「ペア指名タイム! 修羅場で名前を呼ばれる恐怖と歓喜」
「では、これより――第二試験、ペア指名タイムを開始する!」
学園長の声が響きわたると同時、試験会場がざわつき始めた。
ルールは簡単。
指名形式。名前を呼び、了承されたらペア成立。
ただし――
今日のこの状況で俺を指名したら“修羅場の炎”に焼かれるのは必至。
ローゼリア(聖女候補):純愛系。
アルティナ(氷の姫):ツンデレ高嶺系。
イルミナ(家庭教師):危険な独占欲系。
レイラ副団長(騎士):忠誠心からくる執着系。
そして、他の女生徒たちも「EXランク天才少年=未来の勝ち馬」と見て群がっている。
俺は悟った。
これ、選び方ひとつで死ぬ。
(マスター、ランダムで選ぶ案は?)
(確率で死亡する未来しかない!)
まさに追い詰められた獲物の気持ち。
俺は七歳児。精神は高校生。
恋愛IQは平均値。
――勝てる気がしねぇ。
「では、上位者から順に指名してもらう。まず1位、ブランデー・ハイボール君」
「うわ俺からかよォォォ!!!」
当然だよね。
全視線集中。
まるで死刑宣告の瞬間みたいな空気だよね。
ローゼリアが期待の眼差し。
アルティナが静かな闘志の眼差し。
観客席のイルミナが“選べなかったら許さない”オーラ。
背後でレイラが“選ばれる準備はできている”顔。
時間よ止まれ。
止まらなかった。
(マスター、提案があります)
(何?!)
(“まず他の人を指名するように依頼”して先に自分を指名してもらう形にすれば安全です)
(……天才か??)
俺は手を挙げた。
「えっと、俺より先に――誰か俺を指名したい人、いますか……?」
ざわあぁぁぁっっっっ!!!
一瞬で空気が爆発した。
「はい!!!」
「わ、私です!!」
「ブランデー様お願いします!!」
「一緒に試験受けたい!」
「あなたしか見えない!!!」
「私の運命の相手!!!」
「未来の旦那様!!!!」
おい待て最後!!
人生の目的先走ってる奴いるぞ!!
学園長は苦笑しながら言った。
「い、一応……公平のため、“1人ずつ”発言してもらおう……」
すると――
「私が先です」
静かに前に出たのは、アルティナだった。
まっすぐこちらを見据え、観客席がざわつく。
「私は――ブランデー・ハイボールを指名する」
「――――ッ!」
その言葉は氷の刃みたいに美しい。
声に迷いがなかった。
ローゼリアの表情が一瞬揺れる。
周囲の女子から怒号に近いざわめきが起こる。
「聖女候補差し置いて?!」
「氷の姫が指名した?!」
「早すぎるだろ!!」
「独占か?!」
俺は息を飲む。
みんな俺の返答を待っている。
返答次第で死人出るかもしれない。
いや誇張じゃなく本当に出そう。
アルティナは、まっすぐ俺の目だけを見て言った。
「あなたの力が欲しい。
そして、あなたの力を私が――理解したい」
その声は挑発でも命令でもなく、願いだった。
……わかる。
“高みに立ちたい者”の言葉だ。
だが――
「ま、待ってください!!」
ローゼリアが叫ぶ。
「わ、私も……ブランデー様を指名したいです……!」
震えながら、しかし最後まで視線を逸らさない。
「私だって――隣で一緒に歩きたい……!」
涙すら滲んでいた。
「聖女候補まで……!」
「これ何次元修羅場だ?!」
「勇者と魔王の戦いかよ!!」
観客席まで騒然。
そしてさらに――
「失礼します。規定違反は承知ですが――」
バッと一歩前に出て、騎士レイラが膝をつき、俺の手をとる。
「ブランデー様。王都においてあなたは危険です。
これは任務であり護衛としての責務。どうか、私を選んでください」
もうだめだ。
世界が俺を殺しにかかってる。
(マスター、手札はまだあります)
(どんな?)
(“俺を選んでくれた順に試験を受けたい”と言って、全員と受ける方法です)
(優柔不断ハーレム主人公ムーブじゃねぇか?!)
(でも生存率100%です)
……くそ。
プライドなんて命の前では紙だ。
俺は息を吸い――叫んだ。
「俺は――!!」
会場が凍り付く。
全視線、真正面から受け止める。
「俺を選んでくれた順に、一緒に試験を受けたい!!!!」
――ド ッ ッ ッ ッ !!!
観客席まで衝撃が走った。
「え?!順番制?!」
「その手があった?!」
「規定違反では?!?!」
「いや、選んだ側が了承すれば成立だよな?」
「なんかすごい落とし所見つけた!!」
ローゼリアが顔を輝かせ、
アルティナは一瞬固まり、
レイラがため息を吐きながら微笑んだ。
そして――
「……良いだろう」
最初に指名したアルティナが返した。
「第一ペアは、私だ」
ローゼリアも続く。
「その次は、わ、私……ぜったいですよ!」
レイラは丁寧に一礼した。
「三番目、光栄に……」
会場はどよめきとため息と悲鳴の嵐。
俺はその中心で、ただひとこと心で叫んだ。
――生き残った……!!!
(マスター、生存率98%に向上)
(100にならないのか?!)
(まだイルミナ様が黙ってます)
観客席を見た。
イルミナは笑っていた。
――満面の笑みで。
“逃げられると思いましたか?”
そう書いてある笑顔。
(マスター、生存率30%に低下)
(なんでだよ!!)
学園長は頭を抱えながら手を叩いた。
「ペア成立――第1試験1位のブランデー・ハイボールと、2位アルティナ・エルフェリア!」
――こうして
俺の“第一ペア”は、氷の姫アルティナに決まった。
「第二試験『迷宮攻略ペアテスト』は明日開始とする!」
迷宮、という単語に
観客も受験者も一斉にざわつく。
アルティナは小さく囁いた。
「明日……あなたの全てを見せてもらう」
挑戦。期待。嫉妬。執念。
いろんな感情が込められた声。
それでも――
俺は答えるしかない。
「……やれるだけやるよ。よろしくな、アルティナ」
氷の姫は一瞬だけ、
雪が溶けるみたいに、微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間――
観客席でイルミナの殺気が爆発した。
(マスター、いま死亡フラグが7本同時に立ちました)
(折れろ!!!折れてくれ!!!)
――明日、迷宮試験。
俺の命があるかは知らん。




