シバの町、散策。
『そろそろ起きろイオリ。重いぞ』
ルビーの声で、ふわふわの毛並みの大きな白猫のお腹に埋もれて目が覚めた。
「おはようルビー。ずっと動かないでいてくれたの? ごめんね」
『気持ちよさそうに寝ていたのでな』
起き上がって伸びをしていると、朝食が運ばれてきた。持ってきてくれたのはユトさんだった。
「おはようございますイオリさ……ん……」
「おはようございます! 朝ご飯ありがとう!」
返事をしながらユトさんの方を向くと、ルビーを見て固まっていた。
「ルビーですよ! コートで姿を変えているんです! 新しい従伴じゃないですよ!!」
「あ……ル、ルビーさんなのですか?」
『そうだ。いい毛並みだろう!』とルビーは自慢気に言い、シュッとした尻尾を丸めた。
「もしかして、レオパルの姿……なのですか……?」
『似ているだろう?』
「似ています! とってもいいですね!! 毛並みも羽も、純白で素晴らしいです……!」
ユトさんのテンションがうなぎのぼり。そういえばユトさんも猫っぽいお耳に尻尾だ。親近感わくのかな?
ユトさんに大絶賛されて、満足気なルビー。名残惜しそうにユトさんは「依頼があるので……」と去っていった。
『フハハハ! 我の姿に見惚れていたな!』
そんな可愛いニャンコの姿で高笑いしたってだめよ、ルビーさん。
「さっ、朝ご飯食べよう!」
『手……手が使えぬ……!』
今まで短いながらも手を上手に使っていたから、ちょっと不便そうだけど、すぐ慣れたみたいでお皿から上手に食べていた。
『さて。姿も変えられた事だ、次の町へ行くか?』
「うーん、シバの町の中を見てまわりたいなー。着替えも欲しいし」
『人間族は不便だな。ならば町へ出てみるとしようか』
しばらく町中を歩いてみたけど、周りの人たちはルビーの大きさに驚くだけで、従伴だと気づくとそれ以上の騒ぎはなかった。レオパル万歳! みたことないけど!
『(服が欲しいのだったな)』
そうだよー。この世界の服が欲しいの! ずっとショッピングで買ったやつ着てるから、洗いたいし。
町を歩いていると、服が並べられた店があったから入ってみた。気さくなおばさんが、いらっしゃい〜! と挨拶してくれて、店内を見てまわった。大きなルビーにびっくりしてたけど、従伴で危害は絶対に加えませんと説明したらルビーの頭を撫でてくれた。
『(怯えられず触られるのは初めてだ)』
私の従伴で危害も加えないってわかったら、見た目は可愛いニャンコだからね。あ、レオパルか。
『(嬉しいものだな)』
紅竜の姿の頃と同じように、尻尾がフッサフッサ動きまわってる。
私は外に並べられていたグレーのシャツとズボンをそれぞれ3セットずつ購入した。素材が何なのかはわからないけれど、手触りは綿のようで気持ちがいい。どうも色がきれいなものは高いみたいで、赤い色や青い色のものは大事そうに店内に並べられていた。
『(後はどこへ行く?)』
ルビーこそ、行ってみたい所はないの?
『(飯屋に行ってみたい)』
くいしんぼうルビー。でも、私もちょっとお腹が空いたしご飯食べられるお店に行こうか。
『(ここが飯屋のようだ)』
看板に何が書いてあるかわからないから、ルビー任せで店に入ると、店内の人たちから一瞬注目を浴びたけど、従伴とわかると皆、わいわいと食事に戻った。
空いてる席に座り、適当にメニューから選んで注文してみた。読めないし。ルビーはお座りをして私の横についている。
『(人が沢山いて賑やかだな。楽しそうに食事をしている)』
人と一緒に食べるご飯は美味しいもんね。私もずっとひとりだったから、ルビーとご飯食べるのとっても楽しいよ。
『(……我もだ)』
ふたりで脳内会話していると、頼んでいたものが運ばれてきた。結構ボリュームがあったけど半分こして、私が食べられなくなった残りもルビーがペロリと食べてくれた。
『(うまかった。特にイエローブルの肉の煮込みがうまかったな)』
うん。イエローブルの煮込みがどれかわかんないよね。
でも、美味しかった! また来ようね!
『(うむ)』
満腹になって、クランの宿屋に戻った。