ライグルの、エンリル。
『どこにいくのー?』
小さなライグルはルビーの背に乗っている私の膝の間で上手に座っている。
「大人になるための旅をするんだよ。私と、ルビーと一緒にね」
首を傾げるライグル。あ、名前つけないと、いつまでもライグルじゃかわいそうだよね。見た目はピヨちゃんって感じなんだけれど、大きくなっちゃったら全然ピヨじゃないし……。
『(……知らぬと思うが、名をつけるという事は魔力を分け与えるということだぞ。我とイオリの間には従伴契約があったから何も起きなかったが、ライグルは従伴ではない。どうなるかわからぬぞ)』
そうなの? 死んじゃったりしちゃう?! 身体のどこかが欠けちゃったりする?!
『(身体に異変が現れるといった事はないはずだが……)』
じゃあいいや。ちょっと止まって、とルビーに声をかけると岩陰に止まってくれた。膝の間にいるライグルを手のひらに乗せると、小さな羽をぱたぱたさせている。
「ねえライグル、いつまでもライグルだと呼びづらいし、あなたに名前をあげたいの」
『なまえ?』
「私はイオリ、こっちはルビーっていって、みんなひとつ名前を持っているの。わかる?」
『いおり、るびー!』
「あなたにも名前をつけていいかな?」
『いいよ!』
ぱたぱたと羽ばたいているが、浮かないライグル。これは喜んでいるのかな?
「じゃあ、あなたは……エンリル! 遠い遠い国の、昔のお話に出てくる風と嵐の神様のお名前だよ。立派なライグルになろうね!」
『えんりる!』
『(イオリ!)』
エンリルが宙に浮かんだと思ったら、黄色い閃光に包まれ、私は何だか身体から力が抜けてルビーの背中に突っ伏してしまった。
……………………
『(イオリ、しっかりしろ! イオリ!)』
ルビーの声と共にゆさゆさと身体を揺さぶられ目を開けると、そこにはいつものルビーと、ルビーの半分ほどの大きさのライグルが居た。
「ルビー……と……エンリル……?」
『(だから言ったであろう)』
「何だか力が抜けちゃって……」
『(魔力を分け与えるとは、そういうことだ)』
「エンリルは?」
『ここだよ!』
ばさばさと翼を動かし、私のそばに寄ってくる。
「……大きくなったんだね」
『うん! ありがとう! あるじのおかげだよ!』
「流暢に喋る事まで出来るようになってる……」
『(そうだな、それだけイオリの力が強いという事だ。それに、魔力を分けたせいか、イオリと同じ匂いがする)』
スンスンとエンリルの匂いをかぐルビー。
「よくわかんないけど、そうなの?」
『(そうだ)』
『まりょくいっぱいもらってごめんなさい』
「いいんだよ」
エンリルの頭を撫でると目をつむって気持ちよさそうにしている。
私はまだ身体が重くて、買い溜めしておいたメロンソーダを飲んでみると、かなりだるさが軽減された。
『(我も飲みたい。というか腹が減ったぞ)』
「そうだね、お腹空いちゃったね」
周りには誰も居ないみたい。
“固有スキル︙ショッピング+1を使用しますか?”
「はい」
『呼バレテ飛ビ出テ! ワンクルー! サテ、今日ノゴ注文ハ!?』
疲れてる時にこのテンションのワンクルー……ちょっとうざい……!
「フルーツトマトとリンゴと、エンリルって何を食べるんだろう」
『なんでもたべるよ!』
「じゃあ、フルーツトマトとリンゴ二つずつと、私は幕の内弁当にしようかな。あと、緑茶。メーカーの指定は特にないから、ワンクルーのチョイスでお願い」
『カシコマリマシタ! ドウゾ!』
「ありがとう、注文通りね」
『オ早ウカラオ休ミマデ! ワンクルーデシタ! マタノゴ利用オ待チシテオリマス!』
ラ○オンから苦情が来るからやめてくれないかな、ワンクルー……。
「ルビー、エンリル、ご飯食べよう」
はい、とフルーツトマトとリンゴを渡すと、ルビーは美味しそうに食べている。エンリルは見た事のないものだからか警戒して、立派な鉤爪でちょいちょいつついている。
『(食べてみろ)』とルビーがエンリルに促すと、恐る恐るくちばしで突いて器用に食べている。
あれ? ルビーとエンリル、会話が出来てる? エンリルの声って、最初はルビーにも聴こえなかったよね?
『(エンリルにイオリの力を分け与えたせいではないか? 我も初めてのことだ、よくわからぬ)』
もしゃもしゃとリンゴを頬張りながらルビーは言う。ルビーにわからないなら私にはもっとわからないし、意志の疎通が出来るようになったのは良い事だから、まぁいっか!
「今日の夜は私がご飯作るから、とりあえずはこれで我慢しておいてね」
お弁当を食べているとエンリルが不思議そうに覗く。
『それはあるじのたべるもの?おいしいの?』
「美味しいよ。食べる? はい」と、お弁当に入っていた白身魚のフライを差し出すと、パクっと食べるエンリル。どうやら口に合ったようで、『おいしい! おいしい!』と羽をばさばさ。
『(飛ぶ事をまず教えねばな……)』
ルビーがなんともいえない表情で、エンリルを見つめていた。




