初めてのお買い物。
ハイラの森を抜けると、遥か西の方に町のようなものがあるのが見えたのでとりあえずそこに向かう事にした。
ルビーはぱたぱたと私の肩のあたりをゆっくり飛んでついてくる。数百年ぶりの外が楽しいらしく、周りをキョロキョロしながら。
「ちょっと休憩しよう」
大きな杉に似た木の下で、腰をおろした。ハイラの森から歩きづめで、足が棒みたい。履いてるスリッパも近所のスーパーで買った安物だからぼろぼろになっちゃった。
そういえば、私の固有スキルってやつは一体どんなものなんだろう。ショッピングっていっても、周りはなぁんにもないんだけれど。
“固有スキル︙ショッピングを使用しますか?”
あ、謎声さん、ちゃんと疑問形できいてくれた。木の周りを飛び回るルビーに、スキルを使ってみる事を告げ、「はい」と答えた瞬間……
目の前に、近所にあった小さなスーパーが現れた。
驚いて固まる私に、『どうした?』とルビーが声をかける。ルビーには見えていないようで、私を心配そうに覗き込んでいた。
従伴も一緒に使用することは可能ですか? と、心の中で尋ねると、すぐさま“可能です”と答えが返ってきた。
「ルビーも一緒に使おうよ、ショッピング」
『よくわからないが、いいぞ。共に使おう』
すると、ルビーにも見えたようでビクッと身体を震わせたのちに私の方に向き直った。
『これはなんだ』
「えーと、お買い物が出来る私の世界のお店」
これ、入っていけるのかな? 恐る恐る足を踏み出すと、自動ドアが開いた。中に人気は全く無くて、スーパーだけがそのまま在る感じだ。スタッフルームなんかは扉はあるけれど、溶接しているみたいに開かなくて、中には入る事が出来ないようになっている。でも、トイレはあって普通に利用できた。変なの。あ! 買い物するっていっても、私、お金持ってない!どうしたらいいんだろう。
『我が少しだけなら持っているぞ』
固まったままのルビーが、きれいな金貨をくれた。(……どこから出した?)
「通貨が違うんだけど、使えるのかな?」
“チャージしますか?”
チャージって? とりあえず、出来るものはしてもらおう!
「はい!」
すると、手に持っていた金貨がフッと消えて、謎声が響いた。
“1,000,000円を、チャージしました”
“お買い物をお楽しみくださいませ”
「百万?! ルビー、そんなお金貰って良かったの!?大金だよ!」
叫びながらルビーを見やると、すでにそこに姿はなく、スーパーの中を飛び回っていた。楽しそうに。こちらに気づくと手まで振っている。慌てて追いかけて中へ入る。
「ちょっと〜置いていかないでよ〜! 貰った金貨、高額だったけどいいの?」
『かまわぬ、使う事もないのでな。心配せずとも、あれと同じような金貨はまだ持っている。かさばって困るのだ。それよりもイオリ!! これは何だ? 果実か?』
野菜コーナーで、トマトを抱えている。それよりも、って結構な出来事なんですけど……。ルビーの尻尾がぶんぶん動いているから、きっと楽しいんだろうな、と思いながらトマトの説明をした。
『これがほしい!トマトというのか?うまいのか?』
お金をチャージ出来たのもルビーのおかげだし、トマトくらい買いますとも。支払いは……とキョロキョロしていたら、謎声がまた響いた。
“チャージより、支払いを行います”
♬シャリーン♬
ワ○ンとか言わなくて良かった。じゃなくって、これで支払いは終わったみたいだから、トマトを抱えたルビーを連れて店外へ出るとスッとスーパーは消えてしまった。抱えたトマトはそのままルビーの腕の中にある。なるほど、買い物が出来た…………!
『イオリ、これ食べていいのか?』
ルビー、よだれよだれ。目も輝いてるよ。
いいよ、と返すとがぶりとかじりついた。美味しかったらしく、あっという間に食べ終わっていた。
『青臭いようで、何とも言えない良い匂いのする瑞々しい果実だった』
ルビーはトマトをいたく気に入ったのか、尻尾と羽をずっと動かしながらトマトについて熱く語っていた。とりあえず私はもう一度ショッピングを使用して、ルビーのリクエストでトマトと、ちょっとデザインはダサいけれど、靴とスウェットの上下を購入した。