出立の前のひととき。
あくる朝、宿屋のおかみさんにお世話になりましたと声をかけると、肉団子みたいなまんまるのお肉とパンを持たせてくれた。途中で食べなさいと、三人分。お金を払おうとしたけれど、いいんだよ! と笑い飛ばされ受け取ってくれなかったから、深々とお礼をして私達は商店街に向かった。
『(どんな本を読みたいのだ?)』
ここのところ、寝る前にルビー先生に文字を教わっているおかげで、簡単なものなら読めるようになった私にルビーが問う。
この世界の本って、どんな内容のものがあるのかな? 商店街の本屋に置いてあるのって、どんなジャンルなのかな?
『(神の話や、種族別のルールが書いてあるものだったり、昔話や魔導書など様々だろうな)』
私ぐらいなら昔話で丁度いいかもしれない……。
『(プ)』
笑いたきゃ笑いなさいよー! もー!
『(すまぬ。だが魔導書の方が良いのではないか? テイマーのスキルの魔導書などもあるはずだが)』
!!
今から行く本屋にあるかな? 欲しいな!
『ついたのー! ここ、ここー!』
ずっと私達の上を飛んでいたエンリルは、看板を見つけると私の肩に降りてきた。
『(エンリルも文字を覚えたのか?)』
そういえば看板には文字が書かれているだけなのに、本屋さんに着いたって言ったね。
『ねる前に主が教えてもらってたのを聞いて、おぼえたんだよー! すごいー?』
すごいね! いいこ! とよしよし撫でると、キューッと声をあげて喜んでいる。
『(イオリより賢いのではないか?)』
……。ルビーさん、最近私に喧嘩売りすぎじゃないかな? そろそろ買うよ?
必殺! トマト買ってあげないから!
『(なっ!! そっ、それは卑怯だぞ!)』
ふーんだ、何とでもお言い!
焦るルビーをスルーして、店内へ。
ふんわりとお香とインクが混ざったような匂いがして、所狭しと本が並べられている。図書館みたい。
入口にある小さなカウンターには、仏頂面の小さなおじいさんが座っていて、本を読んでいる。
チラリと私達の方を見て、また手元の本へと目線を落とした。
ずらりと並んだ私の背よりも随分高い本棚を、一列ずつ見ながら歩く。エンリルは私の肩に止まったまま、興味津々で周りを見ている。
ルビーは比較的新しい本が並んでいる棚を舐めるように見ながら歩いている。尻尾が邪魔にならないように、ちゃんとまるめて小さくなっているあたり、ルビーの優しさが垣間見える。
しばらくの間、店の中を歩きまわって買おうと決めた本は二冊。【テイマーとして歩む】【簡単おいしい魔導で作るレシピブック】をお買い上げ。
エンリルは特に欲しいのが無かったみたい。ルビーに至っては、あれくらいのものなら、買って読まなくとももう覚えた、とのこと。すごいですね、ルビーさん……。
仏頂面のおじいさんにお金を払って店を出た。
買った本は旅の途中で読むんだ。料理が魔導で作れちゃうのにも驚いたけれど、載ってたお料理がおいしそうで、ついつい買っちゃった。
テイマーの本は、心得とかスキルが載ってて役立ちそうだったから。私、まだまだポンコツだし。
『(目的は果たしたな。出発するぞ)』
そして私達は、モロクを出た。
南へ下っていきながら、レベルを上げて、当座の目標はイレイドの谷! 頑張るぞー!




