?!」
「王族・教会・貴族すべて巻き込む地獄席!!」
「中央のブランデー命の危険すぎる!!」
男子の視線は殺意。
女子の視線は嫉妬。
その中で授業を受けるとか拷問か?
(マスター、生存率0.4%です)
(小数点にすんな!)
◇
ホームルーム開始。
イルミナ先生(副担任)が教壇に立つ。
「皆さん、隣同士のコミュニケーションを大切に、仲良くしていきましょう♪」
笑顔なのに背筋が凍る。
絶対、本音は「坊ちゃまに触れたら許さない」系。
レイラ副団長も教壇横に立つ。
「訓練時には護衛として同行する。特にブランデー様を狙う不審者が出ないよう警備体制を整える」
完全に過保護。
いや有難いんだけど視線が怖い。
授業開始。
――と思った瞬間。
ローゼリアが小声で話しかけてくる。
「今日の授業終わったら、あの……食堂、一緒に行きませんか?」
アルティナも低い声で被せてくる。
「その時間帯は図書館案内の予定がある。あなた、来るわよね?」
危機回避能力が爆発的に要求される時間になった。
選択肢は3つ。
①片方を選ぶ=戦争
②どっちも断る=戦争
③どっちも行く=時間被ってるので戦争
詰 み。
(マスター、提案があります)
(?)
(“授業中に先生から呼び出されたことにする”)
(神の采配か?)
ちょうどイルミナが黒板に文字を書いている。
俺は手を挙げた。
「あのイルミナ先生、授業後に話があると父が……」
イルミナはにっこり微笑んだ。
「ええ、授業後ではなく“今すぐ”ですね?」
「NOW?!?」
イルミナが俺の肩をポンと叩く。
「ブランデー様、至急職員室へ連行します♪」
連行て言うな!
その瞬間、クラス中の女子達の戦闘モードが解除された。
「さすがイルミナ先生だ!」
「全員の戦争回避してくれた!」
「聖女候補と氷の姫の争い停止!!」
俺は席から解放される形になり――職員室へ。
◇
――職員室前。
レイラ副団長が護衛としてついてきている。
「坊ちゃまの安全、確保できましたね」
「安全……? 常に危険しかなかったけど……」
ノックし、扉を開ける。
イルミナが紅茶を淹れて座っていた。
「――坊ちゃまの学園生活を“平和に”過ごすための対策会議をします」
「平和に?!」
「はい。“恋愛フラグを整理し、危険人物から優先的に対処し、嫉妬の暴走を防ぐ”戦略です」
「イルミナ、もうそれ学園ラブコメ攻略会議じゃん!!」
イルミナは微笑む。
「私はただ、坊ちゃまの幸せを守りたいだけですから」
真顔で言われると逃げられない。
レイラ副団長も席に座る。
「ブランデー様はあまりにも他者に好かれすぎます。その管理は必要です」
管理って何? 俺、資産か何か?
イルミナが書類を広げる。
《ブランデー・ハーレム危険度リスト》
1位 イルミナ(自己評価:低)
2位 ローゼリア(暴走予測:中)
3位 アルティナ(執着予測:高)
4位 他女生徒(暴動リスク:爆高)
「自己評価低い?! アンタが一番危険なんだよ!」
「自覚がないのが危険度高いと言われました。なので1位にしました」
自分で書いたのかよ。
(マスター、悪い知らせがあります)
(なに)
(この会議の議題、“この後ブランデーとデートする権利”について話し合う予定です)
(デート会議て何!?)
イルミナは優雅に紅茶を飲みながら言った。
「坊ちゃま、今後の学園生活――
誰とどんな距離感で接するか、全部一緒に考えましょうね?」
笑顔のまま、背後に天使の輪と悪魔の翼が同時に見えるレベル。
この時俺は悟った。
迷宮より座席より危険なのは“学園ラブコメ”だった。
平和に生きたいだけなのに――
なぜかハーレム管理会議に巻き込まれてる。
俺の異世界学園生活、
まだ地獄の入り口に立ったばかり。




