渡辺公平とチョコレートケーキ #3
前原さんが来る頃には、すっかり日が暮れていた。休憩所は蛍光灯が点っている。雨は小ぶりだがまだ降っていて、気温は更に下がったようだ。女の子は膝を抱え、私にもたれ掛かって眠っていた。それを見た前原さんはくつくつ笑った。
「事案発生だな。っとに、どういう状況だよ?」
「それは私も知りたい」
私は前原さんに今までのことを説明した。
「こいつ、アレだ」
前原さんが言う。
「天使だな」
言葉だけで考えると阿呆みたいだが、事実だろう。前原さんはそういったものを見る目が私よりいい。
「ですか」
「さっき言い忘れたんだがな、お前ん家が襲われたのはそっちの一派が関わってる。クソめんどくせえ」
「……ですか」
この子も何かしら関わっているのかもしれない。悪い子じゃないが、人には多面性がある。何にしても、私と直接関わるのは良くない。
「この子から話を聞いてもらえますか。……えーと、前原さんがって意味でなく」
「ああ。悪いようにはしねえ」
人には向き不向きがある。それは前原さんも良く分かっている。
「すぐそこに車にあるんだが、お前、そこまで抱えて運ぶか?」
にやっと笑って前原さんが言った。事案どころじゃなく、逮捕か。
ゆすって起こすと、女の子は目をこすりながら、私と前原さんを見た。
「この人は前原さん。君を保護してくれる」
女の子はこくりとうなずいた。本当に子供みたいだ。
「このおじさん、顔怖いけど、害はないから安心してついていくといい。すぐそこに車があるから」
ぽんと背中を叩いて、女の子をうながした。
「前原さん、あとお願いします。何か分かったら連絡ください」
「おう」
「ほら、傘、使って」
女の子に傘を渡すと、また涙を流しはじめた。もう勘弁してくれ。
私は逃げた。雨の中を小走りに、自宅に向かった。
到着するころには、ずぶ濡れになっていた。主に汗だ。
甲斐あってか、その日は、久しぶりにぐっすり眠れた。
本日分は打ち止めです。
次回は公平くんの仲間のお話です。