「王都へ出発。フラグはまだ増えるのか?」
王都行きの馬車が出発するその朝、屋敷の前には妙に多い見送りの人だかりができていた。
父、母、使用人たち、庭師、料理人、近所の子供達、配達員、よく分からない商人、そしてイルミナ。
なんでこんな大行列なん? 俺、国を出征する英雄かなんか?
「坊ちゃまー! 旅先でも筋トレ忘れないでくださいねー!」
庭師、まずお前が叫ぶのか。
「ブランデー坊ちゃん! 毎日三食しっかり食べるんですよ! 特に肉! 肉食べて! 肉を成長の糧にするです!」
母、自分の料理推しがすぎる。
「ブランデー……もし困ったことがあったらいつでも帰ってきていいぞ」
父、急にまともなこと言うなよ照れるじゃん。
「あと手紙毎日ね!」
いや最後に結局胃袋プレッシャー入ってきたな母。
俺はぐらりと揺れる馬車の中でため息をつき、遠ざかっていく屋敷を眺めた。
(マスター、感動していますか?)
(いやなんか違うだろゼロ。俺は普通に見送りがデカすぎて恥ずかしいだけだ)
(珍しく素直ですね)
(黙れAI)
◇
王都までの道のりは、通常の馬車なら三日らしい。
だが、うちの家はやたら金持ちなので、馬も馬車も超一級品だ。
快適すぎる。揺れない。
これ、完全に貴族の社長出勤じゃん。
「坊ちゃま、水分補給を」
「ありがとうイルミナ先生」
イルミナが優雅な所作で水筒を差し出してくるが、なんか距離が近い。
いや近い近い。顔20センチの距離は近い。
「坊ちゃま、王都は華やかですが危険も多いのです。特に……女性の」
「いや急にどうした?」
「坊ちゃまはまだ子供に見えますが、神託の影響で“魅了耐性ゼロの人から見ると、魅力が数百倍”に見えるそうです」
「……はい?」
「つまり――」
イルミナはさらっと言った。
「坊ちゃまは、放っておくだけで“惚れられる”のです」
「ッッ?!」
ちょっと待って?!
俺そんなバフいらん!一番危険な地雷スキルやんけ!
「なので、基本的には私のそばから離れないでください」
そう言って、イルミナは俺の頭をわしゃっと撫でる。
……撫で方がなんか犬に対するそれなんだよなぁ。
「えっと、イルミナ先生?」
「はい?」
「先生って俺を子供扱いしてない?」
「していますよ?」
キッパリ言ったよこの人!
「……ふん。王都に着いたら俺も成長して“紳士”を見せてやるからな!」
「はいはい、期待していますよ? 坊ちゃま」
こいつ絶対信じてないだろ。
◇
そんなやり取りをしていたら――
ガンッ!!!
馬車が急停車した。
「な、なんだ?!」
「盗賊でしょうか……気配が十以上!」
馬車の外から声が響く。
「中に貴族ガキがいるって聞いたぜぇ! 身代金いただきだぁ!」
典型的な盗賊来たーー!
テンプレイベントだ!
もう分かってる。
こういう時は助けて、名声上がって、王都入りで噂になるやつだ!
「坊ちゃま、下がってください!」
イルミナが剣を抜こうとする――が。
「まて、イルミナ。俺にやらせてくれ」
「いえ坊ちゃまは危険――」
「大丈夫だって。俺が一瞬で片付ける」
俺は馬車から降りた。
盗賊たちは一瞬ひるむ。
そりゃそうだ。七歳児が単身で出てきたのだ。
「おい坊主、命が惜しけりゃおとなしくし――」
パンッ
拳を軽く振っただけで、盗賊のリーダーがぶっ飛んだ。
吹っ飛んで空の向こうに豆粒レベルだ。
音速で。
「………え?」
周りの盗賊が口をぱくぱくさせたまま固まる。
……しまった。加減ミスった。
「ほ、ほわぁぁぁぁ?! な、なんだコイツぅぅぅぅ?!」
残りの盗賊十数名が総崩れで逃げ出した。
その瞬間。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! その少年を追わないで!」
どこからか馬で駆けつけた銀鎧の女騎士が叫んだ。
「その子は、ただの一般市民ではありません! ハイボール伯爵家の御嫡子――」
俺の肩に手を置くと、その女騎士は優雅に片膝をついた。
「お初にお目にかかります。
私は王都第三騎士団副団長――
レイラ・アークレインと申します」
黒髪ショート。クール系。超絶騎士美女。
また増えた。
「この度の迅速な対応――まさしく“英雄”と呼ぶに相応しい。
王都への旅路、我らが全力で護衛させていただきます」
「え、いや、そんな大げさな……」
「大げさではありません。あなたはすでに――王都に入る前から“英雄候補”です」
やばい。
噂になってしまった。
そして横を見るとイルミナがニコォっと微笑んでいる。
……怖い。
(マスター、ヒロイン候補数:2 → 3に増えました)
(カウントすんなぁぁぁ!!!)
◇
その日の夜。王都のホテルにて。
「今日はお疲れ様でした坊ちゃま。お着替えを」
イルミナが当然のように服を脱がせようとしてくる。
「ちょちょちょちょ! 自分でやる! 七歳児これ普通なの?!」
「坊ちゃまはまだ子供ですから。問題ありません」
「いやある!!! 俺の精神年齢は高校生!!!」
「……でも、私は坊ちゃまのそばを離れる気はありませんよ?」
ピタッと距離を詰めて、俺の目をのぞき込む。
「王都には……ライバルが増えますから」
一瞬、イルミナの目が獣みたいに光った。
こっわ?!
◇
翌朝。
いよいよ――王立アルクス学園の特待生試験だ。
会場の校舎は立派すぎて城みたい。
門の前には100名以上の受験者が集まっている。
みんな強そう。
魔力の気配とか武器の持ち方からガチなの分かる。
「よ、よーし……絶対平和にやり過ごすぞ」
(マスター、なんか嫌な予感がするので賭けません?)
(お前の嫌な予感は当たるからやめろ)
なんて心の中で言い合っていたら――
「ブランデー様っ!!!」
声がした。
振り向くと――
淡い桃色の髪に翡翠の瞳。
あの教会の少女、ローゼリアだ。
「本当に来てくださったんですね……! 会いたかったです!」
ローゼリアが勢いよく飛びついてくる。
周りの受験者の視線が一気に刺さる。
「おい見たか今の……」
「聖女候補と名前呼び捨て……?」
「誰だあの子供……?」
「いや待てあれが“ハイボールの天才”じゃねぇのか」
「“絶神候補”って噂の……?」
ざわざわざわざわざわ……
(マスター、フラグ警報MAXです。全方向から殺意に似た嫉妬エネルギーを観測)
(止めろRPG用語で人の人生を計測するな)
その時だ。
バチィッ
周囲の空気が震えた。
二十歩ほど先。
冷たい視線をこちらに向ける少女が立っていた。
銀髪、雪のような白い肌。
ドレスのような制服を纏った、絶世の美少女。
「あれは……!」
「王立学園主席候補……氷の姫、アルティナ=エルフェリアだ……!」
少女――アルティナが静かにこちらへ歩いてくる。
無表情のまま、俺の前でぴたりと足を止めた。
そして――
「あなたが……噂の“絶対神(仮)”の少年?」
「……………」
神託の話がもう広まってんのかよォォ!!!
アルティナはそっと俺の胸に指を当てて、小さく言い放った。
「試験。私の邪魔をしないで」
挑発――いや宣戦布告だ。
ローゼリアがぎゅっと俺の袖をつかむ。
イルミナが背後で剣に手をかける気配がする。
レイラ騎士団副団長がなぜか近くで見守っている。
受験会場前が、
開幕から修羅場になった。
ま、待って?
俺、今日の目標は平和だったよね?
(マスター、予定表を更新しますか?)
(してみろ)
(“平和”→“生き延びる”に変更完了です)
俺の異世界学園生活は――
開始前から既に地獄の様相を呈し始めていた。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
https://ncode.syosetu.com/n3642ll/




