欠片
その日は家に帰ることが何となく嫌で一人暮らしの友達のところに泊まることにした。
「何かあったら、相談にのるからね!」
「うん…ありがと。…………あの、」
「ん?」
「…………いや、やっぱり…「言いたいことは言って!」…今日、泊まってもいいかな…なんて」
私のお願いに友達は一瞬止まったけど了承してくれた。
「私この後バイトあるから終わるまで適当に時間潰してて。今日は9時ごろに終わるから。」
「うん、ありがとう」
優しさに涙が出そうになって、誤魔化すために私はトイレへ急いだ。
午後8時54分。微妙な時間で、私は梨沙のバイト先にお邪魔することにした。
小さな喫茶店で、それでも、温かみがあって、メニューの味もよく、知る人ぞ知る名店と言うお店。
私はコーヒーを一杯頼むと梨沙に終わるまでここで待たせてと、言って席に着いた。
携帯を開くと環や美奈から沢山電話やメールがきていた。
私はブロックするとコーヒーを少し口に含んだ。
9時15分。梨沙と一緒に梨沙の家に向かって歩いていた。
「何があったのか、聞いてもいい…?」
星空を見上げながら私に声をかけた。
「…うん、…梨沙の家でいい?」
「うん」
家に着いてから私は梨沙に昨日のことを伝えた。
「何それ、彼氏最低じゃん!!!」
途中寄ったコンビニで買ったビールを飲み真っ赤な顔の梨沙が言った。
「つーか妹ちゃんも妹ちゃんだよね!!!姉貴の彼氏寝取るとかどーいう神経してるわけ!!??」
そう言うと手に持った缶の中身を飲み干すようにグイッと上を向いた。
そして、そのまま何かをぶつぶつと言いながら寝てしまう。
私はやれやれと梨沙をベッドに運びシャワーを借りた。
頭の中で2人の顔や声がぐるぐると巡って…私の心が壊れていくのを感じた。
もう、環にも美奈にも、会いたくないや…
友達の敷いてくれた布団の上に寝転がり私は静かに涙を流した。