エンリルのちから。
『あるじーおなかへったよー』
エンリルの声と共に、頭を突かれて目が覚めた。
『(今日は狩りをしに行くぞ)』
なるほど。さっさと起きろってことね。
出かける準備をして、朝ご飯はお店で食べようって決まったから出発。あの女の子がいるお店に向かうと、朝も早いというのに沢山のひとで賑わっていた。
今はエンリルも居るから店内に入ると邪魔になるので、テラス席のような、店外に構えてあるテーブルに着いた。ルビーとエンリルはテーブルを囲むようにして、おすわり。
「いらっしゃいませ!」と元気よく、あの奴隷のしるしのある女の子が来た。
「こっちのライグルは初めましてだね! 私はミーシャっていうの、よろしくね」
手のひらをエンリルの前に出して、「怖くないよー敵じゃないよー」と言っている。
この子は優しいから大丈夫だよとエンリルに思念通話で話しかけると、エンリルは差し出された手のひらに頭を乗せた。
「うわあ! ふわふわ! 可愛い!」
にこにこしてエンリルをひとしきり撫でると、こちらに向き直り「ごめんなさい、ご注文は?」と少し照れたように言った。
ルビーの好きなイエローブルの煮込みと、私は黒パンとシチュー、エンリルにはリプナスのサラダとイエローブルの煮込みを頼んだ。リプナスって見た事ないんだけれど、エンリルは葉っぱが好きそうだからサラダなら食べるかと思って注文してみた。
「お待たせしました!」と運ばれてくるお皿達。
私が食べている間に、ルビーとエンリルはあっという間に食べ終わっていた。
『おいしかったよー』
リプナスは見た感じ、お茄子に似ていた。エンリルに少し分けてもらったけど、食べるとレタスとセロリの中間のような味と食感に、ふんわりミントみたいな香りがした。ドレッシング? なのかな? サラダにかかっていたものも、マッチしていてとても美味しかった。
『(イエローブルはやはり美味い)』
ルビーもエンリルを見習って、お野菜美味しいって言ってみなさいよ。ほれ、とリプナスのサラダをルビーの口元にあてがうと、嫌々食べていた。
「お腹いっぱい、ごちそうさま!」
支払いの時に、ミーシャと名乗った女の子が対応してくれた。ルビーとエンリルを交互に撫でて、名残惜しそうに手を振った。
「またのお越しをお待ちしております!」
「美味しかったです、また来ますね」と返すと、より一層ニコッと笑って頭を下げてくれた。
……………………
モロクの町を出て、たどり着いたのはだだっ広い草原だった。見渡す限り何も居なさそうなんだけど、どうやって狩りを教えるのかな?
『(イオリは鈍いな)』
『なんかわかんないけど、いっぱいいるー』
えっ?! いっぱいいるの?
『(エンリル、自分の力で一匹だけ捕まえてみろ)』
『わかった!』
ダッダッダッと駈け出すエンリル。
くちばしを地面に向けて何度も突き立てるけれど、なんにも捕れていない。
渋い顔をしたルビーは、尻尾が苛々している。
『(お前の足についているのは何のための鉤爪だ!? 飾りか!? エンリル、お前は飛べる! それを頭に入れて狩るのだ!)』
ルビーのアドバイスにハッとしたエンリルは、ぶわっと飛び上がってホバリングして、狙いを定めて急降下! 鋭い鉤爪が地面を抉ると、爪先にネズミのような……トカゲのような生き物が引っかかっていた。
『(よくやった。素早い動きで中々捕まえるのが難しいのだが、一撃で仕留めるとは)』
『わーい! とったよー!』
ルビーに褒めてもらって、とっても嬉しそう。
『みてみてー!』って爪に引っかかったネズトカゲを私の顔の前に持ってくるエンリル……。褒めて……褒めてあげなきゃいけないけど……! グロい……。
『これ、おいしいかな?』
パクッと咥えるエンリル。
「だめ!! 美味しくないからペッしなさい!!」
『(そうだ。こいつは不味い。イオリ、食べた事があるのか? こんなものを……)』
ないよ。ないけど。生はだめ。
『おいしくないんだー。ちえっ』
ちゃんとペッしたネズトカゲに、エンリルが頭をコツンとぶつけると、死んでいたはずのネズトカゲが走り去っていった。
「エンリル……? 今の……」
ルビーは見ていなかったようで、どうした? と首を傾げている。
『たべないならやっつけちゃだめって、るびーがいったの。だからなおしてあげたのー』
『(治した……?)』
『ぼくのあたまで“ごっちん”ってすると、けががなおるみたいなの』
へー! ライグルって凄いね! 傷を治す力があるんだね!
『(……馬鹿を言うな。傷を治すものや、死んだものを蘇らせる力は聖魔導だぞ。ライグルがそんな魔導を使えるなど聞いた事がない……)』
『ぼくもはじめてつかったの。おそらをとべるようになってから、“ごっちん”がつかえるようになったんだよ!』
え、それって、もしかして……もしかしなくても……。
『(ああ……。エンリルはレア個体だ。それも特級のレアのな)』
……この世界に来て初めて、叫び声が出るくらい驚いてしまったのでした。




