「迷宮試験開始! なのにデートっぽくなるのなぜだ
翌朝。
王立アルクス学園の実技訓練場――地面に描かれた巨大な魔法陣が光り輝いていた。
学園長が宣言する。
「これより第二試験“迷宮攻略ペアテスト”を開始する!
制限時間は3時間。
目的は“迷宮最深部の宝箱を持ち帰ること”。
道中の採取物・魔物素材・戦闘評価・連携評価・心理的相性も採点対象とする!」
心理的相性ってまた言ったよね?!
だからそれ恋愛ポイント評価だからね?!
俺の隣に立つのは、第一ペアとなった少女――
氷の姫 アルティナ・エルフェリア。
真っ白な髪、淡青の瞳、無表情で静かながら、近づくとほんのり体温と香りを感じる。
制服は裾に魔法陣刺繍が施された貴族仕様。
近くで見ると息を飲むほど綺麗だ。
「……ぼんやり見つめてどうかした?」
無表情のまま首を少し傾けてくる。
「い、いやその……改めて一緒に頑張ろうな、という意味で」
「そう。なら期待してる」
淡々と返しながらも、耳だけ赤い。
やっぱりツンデレだこの子。
(マスター、魅了率上昇中)
(言うな)
学園長の杖が振られた直後、迷宮へのゲートが開く。
「行くぞ」
アルティナが先に歩き出す。
俺も後を追い、ゲートに足を踏み入れた。
◇
――迷宮内部。
天井の低い石造りの通路、松明の光、前方には分岐。
王道RPGのダンジョンって感じ。
「では評価項目のひとつ“方針決定”を行いましょう」
そう言ってアルティナは地図を広げた。
迷宮全体を俯瞰する立体マップ。高度な魔法具らしい。
「右は魔物が多い。左は罠が多い。中央は……どちらも多い」
「中央地獄じゃん」
「罠は回避訓練に良いし、魔物は戦闘評価に良い。どちらを優先する?」
アルティナは冷静な口調で説明するが――
「あなたは“何でも一瞬で終わらせる”から判断が難しい」
グサッ
事実だから反論できない。
「できれば……手加減して。私も一緒に戦いたい」
その小さな声には、わずかな“願い”が滲んでいた。
俺は気付いた。
アルティナは俺の“強さそのもの”を求めているんじゃない。
“肩を並べて戦える相手”を求めている。
七歳児の俺は理解した。
ヤバい。これは普通に惚れるやつ。
「右に行こう。戦闘評価が稼げる方だ」
「理由は?」
「アルティナと連携できる方がいいから」
言うと同時にアルティナの肩がびくっと震えた。
一瞬、耳まで真っ赤。
しかしすぐに平静を装う。
「……人心掌握、上手ね」
「やめろ職業:メンタリストみたいになるから」
◇
魔物遭遇。
狼型の魔獣が三体飛び出してくる。
アルティナが告げる。
「私が正面。あなたは右側をお願い。左の一体は残し、連携の確認をしたい」
戦闘役割分担。
実に合理的。
「了解!」
俺は魔力を極小に抑えた拳を叩き込む。
ボフッ!
一体撃沈。
衝撃は最小、怪我ゼロ。
アルティナの後方支援者が見ても満点レベルの調整(ゼロの自動制御のおかげ)。
アルティナは詠唱なしで氷の刃を呼び出す。
「――凍り砕け」
一閃。
二体目の首元に氷刃が走り、動きが凍る。
そして残った一体――
「終わらせるわよ」
アルティナと俺が同時に動いた。
俺の拳が狼の動きを止め、
アルティナが氷槍で動きを封じ、
最後に俺が軽く背中を叩いてノックダウン。
敵の肉体は綺麗なまま。
傷はない。
それでいて三秒で討伐。
観察者の水晶が淡く光る。
「ふふ……いい動きね」
アルティナは珍しく満足気に微笑んだ。
なんか、普段の冷たい雰囲気が嘘みたいな柔らかい笑顔。
その笑顔に気を取られていた――その時。
「後ろっ!!」
背後から影が飛ぶ。
迷宮名物のアンブッシュ(奇襲)だ。
アルティナの表情が瞬間固まる。
「っ――!」
身体が動かない。
予想外の攻撃でも微妙に怯むのは仕方ない。
でも――
その0.2秒の停滞を見逃すほど俺は鈍くない。
俺はアルティナの肩を抱き寄せ、身体ごと後ろへ下げ――
来た影に手刀を入れて気絶させる。
一瞬で終わり。
アルティナが俺の胸の中で目を見開く。
「あ……」
近い。
顔の距離10センチ。
抱き寄せたカタチのまま固まっている。
「だ、大丈夫か?」
俺は焦って離れるが、彼女は少しだけ手をつかんだまま離さなかった。
「……助かった。ありがとう」
「いや、当然だろ」
言った瞬間、アルティナの睫毛が震えた。
「そんな言葉……初めて言われた」
それは小さすぎて壊れそうな声だった。
「え?」
「私はエルフェリア家に生まれてからずっと、
“勝て”“負けるな”“隙を見せるな”“期待を裏切るな”
そんな言葉ばかり聞いてきた。
だから、“当然”なんて言われたことがなくて……」
アルティナは拳を握りしめる。
「隣にいて当然……なんて、言われたことがない」
胸の奥に何かが刺さる感覚。
この子は、強く見えて弱い。
完璧に見えて孤独。
「じゃあ俺が言うよ。何回でも」
「……っ」
アルティナは反射的に俺の口を塞ぐように手を伸ばした。
無表情だけど耳真っ赤。
「……だめ。そんなこと言われたら――期待してしまうから」
心臓に悪すぎるツンデレの破壊力。
俺は笑った。
「期待していいよ。俺、逃げないから」
アルティナの瞳が大きく揺れて――
ぽそっと呟いた。
「バカ……」
その声は、怒りでも呆れでもなく。
照れ隠しだった。
……やばい。普通にかわいい。
(マスター、恋愛ルート突入音がしました)
(やめろ効果音再生すんな)
◇
さらに迷宮奥へ。
戦闘・協力・補助・判断――すべて噛み合って、危なげなく最深部到達。
最後の宝箱が鎮座していた。
「じゃあ……二人で開けましょうか」
アルティナは静かに俺の手に触れ――
二人で宝箱の蓋に手をそえる。
パカッ
中に入っていたのは――煌々と輝く“水晶の鍵”。
学園長の声が響く。
『第二試験、第一突破者――ブランデー・ハイボール & アルティナ・エルフェリア組』
やっぱり1位だった。
アルティナは鍵を見つめながら、少し微笑む。
「ブランデー。今日のことは忘れない」
「俺も忘れないよ」
「……約束。破ったら許さない」
その声は甘えるでも脅すでもなく――
“信頼の裏返し”だった。
迷宮ゲートが開き、俺とアルティナは地上へ戻る。
◇
会場に戻った瞬間。
「ブランデー様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ローゼリアが泣きそうな顔で突進してくる。
「無事でよかったぁぁぁぁ!!!」
ギュウゥゥゥッッ!!!
抱きつかれた。
腕の中で震えてる。
「だ、だめですローゼリア。いま密着は――」
「もう離しません……!」
アルティナの視線が冷えた。
会場の空気が凍った。
背後からイルミナの殺気が突き刺さった。
レイラ副団長は剣の柄に手をかけた。
観客席の女子たちもざわついた。
――修羅場、開幕。
(マスター、生存率5%です)
(たすけろ)
◇
そうして俺は――
・アルティナとの連携で1位突破
・ローゼリアの全身ハグ
・イルミナの殺意
・女子の嫉妬
・男子の殺気
全部一気に浴びながら地上へ帰還することになった。
俺は強く誓う。
“明日こそ平和に過ごす”。
ゼロが冷酷に返した。
(マスター、それは死亡フラグです)




