饒舌スミちゃん。
「こちらですの」
案内された部屋はかなり広くて、ベッドはふたつあるしお風呂もあった。そして、なんと小さいながらもキッチンがついていた。
「うわあ! これ、こっちの世界のコンロかな!? どうやって使うんだろう!」
見た感じは、よくレストランの厨房にある、レバータイプのコンロっぽい。このレバーを引くのかな?
「何か作りますの? 宿賃の中に食事代も含まれていますのよ?」
ひゃっ。まだカナンさんが居たんだ。
「夕飯を食べていないので、何か作ろうかと……」
「異世界の者が作る食事に興味がありますの。使うものはあちらの物ですの?」
千里眼でそこまでばれちゃっているんですね。
エンリルとスミちゃんは、しれっとベッドで寛いでいるし、ルビーに至っては器用にお風呂で湯張りをしている。
「そうですね、私の世界のもので作ります。カナンさんも一緒に食べますか? 作る量が多いので少し時間がかかってしまいますが」
「宿の仕事も済ませないといけませんの。また後で伺っても構わないですの?」
「いいですよ。何か食べてみたいものがあれば作りますが、リクエストはありますか?」
カナンさんはしばし考え込んで、目を輝かせながら「肉! ですの!」 と叫んだ。
了承すると、それはもう嬉しそうに仕事に戻っていったのでした。
『(鬼族は主に肉を喰うからな。ウマい肉には目がないのだ)』
そうなんだ……。じゃあ皆で久しぶりにお買い物しようか。買わなきゃいけないものが沢山あるし。
『わーい! ぼくもお買い物一緒に行くー!』
“固有スキル︙ショッピング+1を使用しますか?”
私とルビー、エンリルとスミちゃんも一緒にお願いします、と呟くとワンクルーが登場した。
『オ久シブリデス! オヤッ!? コチラノ可愛イ方ハドナタデスカ!?』
そういえば従伴の契約を結んでからはワンクルー出してないんだっけ。
【主のスキルなのですか? 賑やかですね】
どうもすみません……。ワンクルーにお店を出すように促すと、残念そうに尻尾を垂れて消えていった。
久しぶりのイ○ンだねえ。皆、欲しいものがあれば持ってお……もう居なかった。私の腕の中に居るスミちゃんだけが首を傾げて見上げていた。
………………………………
『(我はトマトとリンゴ、それから初めて見るこいつを買う)』
エンリルにカゴを持たせて、山のようにトマトとリンゴと人参が入っている。あれ、私の友達って馬だっけ。
『ぼくはこれ! おいしそうな匂いがする!!』
キャベツと白菜、それとシシトウ。ふむ。緑のものばかりですね。
「私達はもう少しお買い物してくるから、ふたりで適当に見てまわっておいでよ」
スミちゃんを抱えて、あちこちとまわる。試してみたい事もあったからね。
エンリルが前にここで買ったアクセサリーに、鑑定スキルが付随していた件について。もし、お店の中で鑑定が出来るなら、それを選んで買えばいいんじゃないかって事に気づいたから、試しに鑑定を使用してみる。
……。うん、何も起きないし、謎声すらも無い。買ってみてのお楽しみってやつね。
スミちゃんは何か欲しいものは無い? 元はルビーのお金だけど、何でも買っていいんだよ。
【わたし、イオリ様の世界の武器を見てみたいのです】
武器とな。あー、スミちゃんは鍛冶スキル持ちだものね。でも武器はちょっと置いていないかな……。
【わたしの鍛えたイオリ様のナイフは武器ではなかったのですか?】
あれは兵器になっちゃったけど、元々はお料理をする時用のものだったんだよ。
【ああいうものを見たいです! 防具は置いていないのですか!? プレートがあればイオリ様の鎧も……!】
スミちゃん大興奮。ものすごく饒舌になってる上に、私の腕の中でバタバタしてる。
私の世界では武器も防具も必要なくてね、一般的なお店には置いていなかったんだよ。でも、調理用品売り場ならお眼鏡にかなうものがあるかもしれないね。行ってみようか?
【はい! ぜひ!】
心の奥で、ホームセンターに連れて行ったら帰れなくなりそうだな、と呟いて飲み込んだのは内緒。




