これから先の、予定は未定。
モロクの町のクランも行ってみようよってルビーをなだめて、何とかたどり着いた。
カランと音を鳴らし扉を開くと、シバの町の二倍ほどもありそうなフロアに、沢山のひとが居て、受付カウンターみたいなのもいくつもあって迷ったけれど、一番真ん中のカウンターの女の人に尋ねてみた。
「召喚術を扱える高名な魔導師様を探しているのですが、居場所をご存知ないでしょうか?」
「高名な、ということは空間転移などの召喚術ですか?」
『(……そうだ)』
「そうです」
「そうですね、近くはありませんがここより遥か東の端にあるアウロラという街に、召喚術の使える魔導師がおります。ただ、とても偏屈で街の人からも煙たがられているようですよ」
「詳しいですね」
「姉がアウロラに嫁いでいまして、退屈なのか街の話をいつも聞かされるんですよ」
「なるほど。アウロラですね、ありがとうございました!」
東の端かぁ……道のりは長いね。ルビーを見ると、クランの依頼ボードを眺めていた。何かおすすめの依頼があるの?
『(イオリ、我はこれが喰いたい)』
ちょっ! こんな所でよだれ垂らさないでよ! なに? なんなの? 討伐依頼……ミノオルグス……。牛のような風体だけど、ムッキムキで二本足な上に、両手には巨大な斧が握られた絵が描かれている。
これ、食べられるの……?
『(表面はほぼ筋肉で硬く喰えたものではないが、その下にある肉が柔らかく美味いのだ)』
ルビーのおかげで楽に旅が出来ているんだから、寄り道くらい構わないけど。またクランに解体頼まなきゃだね、これ。ルビーに討伐できるの?
『(我を何だと思っているのだ? ミノオルグスごとき簡単なものだ)』
フンス! と鼻を鳴らしてこちらを見やる。
やれやれ、やらなきゃ進まないね。ミノ何とかをやっといてから進む先を決めようか。
『(イレイドの谷は必ず行くぞ)』
わかってます。依頼書をピッと剥がすと、クランのフロアからワッと声があがった。
「ねえちゃん! それ、やるのかい!?」
「ずっと滞ってた依頼なんだぜ!」
「大丈夫なの? あなた……弱そうだけど……」
「ちゃんと見て取ったか? ミノタウロスじゃないんだぞ?」
む、ちょっと失礼なせりふが飛び交っているけど、間違ったわけじゃないのよー! としかめっ面をしていたら、ルビーが皆を遮るように前へ出てくれた。その瞬間ぴたりと静かになった。
「間違ったわけじゃないので大丈夫です!」
と、フロアに響き渡るほどの大声で叫んでクランを出た。
『(失礼なやつらだ)』
まったくだよ! 確かに私は弱いけど! ルビーは強いんだからね! あのひと達が束になったってかなわないんだからねっ!
ぷりぷりしながら歩いていたら、ルビーが笑っている。……なによ! 何がそんなにおかしいのよ! ルビーまで! と更に怒ると、頭を私の背中にごつんとぶつけてきた。
『(……我の友達はとてもいいやつだ)』
ルビーもいいこだよ! とぷりぷりしながら返すと、また笑っていた。
………………
お昼ご飯には遅すぎるので、夕食をあの女の子がいるご飯屋さんで食べようって事になった。ピンクのバンダナの女の子が凄く嬉しそうに「いらっしゃいませ! こちらへどうぞ!」と、ルビーをきらきらした目で見つめながら案内してくれた。
前と同じように、ルビーは身体を低くして、女の子は通るたびにルビーの頭を撫でていった。
ご飯は変わらず美味しくて、お腹いっぱいで宿屋に戻った。




