ドワーフの頼みごと。
ミノオルグスの解体を頼むために、陽が高くなってから再度クランを訪ねてみた。沢山のひとで溢れたフロアを見ながら、カウンターの女の人に声をかけると、隣の倉庫へと促された。
倉庫もクランのひと達で賑わっていて、三番の部屋に案内された。かなり広い部屋で、真ん中にはルビーが横たわっても余るほどの台もある。担当が来るまで待っていてくれと言われたので、ルビーと思念通話でお喋りしながら十五分ほど待っていると、ノックの音が響いた。
「すまん! 待たせたな! 三番担当のリグルドだ!」と、ドワーフのような見た目の男のひとが入って来た。
「よ、よろしくお願いします!イオリと言います」
「お、レオパルか! 綺麗な毛並みだな! どれどれ、おおっ! 翼も素晴らしいな! こいつをさばくのかい?」
『(!?)』
クワッと目を開いて唸るルビー。
「違います !このレオパルは私の従伴のルビーですっ!!」
「そうなのか!? ハハハ!すまんな! 許せ、唸るな!」
リグルドさんはそう言って、ルビーの頭をわしゃわしゃ撫で回した。
「俺は見ての通りドワーフ族でな。里でもレオパルをよく扱っていたから勘違いしてしまった、本当にすまんな。で、どれを解体するんだ?」
……しまった。ミノオルグスをアイテムインベントリから出すの忘れてた。困っていると、リグルドさんはピンと来たようで「ちょっと用を足してくるから、その間に出しといてくれ」と部屋にある広い台を指差して、出て行った。
『(……ふん、察しのいい奴だ。ドワーフ族は鈍感な奴が多いのだが)』
フスンと鼻を鳴らしてルビーが言う。ささっとミノオルグスを台に出すと、リグルドさんが見計らったように戻って来た。
「ミノオルグスか! クランの依頼に出ていた奴か?!」
「そうです。素材は買い取ってもらいたいのですが」
「じゃあ肉は精肉にして渡せばいいんだな! レオパルの餌かい? いいもん喰ってんな! ハハハハ!」
夕方には出来るから、その頃にまた取りに来るようにとリグルドさんに言われてクランの倉庫を出た。暇ならピスラ山にある村に行ってミノオルグスが討伐された事を伝えて来てくれとついでのように頼まれた。
『(村に行ってみるか?)』
そうだね。もう大丈夫だよって伝えてあげないと、村のひと達モロクへも下りて来られないもんね。する事もないし、行ってみようよ。
『(では出発しよう)』
モロクの町を出て、ルビーの背に乗った。
……………………
二時間ほどピスラ山を登って行くと、中腹を少し越えたあたりで村が見えてきた。シバの町よりも小さく、木で出来たログハウスみたいなお家も数えるほどしかないみたいで、先を尖らせた丸太を連ねて防壁のように村をぐるりと囲んでいる。
入口と思しき所に着くと、少年が門番のように立っていた。
「こんにちは。村へお邪魔しても構いませんか?」
「モロクから来たのか? それはお前の従伴なのか?」と、銀髪の少年が言う。
よく見ると少年には、狐のようなお耳とフッサフサの尻尾がある。瞳は金色でとても綺麗だ。
「えと、ミノオルグスを討伐したので、そのご報告にまいりました。こちらのレオパルは私の従伴のルビーと言います」
「村長に聞いてくるから、待ってろ」
少年はそう言うと村の奥へ走っていった。
『(この村は獣人族の村のようだな)』
珍しそうにこちらを見ている村の全てのひとに、獣のお耳と尻尾が見てとれる。
『(戻って来たぞ)』
さっきの少年が走って来た。村長が会いたいと言っているので案内する、と奥へと進むと、一際大きなお家があった。中へと促されると、ウサギのような真っ白い長いお耳とおひげ、丸くて太いふさふさした尻尾をもった小柄なおじいさんが座っていた。
「よくいらっしゃった。村長のポムじゃ」
「初めまして、テイマーのイオリと申します。こちらは従伴のルビーです」
ルビーは頭を下げて、伏せの体制になった。
「此度は村から依頼していたミノオルグスの討伐が完了したとの事じゃが、まことか?」
「はい。討伐依頼書はクランへ提出してしまったので手元には無いのですが、リグルドさんに頼まれてこちらへ報告に参りました」
「そうか、態々すまなかったの。リグルドの名が出るのなら、まことじゃろうの」
おひげを撫でながら、ポムさんは言う。
「随分長いこと、あのミノオルグスが邪魔でモロクへも下りて行けず困っておったのじゃ。村を代表して礼を言おうぞ」
「いえいえ! そんな、とんでもないです……!」
「何もない村じゃが、ゆるりとされよ。これ、リュートこちらへ」
はい、と気持ちのいい返事とともに、リュートと呼ばれたさっきの少年が村長の前へ跪く。
「こちらの客人を案内し、もてなすように」
「わかりました」
ではこちらへ、と促されたので村長さんにぺこりと頭を下げてリュート君についていく。
「さっきは偉そうな物言いをしてすみませんでした」
困ったような申し訳なさそうな表情で、リュート君が言った。
「村を守るためだもんね、気にしてないよ」
そう返すと、はにかんで笑った。ユトさんもそうなんだけど、獣人族ってイケメンが多い……! リュート君も、きれいな顔立ちをしている。ボーッと見とれていたら「どうしました?」と顔を覗かれてびっくりした。
『(…………)』
ルビーがジトッと私を見る。何よ、そんなに見ないでよ。ちょっと見とれていただけだもん。
リュート君にひとまわり村を案内されて行き着いた先は、背の高い尖った丸太に囲まれた牧場のような広い草原だった。




